1『こ、こいつ動かないぞ』
「ラムダ、地面のぬかるみがひどくなって来たんだが」
「座標をお使いするか、マスターの使っている6感で移動するかでよいかと」
「足元ばかりに集中すれば出来ないことはないが、景色を見ながら楽しみたいだろう?」
「先日マッハ2を超えたとおっしゃっていたかと思うのですが、オニの10mボディーならマッハ3も届きうると愚考します。なれば、足元に集中していたらあの戦闘機を追い抜くことはできなかったでしょう」
「だよなぁ、でも現実として【歩く】と、【止まる】、は足元に集中していないとすぐに落ちてしまうし、座標などさらに厄介だ」
「少し開けてきましたよ」
「ああ、ほんとうだ。何かいるのだろーーーーーぬおーーーーーーーっ」
「あら、飲み込まれたのでしょうか。ついて行きますか」
ずどっにゅるーんずどっ。そんな音だけを残し凛道は落ち続けていく。本人は数えていないが、100を超えたところで床につま先からへそまで突き刺さった状態でやっと止まった。少し遅れてラムダがその隣にきれいな立ち姿で着地した。
その場所は図書館の様でもあり、研究室の様でもあった。もう少し観察を続けると椅子に座って振り向いた状態で固まっているぼろい黒のロングコートを身にまとった骸骨がいた。骸骨の下あごは外れていた。
下あごを床から拾い上げ、何事も無かったかのように元の場所へと付け直すと「き、君たちは何だ」
「それはこちらのセリフだ。何の嫌がらせだ、次々と落ちるような落とし穴の連続、終わりが無いかとも思ったくらいだ。何度も何度も床が抜けるとはさすがの俺でも驚いた」
「あほう、貴様は天井という天井をぶち破って降ってきた不法侵入者だ」
「ふざけるな俺は次々に抜け落ちる床に翻弄された被害者だ」
「天井だ」
「床だっ」
「天井だっ」
「床だ」
「はぁはぁはぁ、このダンジョンの攻略を狙ってのモノならば、いかにも私がこのダンジョンのダンジョンマスターだ。本来ならば隣の闘技場に階段で降りて来るのだが、その点は見逃してやろう、ついて参れ最深層にはこの世で最も強き者がいた事を忘れずにあの世へと行かせてやろう」
「はぁはぁはぁ、上等だ、と言いたいところだがこの床はどうなっている?抜けないぞ」
「ダンジョンの床が抜けるとは初めてだ。それ程柔ではないのだよ」
二人とも呼吸の必要がないのに息遣いが荒いのは両者合意の上での芝居か何かなのか、気の合う二人だった。
「まぁ仕方がない。床だと認めた事には敬意を送ろう。それと戦うのは俺でもラムダでもない。骸骨如きの相手など今から作ってやる。せいぜいあがけ。という事だからここに素材を準備しろ。貴様が勝てるように劣化していたとしても構わないぞ」
「いいかよく聞け、この最下層に到達したのは今まで2組の連中だけだ。私は自室で椅子に座り机に向かって研究のレポートを作成していた。が、だ。挑戦者が闘技場に到達するとダンジョンマスターの私が競技場に転移する仕掛けがあったのには驚いたものだ。突然椅子を引かれたかのように後ろにコロンと転がった。奴らはそれを見て最初は沈黙していたが笑い始めた。この私を指さして笑ったのだ。腹を抱えて笑ったのだ。二組目の時も同じだったよ。全員即座に殺処分とした」
「いいから準備しろよ」
「語りたくなる時ってあるだろ、今だった」
――ー
「……で、これがとっておき、オリハルコンだ。この世界でこのダンジョンの深層域にしかない。地上に持ち帰ったものもいない」
それは美しくも蛍光オレンジ色を発行し続けるミスリルの上位互換の素材であった。
唯一オリハルコンを所有するダンジョンというのは間違っていないが、加工できないことが難題であり、骸骨、リッチロードですらどうにもできない、使えない素材であった。
ガチャゴチャガンガンガチャゴチャゴンゴン
「できた」
「それはアンドロイドへと全面転換した際のサイボーグ。それの最後期型ではありませんか」ラムダの指摘は鋭い
「ち、違うぞ。アンドロイドだぞ」言い訳がどんどん幼稚になっていく凛道【俺】バージョン。
「いやいやそうではない、なぜオリハルコンが紺色になってしまったのだ」加工できてしまったオリハルコンを前に驚愕を飛び越え賞賛に値するところをぎりぎりで持ち直すリッチロード「ごちゃごちゃうるさいっ骸骨野郎、バラバラの粉々になればいい。行け1号」
ポカスカポカスカガチャゴチャバゴーーン
「ああ、1号ーーー」
「どうだ、ひぃひぃひぃ、私の勝ちだ」最後はリッチロードが人間だった時に開発した雷もどきだった。これで倒したドラゴンとはお互いが骨となってから友情が芽生え、リッチとなった後も相棒と呼ぶくらいには長い付き合いだった。
「おまえもぼろぼろじゃねえか」「ちょっと待ってろコアにさえたどり着けば」
「待たせたな、な、なんだその破廉恥なオリハルコン人形は」裸を通り超えた先の骸骨のセリフがこれである。
「【俺】のあほうが迷惑をかけたようだ。【我】がまともな機体を作っておいたからこいつと腕比べでもしてみてくれ」
カッコよさげなセリフをへそまで地面に埋まったまま吐き捨ててまた主体を【俺】に預けた。
その場には全身オリハルコンの蛍光オレンジの女性型アンドロイドが立っていた。髪の毛他、全身に毛はなく、顔は目の部分が横一線上に目隠しをしたかのようでもあり乳房や股間にはあるべきものがない、へそすらも無い。どこかラムダの裸体に似てる気もする凛道【俺】であった。
【俺】の特徴としては。直列を使わない、記録野を見る気が一切ないからだ。感覚で行動してしまうあほうでありながら正解を掴んでいたりする。他人に任せられるなら丸投げであったり、任せられないところも投げっぱなしだったりする。今回もまたその正解に辿り着いていた。
「よし、雪辱戦だ。行け――2号さん」
勝負はあっという間だった。骸骨、いや、リッチロードは何もできずにバラバラの粉々になっていたが核だけはそのまま残されていた。
「うおー2号さんかっこいいいいいい。おい骨、お前コアのところまで行けるのか?」
「無理ですな、ここまでです。コアを破壊するでも吸収するでも、新たなダンジョンマスターとなるもあなた方の自由だ」
「よし、じゃぁ2号さんはこのダンジョンの支配権を獲得してきて。そしたらここで俺の注文通りの鋼材とか出してくれ」
トンテンカンカンキンコントンテンカンカンキンコン
「よしできた。後はこの機体に核を移植して、いや良いこと思いついた。核をオリハルコンでコーティングしよう」
「こんなもんかな。そーっとそーっと、よし完成だ。かっこいい。お前は今日から神が造った神造モンスター、スカルボーグ種。名はスカルダーだ。完璧。いいかお前はこの世の悪を追求する最悪のモンスターでありながらも、何らかの裏設定を持っていて、何気にかっこいい悪役として活躍するんだ」
「マスター、裏設定とは何でしょうか」
「わからないから裏設定だ」
「はあ、では悪とは具体的にどのような事を指しているのでしょう」
「地球侵略とかかな」
「それはマスターがしてきた事です」
「はっそうだった。アメリカ海どうなってるかなぁ。って俺って悪なの?」
「マスターは神となられました」
微妙に話を横にそらしたラムダであった。
「おいっ、スカルダー。何でじっとしているのだ。体は作ってやっただろうに」
「ちょっとどけ、頭のこの部分をこうしてここをこうするとここをこう変換できる、あとはこうかな」
「こら【我】勝手に改造するなよな…ま、まぁいい、さぁ動け」よーく見ると理にかなったスマートな改変と無理なく強化してあったそれを見て文句を付けられなかった【俺】
「動きませんね。死んだのでしょうか」
「骸骨だったんだから死んでただろうに。自分で自分の姿を見てみろ。右半身は骸骨っぽく作ったが素材は骨ではないぞ、艶消しの黒い骨ってのがいい感じだろ?左半身はサイボーグ。頭頂部がサイボーグの左半身の方が高くなっているところがポイントだ。左頭は目から上がメカメカしい中身が見えるようになっているのもかっこいい」
やはりサイボーグなんだと思っても口には出さないラムダである。
「……こ、こいつ動かないぞ」
「動きませんね」
「ちょっとどけ、おいっスカルダーとやら、次に我と会う時にこの世界での強者ランキング100位までに入っていなければ、貴様の存在は消す。俺は優しいからな、個体ランクではなく種族ランクでいいぞ」
「あっちゃー【我】のバカが無茶言いやがる。ここ異世界なんだろ、勇者ではない人が妙に活躍する世界なんだろ、きっと。2号さんスカルダーの面倒も見てやってほしい。武器はやっぱり大鎌だよね、頼んだよ」
闘技場から上へと階段で登る凛道に座標での移動を提案しなかったのはラムダのミスだった。
一つ上の階には復活した骨ドラゴンがいた。早速ボコってメカドラゴン制作に付き合わされたラムダは、いそいそと2号を呼びに行くのだった。
初めまして。よろしくお願いします。




