浄化の神子たちの想い
夕方。
あと一時間後に浄化の儀式が始まる。
俺は借りた部屋から出て、ユミルの自室に向かった。
ドアを軽く二回ノックしてから、すぐに現れたユミルはとびっきりの笑顔だ。
「もうすぐで儀式の時間だね!」
「……ああ。ちゃんと仮眠は取れたか?」
「ばっちり! それに良い夢を見れたの、長年抱いてたことが叶う夢!」
「正夢になるといいな」
「なるよ。かならず」
この森のように澄み切った表情を見せる彼女に、俺も自然と頬が緩む。
「──ユミル」
俺はその名を記憶に刻みつけるようにゆっくりと明瞭な声で呼ぶ。
きっとこれが彼女との最後の会話になるから。
「俺を助けてくれてありがとう」
ユミルは少しだけ驚きに目を見開き、小首をかしげる。
「どうしたの? 急に改まっちゃって」
「今日は浄化の神子に感謝する日だろ。まだちゃんとお礼を伝えてなかったからさ」
「わたしは偶然に居合わせて街に案内しただけだよ。まだキヨツグは迷ったままだし」
「いや。ユミルのおかげでようやく迷いから抜け出す出口が見つかったよ」
「んん? どゆこと?」
自覚がないほど人想いな彼女だからこそ、問わずにはいられなかった。
「なぁ。もし……もしさ、今とは違う人生を歩めるとしたらユミルはどんな人生を選んだ?」
脈絡のない質問に、ユミルは少々困惑しつつも「んー、そだなぁ」と考える素振りをして、
「森の外の景色とか食べ物とか気になるから兄さんみたいな商人になってみたいし、ラナフィナのような魔女になって思う存分魔法を使ってもみたいし、思いきって男の子になってみるのも面白いかも」
「じゃあ今のじんせ……」
「──でも、なんだかんだ言っても最終的にわたしはこの人生を選ぶかな」
「……そっか」
愚問だった。やっぱりユミルの、ユミルたちの幸せは俺と違うものだったんだ。
「そういうキヨツグはどうなの?」
「俺は……俺も同じかな。じゃないとユミルに出会えずにこうして楽しく会話できてないからな」
「もしかしてわたしを口説いてる?」
「そんなつもりはないけどな」
「……なんか、さっきからキヨツグ変」
「気のせいだよ。俺はいつもこんな感じだぞ」
「だって意味深なことばっかり言ってくるから。結論は何なの?」
「……じつは特に意味はなくて、その……言おうか迷ったんだけど、寝汗で服が透けてて……」
「えっ! うそっ!?」
「うそ」
「もうっ! 結局わたしをからかってるだけじゃん!」
大仰な反応に笑いを堪えられない。
このままずっと、この他愛のない、けれど気持ちが温かくなる会話を続けていたい。
でも彼女の幸せを叶えてあげたいから。
せめて彼女の意志を、努力を、想いを尊重してあげたいから。
後ろ髪を引かれる思いから言うことを躊躇う口をなんとか開け、言葉を絞り出す。
「もう儀式の時間が近づいてるな。このまま御神木に行くのか?」
「どうやら今のわたしは汗がすごいようなので水浴びしてから行きますよーだ」
「はは。──じゃあ俺は一足先に行ってるな」
そう言って玄関に足を向けた時。
背後から「キヨツグ」と呼ぶ声が聞こえて振り返った。
ユミルは穏やかな表情を湛えていた。
「わたしの想いが届くよう頑張るね」
今度こそ、俺は「ああ」と固く返事した。
***
御神木の面前。
もうすぐで浄化の儀式が始まる。
辺りには大勢の森民の姿があり、皆一様に御神木を見上げて物々しい雰囲気が漂っている。
アリウスさんと会話をしていると、右奥の木々からラナフィナとともにユミルが姿を現した。
透き通る純白の羽衣を纏ったユミルは、ゆったりとした足取りで御神木の前に進み出ると、大幣を胸の前で掲げて頭を垂れる。
全員が目を閉じて両手を握る祈祷に入る。
心が洗われるような静寂の中、やがて祈祷は終わりを迎え────
ユミルが俺たちのほうを振り返ったと同時に、そのまま崩れるように地面に倒れた。
アリウスさんが「──ユミルッ!?」と叫び声を上げ、切羽詰まった様子で駆けていく。
森民たちも異常事態に気づき、瞬く間に安穏とした静けさは喧騒へと変わる。
「──────」
幾度と体験したその光景を見ながら、俺はこの物語の答え合わせをしていく。
浄化の神子には森民が知らない秘密がある。
浄化の神子は浄化の力を持って生まれて瘴気を他から自身へ移すことができる反面、体内に瘴気が溜まり続けて短命を余儀なくされることと、その一番の原因になるのが御神木の核の瘴気で、浄化の神子は年一の儀式で御神木の地下に入って核の瘴気を減らす行為を代替わり繰り返してきたこと、その二つが森民の共通認識だ。
しかし、本当にそれが真実なのだろうか。
そう疑問に思ったのは、浄化の神子が住まう規則の別家に隠し通路があったからだ。アリウスさんが御神木のそばの通路しか監視していなかったことから、身内でさえ知らされていないものだと分かる。
そんなものをわざわざ用意する意味は? 正規のルートが災害などの要因で塞がれてしまった時の保険だろうか? だがそれなら狭い家の中に造ることや森民に隠すことはしない。
そして隠し通路の用途が(行き先が御神木の地下空間であることから)御神木の核を浄化する為にあるということだ。日々の状態観察という線も考えたが、出入り口を塞ぐ石版には正規のルート同様に封印が施されていたから通るには一々ラナフィナを呼ばないといけない手間がかかるし、先程の考察ともしっくりこない。
だからやはり隠し通路は核を浄化する為に造られたのだ。けれど、もし儀式だけで御神木の生命が保たれるならばそんなことする意味はない。
浄化の神子の秘密────それは儀式とは別で、御神木の核の浄化を行っていたことだ。
死地が広がり続けていることを鑑みるに、儀式だけでは核の瘴気の量を十分に減らせなかったのだろう。だから浄化の神子たちは別家の隠し通路から御神木の地下へと赴き、核の瘴気が増えないよう抑えていた。
しかし、まだ疑問は残る。
浄化の神子たちがその行為を人知れずに行ってきた理由は何なのか?
単純に考えれば森民に不安を抱かせない為と捉えられるが、あそこまで長い地下通路を掘っておきながらその理由はどうしても弱い気がしてならなかった。
その蟠りを紐解いたのが浄化の神子の寿命だ。
ユミルの母親が亡くなった時の年齢が三十二歳で、現浄化の神子であるユミルの年齢を考えると、およそ十五年ほど瘴気を取り込み続けたら体が限界を迎えて死に至る計算になる。
浄化の神子が途絶えることは森の崩壊と同義だ。つまり浄化の神子は、娘──次代の浄化の神子が育つまで自身の体力を考慮する必要があった。娘が子を成す前に朽ち果てては浄化の神子は途絶え、森は死地の一途を辿るから。
人知れず別家から核を浄化しに行く理由、それは自身の娘に協力させない為だったのだ。
当代の浄化の神子が死去したあと、次代にその秘密を教える役割をラナフィナが担っているのも、事前に秘密を知ってしまえば母を救いたい感情に流され、無闇に浄化の力を使ってしまう恐れがあるから。
そして、その制約がある中、ユミルの双子の姉──ユリアは早すぎる死を遂げた。
浄化の神子は短命を宿命づけられていると言えど、彼女はあまりにも短い。原因は(リロたちやユミルの話から)他の浄化の神子たちよりも多くの瘴気を短期間に取り込んだことだ。
ではなぜ、ユリアはそのような行動を取ったのだろうか。
その答えは、過去の浄化の神子たちと違う点を探した時に分かった。
ユリアとユミル、二人が浄化の力を使えた例外だ。
代々の流れでは女系第一子だけが浄化の力を受け継ぎ、子孫を残して代替わりをしていくが、母親の代では異例の二人に浄化の力が受け継がれた。
ユリアにとって後釜は妹がいるから浄化の神子が途絶える懸念は無くなり、加えて、ユリアの人柄は正義感が強かったと聞いている。
そのことから、ユリアは自身の命と引き換えに核の瘴気を根絶しようとしたのだ。
たとえ失敗したとしても確実に瘴気の量は減り、死地の侵食を抑えられるだけでなく、ユミル、ひいてはこれからの浄化の神子の負担も軽減できると考えたのだろう。
そのためユリアはあまりにも短い時間で生涯を終えた。
そのユリアの想いを知っていたのは、長年浄化の神子に寄り添って生きてきたラナフィナだ。彼女はこれまでの仕来り同様、次代であるユミルに浄化の神子の秘密を教える。
その時、ユミルが姉の意志に気づかないわけがない。
また、アリウスさんも大事な妹の早すぎる死に違和感を抱かないわけがない。ラナフィナを問い質すぐらいのことはやったはずだ。それにラナフィナは浄化の神子の在り方に疑念を抱いていたため、他の意見を聞こうと秘密をアリウスさんに漏らしたとしてもおかしくない。
そして、ユリアの死の真相を知った二人がどう思い、どのような行動に出るのかはこれまでの言動を見聞きしていれば想像に難くない。
ユミルはこの森とそこに住まう人たちを愛している。この穏やかな時間が未来永劫続くことを願っている。姉が身命を賭して見出してくれた瘴気の根絶の道を見過ごすはずがない。
だから姉の意志を引き継ぎ、自身の代で終止符を打とうとしたのだ。
それとは裏腹に妹想いのアリウスさんは、ユミルにユリアと同じ道を辿ってほしくなかった。同時にユミルが姉の意志を引き継ぐことは分かりきっていたから説得を試みたが、ユミルの意志は固く、変えることができなかった。
だから苦渋の決断の末、御神木の破壊を計画したのだ。
ハッピーエンドの条件が、子供たちの事故を起こさないことと、アリウスさんに御神木の破壊をさせないことだったのは、そのどちらかでも達成できなければユミルの想いに反するから。
俺は冷静な心で目の前の光景を見る。
ユミルの体を支えながら必死に声をかけるアリウスさん。立ち尽くしたまま苦悶に顔を歪めるラナフィナ。激しい動揺を隠せない森民たち。
だが、みんな心の中では(ユリアの最期と同じ状況に)何が原因で起こったのかは薄々気づいているのだろう。
ここにいる全ての者がユミルの死に、惑い、悔やみ、嘆いている。
その過去の自分を映したような情景に苛立ちが募ってくる。
アリウスさんは自身の瞳から次々と溢れてくる涙を気にせずに呼びかけ続ける。
「どうして…………なんでだよ……なんでこんなことになるんだよ……!」
疑問は止まない。
「昨日あんなにも楽しそうに笑っていたじゃないか! 喜んでいたじゃないか! どこに命を投げ捨てる必要があるんだよ! 一体どこに……」
慟哭は止まない。
「オレたちのせいだ……オレたちが浄化の神子の重荷を背負わせたから、ユミルまでぎせ──」
「違うっ!」
俺は叫んだ。
この場に漂った全ての負の感情を掻き消すように、腹から声を出して叫んだ。
一瞬にして喧騒が止み、アリウスさん、そして森民全員が驚いた目を俺に向ける。
俺は構わずにユミルの元に歩み寄っていき、彼女を見た。
瞳を閉ざして意識を失っているユミル。顔や衣服から出た肌は火傷を負ったように濃い黒茶に変色し、全体が干上がった大地のようにひび割れている。
凄惨な最期の姿……そう見えていた、今までは。
どれだけ時を繰り返しても、ユミルの命を救う方法はなかった。
何度も説得した。浄化の神子の責任を放棄することを。沢山の言葉で、色々な場所で、時には激情を表に出して、時には未来を予言できる能力があると法螺を吹いて今のこの光景を包み隠さず伝えた。
けれど、ユミルの固い意志を変えることはできなかった。浄化の力を使う以外に核の瘴気を無くす方法を見つけようともしたが、結果は同じに終わった。
だからこの物語でユミルの死は避けられない事項なんだ。
しかし、まだ物語は続いている。
もしユミルの本当の願いが核の瘴気を根絶することであれば、(一時間前のユミルの喜び様からすでに達成していると分かる)儀式を待たずしてハッピーエンドになっているはずだ。それがバッドエンドになったということは、ユミルにとって何かやり残したことがある。
そこで疑問が出てきた。
なぜユミルは儀式の時まで核の瘴気を取り込まなかったのか。自室に隠し通路があるのなら、アリウスさんの監視関係なく夜間にでも行えたはずだ。それをしなかったことには必ず理由があると思った。
そしてその理由は、今まさに俺の目の前に広がっている。
アリウスさんの、ラナフィナの、森民たちの、ユミルに対する気持ち──短命を余儀なくされた浄化の神子への哀れみ。
ついこの前まではそこに俺も含まれていた。ユミルの想いからずっと目を逸らしていた。
俺はユミルを見て、握った拳を胸に当てる。
──今度こそ、お前の想いを無かったことにはさせない。
俺は森民たちに向き直った。
「俺は森に来て三日間すらも経ってないから、この森の歴史や事情に疎いし、今のみんなの気持ちをすべて汲み取れるなんて言えない」
みんなからすれば俺は一昨日に迷い込んできた部外者だ。偉そうに講釈を垂れる資格はない。
「でも、ずっとユミルの言葉や行動を近くで見聞きしてきて思ったんだ。ユミルはいつでも明るくて、穏やかで、前向きで、そこに浄化の神子である自分の境遇を恨んだり嘆いたりしてる感情は一つたりともなかった。本当にほんの少しさえも……」
健康観察の時だって、一途にみんなの体の状態を気遣って浄化の力を使うことを厭わない姿勢だった。死地の調査の時だって、自身を責めるほど現状を変えたい気概が表れていた。
ユミルが抱き続けてきたものは、全てにおいて同じ確固たる想い。
ちゃんと見れば、ちゃんと聞けば、そんなことは分かったはずなのに……。
「……違う、違うんだよ。ユミルは自己犠牲なんて考えていなかった。命を賭してだとか、浄化の神子の責任だとか、そんな重たい感情に囚われて行動したわけじゃないんだよ」
ユミルは自分の死を案じていなかった。それは核の瘴気を取り込むことの代償から生まれた諦観ではなく、元より死ぬつもりはなかった。でなければ、あんなに日常を明るく生きれないし、アリウスさんやラナフィナ、森民たちがその異常性に気づくはずだ。
「ユミルはただ守りたかっただけなんだ! その先にある誰もが平穏に暮らせる未来をひたすらに想像して、願って、大切なものを守ろうって純粋に行動しただけなんだ!」
過去の自分が憎い。最期の姿だけを切り取って犠牲であると決めつけた分からず屋の自分が。
「もっと彼女のことを見ろよ! もっと彼女の想いを考えろよ! こんな悲しい結末を望んでるはずがないだろ! だって彼女は────」
ユミルはこの森の存続とともに森民の穏やかな時間が続くことを願っていた。
たとえ森を守れたとしても自身の死が犠牲と捉えられてみんなの中に罪悪感が残ってしまえば穏やかな時間は奪われてしまう。けれど、遠くない未来に自身の死は訪れる。
だからみんなが集うこの浄化の儀式で、自分の、母の、姉の、過去の浄化の神子たちの想いを伝えようとしたんだ。
この物語の悲劇は、ユミルが自身の想いを伝えるまえに体に限界が訪れてしまったこと。
けれど、絶対に無かったことにはさせない。俺が代弁者となってみんなに伝えよう。
それが大切なものに気づかせてくれた彼女にできる、せめても恩返しだから。
「────彼女は犠牲者なんかじゃない! 浄化の神子たちは、ユミルたちは森の守護者なんだ!」
全員の心に届くように、自身に言い聞かせるように出した大声は、神聖な静けさの中に響き渡り、じんわりと溶けていくように消えていった。
少しして、アリウスさんがユミルの身を胸に抱きしめながら「……分かってたんだ」と言った。
「……分かってたんだ……ユミルが誰よりもみんなの幸せを願っていることぐらい……分かってたんだよ! ……でもしょうがないだろ、オレはお兄ちゃんなんだから、妹たちが死ぬ未来を黙って見ていられなかったんだ………生きて……ほしかったんだ………………」
痛みに耐えるかのような声は尻すぼみになっていく。
アリウスさんはユミルを胸から離して間近で彼女の顔を見つめる。
ひととき思いを巡らせるようにギュッと目を閉じてから、「……でも、きっとそのオレの考えがユミルを悲しませてたんだよな」と小さく呟いた。
すぐに目元や頬を伝う涙を片腕ですべて拭い、嗚咽を堪えながら頬を緩ませる。
「兄ちゃんはユミルとユリアのことを誇りに思う! 二人が守ってくれたものはこの先ずっと変わらないし、変えさせない。父さんにも想いを伝えて帰ってきてもらう! この穏やかな森を未来永劫繋いでいくって約束する!」
──だから、安心してゆっくり休んでくれ。
それはいつもの妹想いの兄がかける優しい声音だった。
背後から、足音が聞こえた。
ラナフィナは俺の隣まで歩み出てきて、ユミルの顔を見下ろす。
「馬鹿者どもめ……どいつこいつも死に急いで……我の助言を聞いていれば生き永えたものを、頑なに取り合わないからこんな最期を迎えるのだ…………」
いつもの憎まれ口には覇気がなく、かすかに声が震えている。
ラナフィナはしばし痛感するように目を閉じていたが、やがて胸のうちで膨れ上がる感情を吐き出すように一つ大きく息をついたあと、森民たちのほうを見る。
「……だが、お前たちの誰か一人にでも守りたい心が無ければ、今のこの光景は望めなかっただろう。我々がこの場所に立って生きているのは、他でもないお前たちの意志が成した未来だ」
そして顔を見られたくないとでも言うように、誰もいない御神木のほうを向いて、
「誇れ。浄化の神子の存在がこの未来を守り抜いたのだと。我々を導いたのだと」
──だから、この先は我に任せて迷わず逝け。
それは強い決心が漲っていながら、とても柔らかな声音だった。
二人の想いに感化されるように、森民たちは各々に涙を流す。
だけど、そこに先程のような憐憫は無かった。
涙が溢れる目には決意が宿り、誰もが顔を伏せずに前だけを向いている。
──あぁ、これがユミルの望んだ光景だったんだな。
俺はユミルの傍らで片膝をつく。
「時間が掛かってごめんな」
随分と遠回りをしてきた。
早くに彼女の想いに気づいてれば【一巡目】のこの時にハッピーエンドにさせてあげられたんだ。
「でもようやくお前の想いを届けられた。もちろん俺の心にだってちゃんと届いたよ」
二日目の夜、肩を寄せ合って会話をした記憶が頭の中を流れる。
「俺はもう大丈夫。お前がくれた想いのおかげで、やっと前を向いて歩ける」
証明するように硬い表情を崩して。
この物語のハッピーエンドの条件は、
一つ、子供たちの事故を未然に防ぐこと。
二つ、アリウスさんに御神木の破壊を決意させないこと。
そして、三つは────
「──ユミル。おつかれさま」
瞬間、彼女の口元が綻んだような気がした。




