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最終幕 第28話 縄の止む夜
その夜――拍子木は鳴らない。
鈴も鳴らない。
十呼吸は来ず、灯りは落ちない。
外で、村の縄が一度だけ鳴り、すぐに止む。
雨の音がただの雨に戻る。
窓辺で息を止めていた自分に気づき、笑ってしまう。夜が夜でなくなる瞬間は、思っていたより静かだ。
朝。石段。名簿。
「――早見 しゅん」
返事がある。
最初の朝に欠け続けたあの名が、戻ってくる。
胸ポケットのノートに、俺はゆっくりと書く。“名前は呼べた”。
広間で、かぐらが小さく頭を下げる。
「……お疲れさまでした。終わりました」




