8『変化』
ひと月ほど彷徨い、流離い、辿り着いたのは元自分のダンジョンであった。土で満タンの大釜ごと湖水へと入り、沈みゆく途中にスカルダーだけが101階層に到着していた。まるでダンジョンコアが大釜に嫉妬しているかのように。
そこへ2号さんが不意に現れた。ダンジョンコアへといろいろなモンスターの死骸を食べさせるが如く。
「スカルダー 両手でコアに触れて」
なにも考えていなかったスカルダーはやはり何も考えずに言われた通りの行動を起こす。しばらくするとダンジョンコアから藍色のフード付きロングコートが2着出てくる。その一着を2号さんが身に着けた。二つ目のコートをスカルダーに渡すと一言。
「着てみなさい」
無言のままコートを身に着けるスカルダー。
「まぁ良いでしょう、お揃いなのが気に入らないけど、いつかもっと上位の素材で私の分は作り直しますから。それは100位ちょうどのモンスターの皮で作らせたものです。あなたが目指すのはそこですよ。
いつまでも遊んでいないで、北半球のダンジョンは後4つです。その後は南半球を目指しなさい。行けば分かります。あとは少しダンジョンからオリハルコンをもらっていくわ。」
消えかけていた骸骨の目の奥の光が再び灯った。
2号は親切でやったのではない。今地上では魔王がダンジョンで圧死したとの噂が巡り巡っているため、身を隠さないと移動すら困難であることを知っていたから。そうなればダンジョン4つ潰すまでの時間が2号には惜しく感じられた。ダンジョンコアに触れられないラムダの代わりにつきっきりになるのはスカルダーでもよいと考えたからだ。
そこからのスカルダーは大釜をもっと丈夫に作り直してほしいとダンジョンコアに駄々っ子の甘えのようにしぶとく頼み続けた。
この世界の魔法は、体から発射し目的地で効果を発揮するのではない。目的地で発現させることが純魔法の本質だった。唯一口から発射し目的をなすのはドラゴンだけであったのだが。この骨は人の身でありながらも【稲妻みたいなぁ】という離れ業を会得した人間だった。その後スカルドラゴンが得意技とするのを見て【光の線】にまでブラッシュアップさせたのはリッチロードの真骨頂ともいえる。
ダンジョンコアはついでのように、大鎌も研ぎなおし柄を付け替えて出す。甘やかし過ぎである。
しまいにはラムダまでもが残りの4つのダンジョンを自分でつぶすと言い放ち、あとは分かってるわねと2号へ仕事(趣味)を任せては飛び出していった。
好都合だった。何ならスカルダーはすでに沈まない大釜に乗って海へと乗り出していたからだ。それが魔法ではないと知ったらへこませることもできたのだが、2号は2号でダンジョンコアにそのような知識まで教えていたのだろう。
時々フードをパタパタさせたり、ポケットを触ってみたり大鎌が進んできた後ろを見ていたり、いい、いいんだスカルダー、そのほうがお前らしい、つるんで動いてもお前の利にはならない。忘れてしまいなさい、そのほうが私の出番が増えるというもの。ふっふっふはっはっは、あ、ひっくり返された。
くっそ~立ち直るのが早い。もうすぐだろ、この惑星の上位陣がうごめいているのは。ふっふっふはっはっは、お前には無様さが足りてない。さっきのような迅速な立て直しは、誰も求めてはいないのだよ。
でかっ、あ、飲まれた。その展開はだめだ。嘘つくと鼻が伸びるあの権利関係がちがちのあれじゃん。何とか出て来い。おいデカブツ、どこへ行くつもりだ。やっべー危うく私まで見失いかけた。あれ、なんか増えてる。どれだっけっか。
うっそーん、お前なんか背中?からプッシューとか後ろからプリッとかで出てくるタイプじゃん。何やってんの、大鎌を大鎌として使いやがって、くっそーほらその他大きな大勢ども、やっちまいな、ちっ、まぁいいや。陸地が見えてきた。あれとかが赤道直下の強者だらけの列島であろう。
うぉぃ、飽きた、私は飽きてきた。何真面目に強化特訓編とか初めてんのさ。眠らないし食わないしボロボロにならないし、たまに海にも入ってるからかそれほど汚れてもいない感じだし。このクッソ暑い中で人っぽいのは一人もいないのに、コートまで新品同様だしついでに大釜も。大鎌だけだよ切れ味が悪くて引き裂いてるのは。あーあ、ついにこの赤道直下をぐるりと回ってしまった。
おいっ、2週目ってわかってないのか?負けは負けでいいじゃん、結構上位陣になって来たんだし。
ついにこの列島とその沿岸部では敵なしになってしまった。もしかするとメカドラゴンに並んだのか?900オッパイなのか?もういいよさっさと南行けよ。着いたら教えろ。
ちょっ、おいっ、あれ、なぁ、あれ、あれが山なのか?デカすぎるだろ。行くのか?行くんだぁ。
おまえあれから3年も特訓編やってたんだぞ。はっ、ちがう、間違えてるのは私だ。こんなバカでかい山があるくらいだ。面白そうな事の一つや2つは転がってるかもしれん。気を引き締めよう。
着いたけど、あの山の大陸に行くんじゃないのかよ。あ~流されたのねん。ルルルンルルルン。
「おい、いないのか?この大鎌の研ぎを頼みたいのだが」
「大きな声を出すな、うるせぇだ、いや~~~、食わないで下さい、おいらぁまじめに働いている鍛冶屋なんだよ。頼むから食わないで」
「ああ、食わないから、頼めるか?」
「ミ、ミスリルじゃねぇかよ。こりゃぁ本職に頼んだほうがいい」
「どこへ行けばいい」
「それ持って付いて来てくれ…さい」
ちょ、ちょーっと待て。お前誰だ。スカルダーの真似をしたのか、嘘だろ、3年くらいでキャラ変わったのか?初っ端から人間相手に話しかけるとか、随分と思い切ったじゃないか。私は少し寂しい。
「これはずいぶんと使いすぎたな、刃先が丸くなってるぞ。切れるわけがない」
「頼めないか?」
「1行で済ませようってんなら自分でやりな」
「じゃぁ頼む」
「けっ。1行じゃねえかよ。まぁいい、3大陸中探したってこの砥石はここにしかねえ。先代が意地張って50年だ、ここまで砥石っぽくなったのは。高いぜ。それでもいいってんならだ」
「どうすればいい」
「これと同じものを持ってきたらって言いたいが」
「それだと2年くらいはかかるかもな、それオリハルコンだぞ。誰も加工なんてできない」
「えっ他にもあるのか?」
「あるが、遠いぞ。人間が行くなら半分くらいが精一杯だ。必ず死ぬ」
「あんたには頼めないのか?」
「2年もあるなら自力でも斜めに立てるようになるだろ」
「何言ってんだか分らんが気分が乗って来た。ミスリルなら最悪、共ずりで研磨できるしな。久しぶりに使いますか、俺春子さんとやらで」
お前に突っ込むほど私は安くないんですよ。それよりだ。斜めに立つって言ったぞ、ボケ~っとしてたら斜めに立つって言ったぞ、3年振りくらいじゃ無いだろうか。ふふっ、いいぞいいぞ、その方向でいいんだぞスカルダーお前は。
「おお、いたいた。スカルダー何行方不明になってるんだよ、まぁ探してもいなかったけど」
「マイゴッド、お久しぶりです。どうされましたか」
「何か【我】のバカと【オニ】のバカがそわそわしてる。いやな予感がするからさっさと強くなっとけよ。後、あの一番デカい大陸の山だけど海からは行けないからな。お前も空飛んだり走ったりできないとたどり着けないぞ。宇宙に出ようってんならなおさらだ。俺のおすすめは窯に乗って飛ぶ、だ。練習しとけ。ん?ああ大鎌かちょっと貸せ。へーオリハルコンで刃先コーティングしようか触らなきゃいいんだよ触らなきゃ」
そういうとどこかからオリハルコンを取り出し6感を使い大鎌の刃先をコーティングした。
「だいぶ綺麗にコーティングしたから、あとは本職に仕上げを頼め。急げよ強さランク。あまり時間がないと思ってる」
じゃぁなと空を走り消え去って行った方向を見てると忘れていた存在がやかましい。
「お、おい物騒な兄さん、誰だあの兄さんは、それ紛れもなくこの砥石と同じなんだがとろーりととかして刃にくっ付けて行ったけど、何なんだあの人は」
「知らずともよい、それよりも仕上げとやらを頼むぞ。私は飛ぶ練習をしてくるのでな」
実は何も分かっていないスカルダーは唯一理解できたのが飛べなければあのでかい山にはたどり着けないということだけだった。
それからは、しばしば空を飛ぶ大釜を見たという噂が笑い話となって広まっていくのであった。




