スキンシップは、ほどほどに
食後に一服のまを置いて、由奈、美鈴、絢音の3人は、男子たちと同様に徒歩で温浴施設に訪れた。
入り口のステンレス製の看板は温かみのある光にライトアップされ、同じく暖色系の室内灯に照らされた受付兼ショップの雰囲気は高級なスパを思わせる。
キャンプついでの入浴施設にしては気合の入れ方が違うその外観に、
「これは……、すごいね……」
由奈は思わず率直な感想を口に漏らした。
「うんっ……、これは正直想像以上だった……」
「こんないいところ、本当にいいのかな……?」
美鈴と絢音も口々に感想を漏らすと、
「ねぇねぇ!よく見ると天井に薪みたいなの吊るされてない!?」
建物の天井裏に指を差しながら、美鈴がテンション高く言った。
「ほんとだっ。なんかすごくオシャレだね。でもコウくんとか、“火事になったらよく燃えそう“とか言っちゃうんだろうなぁ」
由奈はそんな想像すると、苦笑しながら口に漏らす。
「めっちゃいいそう! 新田せんせー、デリカシーない所あるしっ」
美鈴がそう肯定すると、絢音は控えめな苦笑いを浮かべる。
そんなこんなあって、由奈たちは無事に受付を済ませ、地下の更衣室入り口も難なくパスした。
男子が使った反対側の更衣室とは違い、ホワイトベージュを基調とした明るめな印象の更衣室。とはいえアメニティやロッカーに埋め込められた給水所などはしっかりと完備されており、雰囲気は少し違えど漂う高級感は相変わらず健在だった。
そんな更衣室に「すごいすごいっ」とテンシャン高くはしゃぐ女子高生2人と一緒に、由奈も内心期待に胸を膨らませながら徐々に服を脱いでいく。
程なくして女子3人は皆全裸になると、3人揃って浴場に足を踏み入れた。
「うわぁ……」
「これはっ……」
絢音と由奈が口々に短い感想を漏らす。
暖色系の間接照明だけで照らされた浴場内に、重厚な雰囲気を感じる石敷の床と洗い場。
必要以上の灯りはなく、むしろ所によっては薄暗い浴場内の雰囲気は、まさに高級なスパを思わせる。
そんな何処か日常と離れた光景に、
「すっごくえっちな雰囲気だねっ」
美鈴がいつもの調子で感想を口にした。
「ちょ、美鈴ちゃんっ……」
「え、えっちって……」
顔を赤くしながらも、由奈と絢音は呆れまじりに残念さを隠しもしない目で美鈴を見る。
そんな2人の反応に、美鈴は頭に“はて?“疑問符を浮かべると、
「なんか私、変なこと言ったっ?」
小首を傾けながら素直な疑問を由奈たちに向ける。
美鈴の反応に由奈たちは顔を見合わせると、クスッと笑って、そのまま洗い場へと足を進めた。
一方、自分の言動に意外な反応ばかり返して、状況についていけていない美鈴は、
「ちょ、ちょっと2人とも!何その反応!ねぇてばぁ!」
足を滑らせないように気をつけながらも、慌てた足取りで由奈たちの後ろを追うのだった。
*
しばらくして由奈たちは、設営で流した汗を洗い場で丁寧に洗い流した。
ほぼ同時に身体を洗いを得た女子3人は、皆自然と内風呂の方に足を向けると、誰からともなく肩までゆっくりと身体をお湯に浸ける。
「ふぅ……」
「あったかぁい……」
由奈と美鈴は、自然と口から息をつくように各々漏らす。
程よい温度に保たれたお湯は、慣れない疲れを溜めた彼女たちの疲労を溶かしていった。
「お風呂広いし、雰囲気はいいし……。キャンプってなんか、いいかもぉ……」
完全に表情筋を緩ませた表情で、絢音は力が抜けていくのを感じながらポツリと漏らす。
「アヤ、なんかお湯に溶けそうっ」
「だって気持ちいいんだもーんっ」
「そのままおっぱいも溶けちゃえばいいのに……」
「も、もうっ!美鈴ちゃんそればっかりっ」
絢音は美鈴の戯言に、ハッと顔を赤らめながら片腕で胸を隠すそぶりを見せる。
これに美鈴は少し拗ねたような表情で、頬を膨らませながらポツリとこぼす。
「だってぇ……、新田せんせーが男子はみんな、“おっきい方が好き“だっていうから……」
受付時に宏太が口にした大きな失言に、美鈴は「んーっ」と唸りながらそう訴える。
そんな美鈴をフォローしようとしたのか、髪をお団子の形にまとめた由奈が口を開いた。
「美鈴ちゃん、あのスケベ教師が言うことは、気にしなくていいんだよ?あれは新田先生がバカなだけなんだからっ」
由奈の容赦のない言葉に、美鈴と絢音が苦笑いを浮かべた。
だがここぞとばかりに、絢音は追従するように口を開く。
「でもそうだよ!それに美鈴ちゃんの……、その……、胸、……だって、平均以上くらいじゃん!」
絢音はこういう話題に慣れていないのか、もじもじと恥ずかしそうに言いながら顔を半分お湯につける。
そんな彼女の様子に、美鈴はニヤッと悪い笑みを浮かべると、
「おやっ? アヤってもしかして意外とウブな感じ?」
「う、うぅ……」
「美鈴ちゃん、あんまり絢音ちゃんをいじめないであげてっ」
恥ずかしそうにお湯をぶくぶくとさせる絢音に、由奈もまた苦笑いを浮かべながら美鈴に軽い調子で言う。
「アヤったら、可愛いとこあるじゃーんっ」
美鈴はさらに追い打ちをかけるように一言加えると、絢音はさらに顔を赤らめてぶくぶくと顔を沈めていった。
「まったくもうっ」
由奈は呆れながらも、そんな2人の女子生徒の馴れ合いを温かい目で見守るのだった。
*
その後、由奈の「せっかくだし、外にも行ってみようかっ」という提案によって、美鈴たち3人は、内湯から露天風呂に場所を移した。
先ほどの内湯と打って変わり、屋外の山の澄んだ空気漂う広めの浴槽は、比較的遅めの時間ということもあって由奈たち3人の貸切状態だった。
「なんか、静かでいいね……」
ポーッと目を閉じながら縁に両腕を置いて寛ぐ絢音。
その後ろで由奈と美鈴は顔を見合わせると、徐に美鈴が口を開いた。
「アヤ、決心できた?」
「何にぃ?」
「爽くんのこと」
「決心も何も、私は同じこと言うだけだよぉ」
「同じこと?」
「私はこの同好会には入らないってこと」
「いや、そう言うことじゃなくて……」
「分かってるよぉ」
絢音は伸び切った声から一転して、真面目な表情を作ると、再び口を開く。
「私、美鈴ちゃんのおかげで、やっと決心できたんだ。これから私、お父さんとお母さんとちゃんと向かう。だから、”爽くんの助けはいらない”って、ちゃんと伝える」
両腕をお湯の中に戻した絢音は、後ろで肩までお湯に浸かっている美鈴たちと向き合うように座り直す。
「今までの私ってさ、ずっとお父さんたちのことを勝手に怖がって、理不尽なことばかり言う酷い親だって思ってたんだ。だけど、お父さんたちは私のためを思って言ってくれているところもあるんだよね。薄々分かってたし、期待してくれていたのも分かるんだけど、今思うとそれにわたし疲れちゃってたんだ」
温泉の心地よさからか、絢音はとめど目もなく今まで抱えていた弱さを自然と吐露する。
そんな彼女に真剣な眼差しを向ける由奈と美鈴に、絢音は少し相好を崩したように表情を緩ませると、
「私ってさ、“肝心なところでよくポカしちゃうところある“って言われるんだけど、本当にそうだった。でもいくら気持ちが病んでいるからって、一番あり得ないことしてたよね」
再び真剣な表情を作った絢音は、美鈴にまっすぐな目で心からの感謝の言葉を伝えた。
「だから美鈴ちゃん、ありがとう」
「えっ……?」
「私に“バカなことしてた“って教えてくれてーーキャンプに誘ってくれて、ホントにありがとう」
誠意の籠った真剣な声で感謝を口にする絢音。
これには美鈴はおろか、隣に座る由奈さえも驚きに思わず彼女の姿に見入ってしまう。
(よかった……。絢音ちゃん、これなら大丈夫そうかな)
由奈は内心でそんな安堵を覚えながら、自然と表情をほころばせた。
だが一方の美鈴は、しばらくの間を開けると急に声を上げる。
「べ、別にっ!私はただ爽くんがいつまでもアヤに付き纏ってるんが気に入らなかっただけだしっ」
由奈と絢音の視線が、同時に美鈴へと向いた。
その頬は赤く、視線は明後日の方へと向いていた。
(わ、分かりやすいっ……)
由奈がそう思うや否や、
「ぷっ」
絢音が小さく吹き出した。
「なっ!急に笑うとこあったっ!?」
「だって美鈴ちゃんも、肝心なところ“ポカ“してるんだなぁって思って」
「ポカって何よっ!別にホントのこと言っただけだしっ!」
絢音の指摘に美鈴は強がりながら反論するも、
「それ、本気で言ってるっ?」
由奈も笑いながら追従した。
これに美鈴は慌てた様子で、
「由奈せんせーまで!? どう言うことっ!?」
「美鈴ちゃん、キャンプ始めてから“わざと“絢音ちゃんに刺々しい態度してたでしょ?」
「そ、そそそんなことないでふぅひぃ!」
最後の方は完全に噛みつつ、由奈の指摘に顔を真っ赤にして否定する美鈴。
透かさず絢音は、ニヤッと表情を作ると、
「美鈴ちゃん、可愛いとこあるじゃーんっ!」
「あぁ!それ私の真似っ!?」
「仕返しだよぉだ!」
周りに人がいないことをいいことに、バチャバチャと戯れ会い始める美鈴と絢音。
由奈は知らないことであるが、彼女たちの険悪な雰囲気はすっかりと鳴りを顰め、ただ目の前には年相応にはしゃぐ女子生徒の姿があった。
「まったくもぉ……」
呆れながらも、柔らかい表情で見守る由奈。
刹那、
「えいっ!」
美鈴の手から放たれた水の弾丸が、由奈の顔を軽く濡らす。
「由奈せんせー、隙ありぃ!」
悪戯が成功した子供のようなーーというよりも、そのものの表情を向ける美鈴。
これに由奈は僅かに口角を上げると、
「やったなぁ! 生徒相手だからって、容赦しないよっ!」
久々に童心にかえって、女子メンバー3人は全裸でお湯を掛け合うのだった。




