0025-夜の森
現在時刻は7時、仮眠のおかげで疲れも取れ、配信の準備は万端だ。
「よし、始めるか」
配信開始。
「みなさんこんばんは、トマです、今から続きやっていくのじゃ」
[1時間半ぶりだな]
[配信頻度高すぎ]
「今はゲーム内時間も夜なので、夜の探索をやっていく予定なのじゃ」
レベルも高くなってるし、第一エリアの夜くらいなら戦える気がする。
「昨日はシャドウウルフに瞬殺されたから、リベンジできたらいいなって感じなのじゃ」
今の所俺がボス以外で純粋に負けたのは、シャドウウルフだけだ、ボス以外に負けっぱなしと言うのは悔しいので、リベンジはしておきたいところだ。
昨日シャドウウルフがいたのは東の森だ、ゴブリンの集落があるあの森だ。
今日はあの森をさまよってみようと思う。
「じゃあ、早速向かっていくのじゃ」
俺は、東の門へ歩いてゆく。
夜は長いし、急ぐ必要もないだろう。
と、ここであることを思いついた。
「いや…松明とか売ってるかな?」
一旦道を戻る、森は暗いから、松明でもランタンでも、明るい何かがないと、絶対怖い。
「一回、雑貨屋がある通りにいくのじゃ」
売ってないかもしれないが、確認の意味も込めて行ってみよう。
街の中もそこそこ暗く、昼とは街の雰囲気が違うから、夜の街歩きも楽しそうだ。
雑談しながらゆっくり歩き、雑貨類が売っている通りまでやってきた。
「売ってるとしたらどこの店だろ」
[普通に雑貨屋]
[雑貨屋か道具屋]
目の前にちょうど雑貨屋があるので入ってみる。
中に入ると、所狭しと様々な商品が置かれている、でも大体が何に使うか分からないようなものばかりだ。
この中からあるか分からない灯りアイテムを探すのは難しいな、店員に聞いてみよう。
「すみません、ランタンとかありますか?」
奥の方にNPCがいたから聞いてみる。
「ありますよ、手持ちタイプと腰に取り付けるタイプがございます」
いつのように変な店員じゃなくて普通の店員が答えてくれた。
「手は空けといた方がいいよね…腰に付けるタイプを見せてもらえますか?」
店員に言えば、すぐに持ってきてくれる。
持ってきてくれたランタンは結構小さいやつなのに、かなり光っている。
「これは、魔力加工されてるので、値段は高めですが、かなり明るいランタンです」
魔力加工?なにそれ、聞いてみよう。
「魔力加工ってなんなのじゃ?」
店員さんは笑顔で教えてくれる、これがモーマンなら面倒くさそうな顔をするところだ。
「魔導技師が魔力を込めると、通常よりも効果が高くなって、その際に魔力を使うから、魔力加工って言われてます」
なるほど、物に魔力を込められるのか、魔剣とかも作れるのかな?
まぁ、いいやこれ買おう。
「それ一つください」
「はい、5000ゴールドです」
え、高くない?これランタンだよね?
「こちらのランタンは一度火をつけたら3日は消えないので、便利なんですけど、その分高いんですよね」
仕方ない、買うと言ってしまったし、払うか。
ランタンを手にして、俺は店を出た。
「ベルトに付けてっと」
値段は高かったけど、いい買い物だったと思うことにしよう。
実際、だいぶ明るくなっている感じはする。
「じゃあ改めて、東の森に出陣なのじゃ」
再び東の森に向かって歩いていく。
そして、しばらく歩き、街の外に出ると、一気に暗くなった。
「これ、ランタン買っておいて良かったのじゃ」
街の外は暗い、ランタンがあっても5メートル先くらいまでしか見えないレベルだ。
[暗いな]
[やってる人は怖そう]
というか、昨日は空見なかったから気づかなかったけど、夜の空やばいな。
月っぽいのが4つぐらいあるし、全部色が違う、赤・青・白・黄色、カラフルで綺麗だ。
それに星もすごい、天の川みたいな感じで星が並んでるのが見える、幻想的だ。
「星すげぇのじゃ」
[月が綺麗ですね]
[幻想風景って感じ]
でも、もう森に入ってしまう、森に入ったら星は見えないかなぁ。
森に足を踏み入れると、さらに暗くなった気がする、星明かりも遮られるので、さっきよりも暗くなったのだ。
森の中は静かで、虫の鳴く音、風で葉が揺れる音、
そこに響く俺の足音…
「ホラゲーみたいなのじゃ」
これで急に敵が出てきたら泣ける、そのレベルで怖い。
「雰囲気はいいんだけど…」
そこからしばらく、ちょっとした音とかにびくびくしながらも進んでいく。
昼間と比べるとその速度は10分の1以下だった。
と、ここで、後ろから草むらが揺れる音がした。
「ひっ、何?」
[びくびくで草]
[ビビりすぎだろ]
後ろを振り返ると、何かが動くのが見える。
「暗くてよく見えないのじゃ」
どうやら敵みたいだから、鑑定してみる。
シャドウウルフLv24
HP 300/300
レベルが高いなぁ!夜ってだけでこんなの出てくるのか。
「この前は瞬殺されたけど、今日はそう簡単にはやられないぞ!」
そのとき、シャドウウルフの影が伸びて、俺の足元に向かってきているのが見えた。
「おっと」
この前は真っ暗だったから分からなかったけど、影を伸ばして攻撃してきているみたいだ。
「これがこの前動けなかった原因かな?」
名前の通り、影を使って攻撃してくるんだろう。
「だけど、明かりがあれば避けるのは簡単だぜ!」
影はあまり早く動くわけでもないので、避けることはできる。
「ふっ」
近づいて、攻撃してみる。
が、思ったよりもシャドウウルフは素早くて、暗闇の中に消えてしまう。
「あんまり離れられると見えない!」
シャドウウルフを見失って、探していると、暗闇から何か飛んできた。
メイスで弾いたとき、飛んできたのが何かがわかった。
飛んできたのは影だった。
影が具現化したものとでも言えばいいのか、とにかく影が固まったものが飛んできていた。
そして、その影は俺のメイスを覆っていく。
「やば!」
武器を手放したら俺の負けだ、だから手を離せない、そして、影が俺の手まで伸びてきて、俺はそのまま影に全身を覆われてしまった。
「あれ、生きてる?」
影に覆われはしたが、別に死ぬわけでは無いみたいだ。
ここからどうしようかなと思っていると、胸に痛みを感じた、そして胸を見てみると、鋭く黒い爪が俺の胸を貫いていた。
「ごふっ…」
どうやらシャドウウルフに爪で貫かれたみたいだ、影による拘束からの攻撃、強すぎるだろ…
そして、気がつけば街に戻ってきていた。
「はぁ」
[拘束えぐすぎ]
[弾くこともできないのかよ]
あれ、ボスより強いだろ。
「リベンジはしばらくできそうに無いのじゃ…」
てか、もう夜に探索行きたく無い、怖い…
「街の外に出たく無いから、街の中でできそうなことでもするのじゃ」
ギルド行って街の中でできそうなクエストでもやろ。
[拘束されて胸を刺されるの怖すぎる]
[あれって魔法なのかな?]
「じゃあとりあえずギルドに行ってみるのじゃ」
初心者エリアに出てくる異常な強さの徘徊系中ボス、あるあるですよね。




