第2幕 第9話 同票の作り方
夜。廊下の見回り、拍子木、鈴。
瞬間停電(十呼吸)は来なかった。代わりに、詰所の障子が一度だけ白く、すぐ暗に戻る。
朝。点呼。
「――宮守 たかお」
返事は、ない。
前周と同じ場所が、また空いた。本殿裏。俺は胸ポケットのメモに“既視”と書く。
広間。昨夜の居場所三行申告をもう一度、早めに回す。
長谷川が言う。
「詰所の障子は二十時半に一瞬白。その前後で犬は吠えていない」
「本殿裏の小道、踏み跡は?」
俺が問うと、かぐらが静かに頷く。
「行きが重く、帰りが軽い。……今朝も同じ残り方でした」
議題は整った。
俺は昨日と同じ型で二人に票が集まる導線を作る――ただし相手を変える。
神谷 勝に向く“言葉の強さ”と、“本殿側に近い”宮守 たかおの名。
机の上の紙に、時間の線を引いて見せる。二十時半/二十三時。
古谷 清が、咳払いのあとで言う。
「同票がええのか」
「村長の癖を見るために、もう一度だけ」
俺は正直に出す。「誰を残し、誰を切るか。癖が見えれば、最終日に使える」
紙が集まり、札が置かれる。
同数。神谷 勝と宮守 たかお。
田島は目を閉じ、一度だけ息を整えたあと、告げた。
「――宮守 たかおさん」
血縁を切った。その瞬間、広間の温度が一段冷えた。
だが基準は変わっていない。強い声と場の推進力を残す――彼女は道具として冷静だ。
昼が終わる。
夜。俺は窓辺に固定する。詰所の障子の白と暗、本殿裏の小道。
拍子木が二度。鈴が一度。
灯りは落ちない。かわりに、本殿側の闇がほんの一瞬だけ濃くなる。
雨は弱い。足音は少ない。提灯の油の匂いは……薄い。