第2幕 第11話 誤算
朝。点呼。
「――古谷 清」
返事は、ない。
胸の内側が冷える。昨日、票が傾いた“勝”ではない。肩幅の影は詰所を通過した。
広間。田島が淡々と進行する。
「昨夜の停電(十呼吸)、小道入口の白、足音二→一――ここまで一致。
詰所前は通過、という外側観測も確認した。……今日の多数決に入る前に、占い」
かぐらの睫毛がわずかに震え、しかし――静かに首を横に振る。
黒は、まだ。
「では――投票」
田島が紙を配る。「同票は村長。投票内訳は非公開」
筆先が紙に触れる音が、呼吸の長さを揃えていく。
結果――同数。相馬みなと/神谷勝。
円の視線が重くなる。前周の残像が、喉の奥にひやりと触る。
「――最終決定を出します」
田島の声は、ほんの少しだけ掠れたが、よく通った。
「神谷 勝さん」
空気が、わずかに解けた。
勝は短く笑い、肩の力を抜く。
「なるほどな。弱い声を切ってきた手で、今日は俺か。……じゃあ、夜を見せてもらおう」
鈴が鳴り、昼が終わる。
その夜。
拍子木、鈴。灯りが落ちる。十呼吸。
闇の中で、廊下の板が沈む音が近づく。
戸は叩かれない。戸口の向こうに、気配だけが張り付く。
鍵に触れようとした指が、冷たい金属に触れた瞬間――戸の向こう側で静かな息がひとつ。
俺は、息を止めた。
次の瞬間、鍵が内側から軽く揺れた。
――違う。俺は触っていない。
何かが鍵に触れた。
反射で後ずさり、布団と机の間に身を滑らせる。窓の外、小道入口が白く、すぐ黒に戻る。
足音はない。代わりに、床下から一度だけ軋み。
十呼吸の闇が明け、灯りが戻る。
鈴が二度。夜が終わる合図。
朝。点呼。
相馬 みなと――返事は、ある。
代わりに、田島 ちかの名で、返事が途切れた。
広間に、誰も声を出せない沈黙が落ちる。
村長の席が、初めて空いた。
その日の多数決は、混乱の中で進み、票は散った。
最終決定を出す人がいない。
同数のまま――処刑なしで夜へ。
夜。拍子木。鈴。灯りが落ちる。十呼吸。
窓の外、詰所の障子は白にならない。
床板が二度、違う場所で軋む。
鍵がもう一度だけ揺れ――
雨の糸が、耳の奥で切れた。
*
目を開けると、カーナビは北東の空を指していた。
ワイパーが藁の線を描く。縄が道をふさぐ。
メモ帳の最初のページに、インクの穴が増えている。
直売所の……
村長の……
――名前が、もうひとつ抜けた。
読了ありがとうございます。周回2は、同票を意図的に作って村長の癖を読む→外側観測を固定する実験編でした。
想定外は村長の離脱。これで同票=処刑なしが発生しやすくなり、盤面が一気に不利に。新規手掛かりは鍵が“内側から”揺れた異常と、提灯の油の匂い(強弱)、小道入口の一瞬の白です。
次幕(周回3)は、同票穴の代替手段(共有者の運用/占いの出し方最適化)と、詰所の灯り問題の決着に踏み込みます。ブクマ・★で応援いただけると励みになります。




