4『回想、階層日記』
88階層 どれほどの月日が流れただろう。これほど見た目もコアさえも変質したというのに、ここまで誰にも何物にも邪魔されず、引きずりながら進んできた。
66階層 やはりだ。ふっふっふ、恐れているのだろうな。まぁ分からなくもない。だんだん私もマイゴッドのカッコイイが分かってきた。恐れるがよい。
44階層 むーん。罠まで私に気を遣うのだろうか、思いっきり踏んだりしたぞ。どうなっているのだろうか。もしかすると2ごうさんの優しさでできているのだろうか。
22階層 ふむ。時々見かけるようになったのは魔族とやらであろうか。半身を引きずってはいるが慰めはいらぬ。私には重要な…んっと、何かがあるのだからな。邪魔をしてくれるなよ。
2階層 因縁の2階層だな、やはりいるな。これだけ遠ければ私には気づくまい。もう羊皮紙はあきらめたからな。今使っているのはゴブリンの背中の皮を殺す前に引きはがす、そうしないと死体はすぐに消えてしまうからな。ゴブ皮紙は外は緑、中は黒、きれいに漂白しないと紙として使えないからな。まぁ 慣れだよ慣れ。 おいっなぜこっちへ来る、また群れでこちらへ、やめろやめてくれうわーーー
101階層 うん、見覚えのあるコアだ。うん見覚えのある部屋だ。また2階層の羊か。なぜ私だとわかったのか。他にも子供のような者たちもいたではないか。あれから何百年たってると思っているのだ。世代交代が行われてないかのように、私を明確に狙って群れが跳ね飛ばし、踏みつけを何度も繰り返し、地面に埋もれた時にはもうダンジョンに飲み込まれている。しかもご丁寧に私の部屋まで荷物を届けるかのように。ーーーKU YA SI Iーーー
なぁダンジョンコア、お前は私を覚えているのか?一階層まで運んでくれよ、ください。ぬぉっ。
1階層 こ、ここは湖の底なのか?1階層なのか?あの頃の湖までダンジョンの中だったとは知らなかったが、ダンジョンコアー、ありがとー。ああ、ああ、皆まで言うな、わかっている2号さんには内緒だろ、大丈夫私は君の気持を読める男だ、ん?男であってるのか?まぁよい、ここまでくればこちらのものよ。いざ、ダンジョンの外へ。
「外だぁ~」
正確な年数など分からないが開けていた湖畔はおそらくダンジョンが取り込んだのだろう。木が密集して林立していた。そこにある木は1本ごとに、妙な気配がする。目標にさえ辿り着けていない者は、そこがゴールであった。そのため研究者魂が発動し、その木々を観察、実験、研究を何度か繰り返して分かったのはこの木は魔素を掴んでいる。吸収するでもなく吐き出すのでもなくそこにある魔素を掴む、そんな妙な特質を持っていた。
分かってしまうと自分にとって有用かどうかで判断が変わる。スカルダーは己の体自体がオリハルコンを使いまくっていたため魔素には無頓着になっている。ついでに目標さえも忘れているが魔素の薄い方へと進んだ。正解である。そちらも実は濃いのだが、さらに濃い方にはラムダのダンジョンがある。
スカルダーを作った自称神でさえも12年もたつと凛々しい青年へと変貌を遂げていたし、そもそも12年も執着するような感性は無い。スカルダーだけがあがき苦しみ。涙…はないが、湖畔から上がって来た時には右目からは大量の水を、まるで大泣きしたかのように流していたが、12年もかけて登って来たとは本人?も思ってもいない。
ボロボロだったロングコートも最後の一片を羊のスタンピードで失う事となり、強烈な魔力を放つ異形といったところであった。あふれ出る魔力を木々は掴もうとする。これでは掴み切れないとなった木々は成長し、大きくなることでその魔力を掴もうとする。
スカルダーの歩いた後は少しずつ木々が成長するメルヘンロードと化した。さらに1日片足を軽快に引きずって歩くと町らしき文明の痕跡が見えるようになった。人間たちの町のようでもあるが決定的に違うのは一つ一つの家がでかい
度が広く高いスカルダーはその身長190㎝を超える。その倍ほどの高さがあるドアなど一体どんな者の家なのか見渡すが、だれもいない。その先へと進んで行くと小さな声が聞こえ始めてきた。
「何だあれは、恐ろしい。今代の魔王様方では退けることができるであろうか」
「先代の魔王様は歴代でも屈指と聞いたが、今代の魔王様はあの時の4天王の一人であろう。無理だろう」
「だがあれから10年は経って居る。それにあの容貌は異形ではあるが、片足を引きずっているではないか」
「誰でもいい助けてくれ。先代が亡くなられた時はそれ以上の手出しをしないでどこかへと帰っていったと聞いた」
意外と渋い大人の声で、「良ければ手を貸そうか」などと尋ねると頭に角をはやした連中らがばらばらに逃げ去る。本人はその得体のしれない異形を何とかしてやろうと考えたのだが、逃げ去ってしまってはどうにもできない。
しばらく無人の町を進むと少しばかり立派な建物が見える。そこには武器を携え立派な家の中へと住民達を非難させた新四天王が待ち構えていた。「手を貸そうか」そんな問いかけをしたのが裏目に出た。強そうには見えないが、武器を振るってみる者や何やら呪文じみた何かを唱え始めるものまでいたが、スカルダーは新四天王に背中を向けて「来るなら来い、私は簡単ではないぞ」と一緒に戦うポーズを見せた。
ガキンッ
後頭部に槍が当たって、砕けたのは槍だ。
「な、なんだとっ」と豚っぽいデカ物が驚きの声を上げると
「何すんだよ」純粋に何をされたかわからなかったスカルダーは偉大だ。
「何が来るのだ、どんなやつだ、私が来たのだからおびえる必要はない」まだそんなことを言っているスカルダーは偉大だった。
「ああでも、体中が派手に光ってる女性だったら私は逃げる」…偉大だ、と思う…
だが次の瞬間だ。後ろから転ばされ4体の魔族に蹴られまくる。ピクリともしないスカルダーに四天王が叫ぶと門の内側から住民たちがあふれ出してくる。だがここまでされてもスカルダーは偉大なのだった。これだけやれば敵も姿を現すだろうと思っていたりするスカルダーは死んだふり続行を決定。
…偉大なわけねぇじゃんっ。
「魔王様、これこの通りです。われら四天王にかかればどれほどの異形であっても、え、えあれ」
「何事かと構えればただのリッチではないか、ほれ【グアッ】」
バキッバキボキッグワシャン、魔王は、リッチだった何かに変形し、2度と立ち上がることはなかった。
「これで皆無事に過ごせるだろう、報酬はそこなオーガが身にまとっているコートでよいぞ」
四天王の一人オーガキングがすぐさまコートを脱ぎスカルダーに渡す。このコートは12年前にラムダに瞬殺されたオーガエンペラーの形見であった。要するに防御面でも質の高いコートを同じオーガ族ということで身に纏っていたものだ。
そのコートはスカルダーには大きすぎたのだが、フードがついていないと言って、後ろ襟を頭頂部にかぶせてもまだ引きずっていたがそのまま来た道を引き返していった。うん、どう見ても2人羽織状態だよね。うん、正直、最初っから偉大には見えなかったからね。スカルダーはそれでいいや。
ただこのコート、スカルダーの駄々洩れ魔力をぴたりと隠せる優れものなのだが、オーガが着ていた時点で魔力云々とは無縁だと勘違いし続けるのだった。




