彼女は始めて、道を外す
私はただ、寂しかった。
家族に理解されず、友達から向けられる憐れみの視線や同情を、いつしか嫌うようになっていた。
だから、一定のところで線を引く。
けれど、その線を越えられそうになれば、私は引いた線の上に壁を作り続けた。
つまり――私に心を許せる相手は、誰もいなかった。
いや、そもそも初めから、心を許すつもりなんてなかったのかもしれない。
自分は寂しがっているくせに、相手が近づこうとすればするほど拒絶する。
言われなくても分かっている。
私の気持ちは、ひどく矛盾していた。
それでも、同情されることの方がずっと辛かった。
――私は可哀そうな女子じゃない。
毎日を楽しく、明るく過ごすことができる、順風満帆な生徒。
もはや虚像となったそんな姿でいた方が、同情されるよりも楽だった。
でもやっぱり、寂しさだけは何物にも埋められなかった。
だから私は、その矛先をネットの知らない誰かに向けた。
自分の身の内は決して明かさない。
けれど、不思議と「偽物の自分」の方が、自分らしくいられる気がした。
下心を向けてくる人がほとんどだった。
それでも、誰かに話を聞いてもらえるだけで、ほんの少し呼吸ができる気がした。
私は決して、誰とも会わなかった。
メッセージのやり取りだけで十分だった。
――本当は、それでよかった。
けれど。
菅谷君の優しさが、それを壊した。
どれだけ壁を高くしても、彼は乗り越えてこようとする。
なら、もっとその壁を高くしなきゃ。
私が嫌悪する「同情」から逃げるために。
私の心の平穏を、守るために。
――だから、初めて。
私は、その人と会うことを決めた。
あまりにも苦しい現実から逃げるために。
毒にもなり得る薬を、初めて口にするような恐怖と期待を抱きながら。
その薬の正体が“ヤバい薬”だと分かっていても、私はもう、縋るしかなかった。




