5『発見 小さなダンジョンー逆襲の三人称ー』
彷徨っていた。いや、迷っていた。道で迷うなどというべた設定ではない。自分が与えられた任務のことだ。どちらを先にすればいいのか迷っていた。ダンジョンをつぶすのかダンジョンに入るのか。
ーーーーイッショダローーーイッショダローーーもういい、もう振り切った。さっきまでの私はただの3人称だった。もうね、こいつがね、頭いいはずなのにどの方角なら頭いいのかわからないっ。
スカルダー貴様に挑戦状をたたきつけよう、私は幻の4人称となるっ。4次元殺法で進める。
「風がやかましいな」
何言ってんだろ、無風だよ無風。バーカバーカ。
「そこだっ」
だからなんで魔法の無駄打ちでかっこつけようするのさ。って、えええええ、なんか出た。
「うおっ、何だあれ、うちのダンジョンの入り口に似てるぞ」
ズッリー、ズルいは、ご都合主義っお前はそっちにつくというのか。上等だよ。
普通に入っていくスカルダー。お前っ、さっきの迷いは置いてきちゃったのか、おいっ、そこのところどうよ。
地下1階、ヤギだ、単体でヤギがいる。スカルダーは戦わない。遠巻きに足をなるべく静かに引きずりながらすでに見えている地下2階への階段へ。小さい、自分のダンジョンしか知らないスカルダーにとっては、これはダンジョンなのかといったレベルで小さい。ただの獣ばかりで魔物すらいない。
1度も戦闘することなく地下3階層に到着。ボロい木が杭となって2本立っている。その間にはゴブリンが立っていた。この先はなさそうだし、そのまた後ろには小さな珠が地面に置いてあった。スカルダーは迷いもせずに慣れた手で背中の皮を剥ぎ取ってから殺処分。近くの水たまりで漂泊の魔導で洗い始めた。
ダンジョンコアらしきものを潰してからここまで10分、何なら降りてきた時間のほうが何倍も掛かっていたりする。だが漂白完了まであとは干しておくだけだった時に、ダンジョンがつぶれ始める。だんだん狭くなってきた。これはまずいと思うもこの二人羽織ハゲは素早く退避という事ができない。結果一階層で身動きが取れなくなる。ゴブ皮紙は離さない。
湖の底ならば呼吸の必要がないだけで歩いて渡ったのだが、土中に埋もれては動けない。おのれに【グアッ】をかけても埋もれたままだ。生まれたままと似てるとか考えながら埋まってる。もうずっと埋まってればいいのに。3日経った。不意に体が妙な感覚に包まれるとそこには2号さんがいた。地表に。
「えっ、あれ?2号さんてば魔法も使えるの?今のは何という魔法でしょうか?」
2号さんはオリハルコンアンドロイドとして魔法の取得も兼ねながら魔法と科学双方のいいとこどりを目指していたため、そこのバカハゲが人だったころの60年以上もの時間を2日目でメカドラゴンに付け加えたり、重力魔法も反重力との合わせ技で、ラムダの使用している空中の絶対座標上での静止、からの走るまでとかなり優秀なのだった。
が、今使ったのは絶対座標での転移だった。スカルダーが生物判定されていないからなのか、それともこの世界特有の理がザル状のお陰か、神がいい加減だからかわからないが、2号さんの実験には貢献する事となった。
「に、2号さん、本当に助かりました。ありがとうございます」
「この先にはもう一つ小さめのダンジョンがありました。それが済んだら反対方向へ行く事を進めます」
そういうと2号さんは消えた。
「あっ、そういえば1話目は呼べと言われていたんだった。どうしよう」
今か、今なのかそれを思い出すのは、なんかすげぇ腹立つ。
「あんまりかっこよくなかったからなぁ、無しで」
ぶった切りやがったこいつ。く、――――ぐぬ――――
「そういえば悪役って言われたような。悪がよくわからんな」
そういうともう泥だらけのゴブ皮紙をねじり始め、かぶっていたコートの後頭部へと回し鼻の下で結んだ。
なんでだー、なんでこの世界のバカがそれを知ってるんだぁぁぁぁ。
「よし行くか」
立ち姿が様になってきてはいたが歩くとやはり無様なままだった。 ――ぷっ――
全然面白くないからっ、だいじょうぶふっくっ そのねじりゴブ皮紙はやめてくれないかなぁ…
手も袖の中だし後ろは長すぎて引きずってるし。
興味の向くまま2号さんが指示した方向へと近づいてはいるが、最短距離ではなかった。ある日は盗賊らしき集団、約20名ほどだったか、と鉢合わせ洞窟の中にまで大きな【焔】をぶちかまし全滅させた。その際に洞窟の中には奴隷候補6名もいたのだが全滅している。
またある時は偶然、道のあるほうへと向かっていただけなのだが、ゴブリンどもが逃げ始め道へと出る頃には50という数にもなっていて通りかかった馬車へと襲い掛かった。この領地の代官となるはずだった第1王女が王都へと向かう最中だったのだがゴブリンどもの慰み者となるくらいならと潔く自決した。スカルダーはそちらへは行ってなかったのに。
この領地には海がある。それ故に栄えてもいたのだが陸地の見える範囲でのみ貿易を行っていたため、皆がここが世界の果てであると思い違いをしていたままだったのは、スカルダーが人であった頃から何も変わってはいなかった。
「おやおやぁ、知ってる風景だな。この海は我が国の主要港だったはず、王領でもあった」
人々はこの国は竜の里から最も遠い国の一つだと思い込んでいるが、実は2番目に近い国でもあった。海さえ渡れれば。現メカドラゴンはこの海を渡って来ていた。ドラゴンでさえ勘違いするほどの距離なのであった。
「うーん、匂いも分かるものなんだな、海の匂いばかりだが。2号さんは一体どこでダンジョンを見つけたのだろうな」
遠くからスカルダーを観察する者がいた。音をたてぬようにそっとその場を離れ大急ぎで領主の邸へと向かう。
「なんだとっ、ま、魔王と申したか」
「は、はい、奇妙な格好をして海を見ていましたが港のほうを向いたときにはっきりと見ました。あれは骸骨、リッチに違いありません。今代の魔王はリッチという噂、事実かと。あれほど離れた場所まで魔力を垂れ流してくるとは」
コートのおかげで随分と垂れ流し魔力は抑えてあるのだが、本人が抑えねばならないと自覚していないためそんな妙な勘違いが生まれる。
”魔王現る”の一報は瞬く間に王領に広まった。誰もいなくなった港に到着すると
「随分とさびれたものだ」などとのたまう。お・ま・え・だ、お前に決まってんだろうがデコボコはげがぁー。お前が左半身を使えれば歴代魔王とかのレベルではないというのに。その身であっても今代の魔王は瞬殺してきただろうが。
「あっ、魔王にご近所のあいさつするんだった。うーむ、ダンジョン潰してからにしよう」
アホか---、おまえが、お前が~
その時だった。べたな展開がよく起こる。小さな子供が小さな動物を追いかけてスカルダーの後ろを走った。その子を追いかけて母親らしき人も飛び出してきた。スカルダーに急速な動作を求めてはならない。転ぶからだ。右手だけを後ろに回して【グアッ】を使う。小さな動物も子供も母親も潰れた。即死だった。この際スカルダーが転んだのはどうでもよい。
「なんだ人ではないか、焦って損した、よいしょっと」
だからその姿でよいしょっととかいうなよ、くっそー。
だが子供たちがつぶれた場所はゆっくりと陥没し始めしまいには大穴に飲み込まれた。ダンジョンだった。
これはダンジョンっぽいなどとぬかし自身も落ちてみた。海だった。地下1階層で間違いではないが海だった。海中に沈みながら己と同等の大きさの肉食系の魔物にかじられていても海底に到着した。真っ暗だった。




