第1章 権力論
――垂直の硬直を、水平の構造へと持ち直す
1. 権力は「垂直の構造」として現れる
権力は、個人の意思や暴力ではなく、まず 構造 として現れる。
上下、中心と周縁、発話者と沈黙者、規範と逸脱――
これらはすべて、揺れを嫌う 垂直の配置 である。
権力は、
• 予測不能性を排除し
• 逸脱を矯正し
• 沈黙を監視し
• 非対称性を固定し
• 更新可能性を封じる
という形で、世界を「揺れないもの」として扱おうとする。
しかし、世界は揺れている。
揺れを否認する構造は、必ずどこかで破綻する。
2. 権力は“残響”として働き続ける
権力は、行使された瞬間だけに存在するのではない。
むしろ、権力の本質は 行使された“後”に残る構造的な残響 にある。
• かつての規範が、今も身体を縛る
• かつての上下関係が、沈黙を生み続ける
• かつての制度が、現在の選択肢を狭める
権力は、過去の出来事ではなく、
現在の可能性を制限する構造として働く。
水平の意志が向き合うべきなのは、
権力の暴力ではなく、
権力の残響である。
3. 善意の内部に潜む権力の硬直
権力は、悪意からだけ生まれるわけではない。
むしろ、善意の内部にこそ、
もっとも強い硬直が生まれる。
• 「あなたのためを思って」
• 「正しいことをしているだけ」
• 「皆のために必要だから」
善意は、揺れを排除するためのもっとも強力な言語である。
善意は、垂直の構造を正当化し、硬直させる。
水平の意志は、善意を否定しない。
しかし、善意が構造を硬直させる瞬間を
構造として観察する。
4. 権力は“沈黙”の中で最大化する
沈黙は、弱さではない。
沈黙は、構造の影がもっとも濃く落ちる場所である。
• 語れない
• 語らない
• 語ることが許されない
この三つは異なるが、外からは区別されない。
権力は、沈黙を「空白」とみなし、
そこに自らの線を引き込む。
水平の意志は、沈黙を空白ではなく、
構造の一部として扱う。
沈黙を守ることは、
権力の硬直を遅らせる技術である。
**5. 権力の硬直点
――水平の意志が直面する壁**
水平の意志が社会に実装されるとき、
必ず三つの硬直点にぶつかる。
① 役割の固定化(家族・職場)
支える側/支えられる側が固定される。
② 規範の固定化(教育・制度)
「正しさ」が揺れを許さない。
③ 情報の固定化(デジタル空間)
アルゴリズムが偏りを増幅し、沈黙を不可視化する。
これらはすべて、
垂直の構造が揺れを拒否する現象である。
**6. 権力の建築学
――垂直の構造を水平に持ち直す三つの技法**
水平の意志は、権力と正面から闘わない。
権力を「敵」とみなすのではなく、
硬直した構造として扱い、持ち直す。
そのための技法は三つある。
**① 透明化(Transparency)
――権力の“見えなさ”を可視化する**
透明化は、告発ではない。
構造の輪郭を浮かび上がらせる技術である。
• 家族の沈黙
• 職場の暗黙の了解
• SNSのアルゴリズム
• 教育の「当たり前」
これらを暴露ではなく、
構造として可視化する。
**② 減速(Deceleration)
――権力の速度を落とす**
権力は、速度によって強化される。
• 即断
• 即応
• 即評価
• 即排除
水平の意志は、
関係の速度を落とすことで、
権力の硬直を緩める。
減速は、抵抗ではない。
揺れを取り戻すための時間の確保である。
**③ 再配列(Reconfiguration)
――権力の線を引き直す**
権力は、線を固定する。
• 上/下
• 正常/異常
• 中心/周縁
• 発話者/沈黙者
水平の意志は、
この線を消すのではなく、
別の角度から引き直す。
再配列とは、
権力の構造を破壊するのではなく、
揺れを吸収できる構造へと再設計する技術である。
**7. 権力は消えない
――だからこそ、運用されなければならない**
権力は、なくならない。
なくすべきでもない。
権力は、
• 関係を支え
• 役割を生み
• 責任を分配し
• コミュニティを維持する
ための 構造的エネルギーでもある。
問題は、権力が揺れを許さなくなるときだ。
水平の意志は、
権力を破壊するのではなく、
権力を運用する。
権力を、
倒す対象ではなく、
倒れない構造へと変換する素材として扱う。
**8. 結語:
権力の後を生きるための水平の意志**
権力は、揺れを嫌う。
しかし、揺れを否認する権力は、
必ずどこかで壊れる。
水平の意志は、
権力の敵ではない。
権力の補強材である。
権力が硬直するとき、
水平の意志は揺れを取り戻し、
構造を持ち直し、
倒れない形へと変換する。
権力は、水平の意志を必要としている。
そして水平の意志は、
権力の“後”を生きるための技術である。




