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第2幕 第8話 再スタート

カーナビは北東の空を指し、雨は細い藁の線をガラスに描く。

 俺はメモを開き、太字で書いた。


 縄の向こうで、箱を提げた少年がこちらを見る。

 名前は――穴のまま。呼べない。胸の奥が薄く冷える。

 民宿、湯気、畳、田島 ちかの「夜は戸を開けないで」。すべて既視感の上に乗って進む。


 朝、神社。鈴が鳴り、名簿が読み上げられる。


「――早見 しゅん」


 返事は、ない。

 同じ朝だ。同じ始まりだ。広間に移ると、宮守 かぐらがルールを短く復唱する。


「昼は多数決で一人を処刑、夜は人狼が一人を襲撃。投票内訳は非公開。同票のときだけ村長が最終決定」


 配られた紙に“昨夜の居場所”を三行で記す。

 俺は呼吸を整え、言う。


「初日は処刑で。……ただ、同票になったときの決め方も見たい。村長に、どう決めるかの基準を先に言ってもらえませんか」


 広間の視線が少しだけ動く。田島 ちかは短く頷いた。


「人を減らしすぎないこと。議論が止まっている側より、動かせる側を残す。以上です」


 議論が動き出す。昨夜の音の記憶も、灯りの食い違いもまだない。初日は、言葉の量と質しかない。

 俺は神谷 勝の「外来者が多く喋るのは怪しい」を受け流し、本題から逸れた話を丁寧に切る。票が散らばるように、しかし二人に集まるように、少しずつ角度をつける。


 紙が回り、数が置かれた。

 同数。神谷 勝と――直売所の子。

 名前が出てこない。でも顔と声は、昨日のままそこにある。


「――最終決定を出します」


 田島は二人を見て、一拍だけ間を置き、静かに言った。


「直売所の……あなた」


 また、彼女は強い声より弱い声を切った。

 鈴が一度鳴り、昼が終わる。


 夜は――外に出ない。窓辺と廊下、詰所の障子、本殿裏の影。

 俺はメモに線を引いた。

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