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花暦・星暦

作者: 各務 史

~日本にて~

 大地に咲く花は季節を疑わずときを彩って咲く。筈なのだが、この日川沿いに満開になった桜の対岸では彼岸花が咲き乱れていた。まだ新年を迎えて8日ほどのことだった。


~大洋にて~

 静かな海。ほとんど波のないべた凪の海はとても静かだ。全く揺れている感じがしない。あまりに静かすぎて気味が悪いほどだ。

「せ、船長!海が!海が!」

血相を変えて船員の一人が船長室へと駆け込んできた。

「騒がしい。今夜の海のように落ち着いたらどうなんだ。海がどうした?」

船員は深呼吸を1つした。

「海が… ありません。」

つくならもっと上手い嘘をつけと言いかけて私は息をのんだ。さっきまで船が航行していた筈の海はどこにもなく、その代わり船長室の窓から見えたのは海と見紛うほど果てしなく広がった砂の大地だった。


~アマゾンにて~

 水は高きから低きへと流れる。だから川は陸地から海へと流れる。ポロロッカはそれを無視して起こるが満ち潮故の現象と知ればおかしなことはない。赤道直下のアマゾンの森に降り積もる雪とは訳が違う。そう、今目の前で起こっているのは雪で白く染まりつつある地球上最も濃く深い緑の森の変容だった。


 星の運行は秩序に則って行われ合理的で美しい。回転は一方向で逆回転はしない。歩みを止めることもない。故に時間も決して逆行することはない。それがルール。神でさえ干渉を禁じられていると言われるときのルール。しかし、今その絶対が崩れ去ろうとしていた。


 地球が自転を止めた。朝と夜が固定された。地球が公転を止めた。季節も巡らなくなった。磁場が狂って鳥は飛べず、魚は泳げなくなった。重力が不安定になって地形が常に隆起と陥没を繰り返す。

どこにも安全な場所はなかった。

人類による生物の絶滅よりも、ずっと速やかにずっと確実に全ての生命が消滅した。


 マントル対流が止まって眠りに落ちる寸前の地球が笑った。もっと早くこうすれば良かったと。


もつれた糸を両端から引っ張って絡まった玉が消えてしまうように

今、地球の時間が消滅した。

宇宙は創世のときと同じ時間のない沈黙を開始した。



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― 新着の感想 ―
ちょっと言葉が難しかったですが、花にも暦があり、人が使用しているカレンダーが海や大河からしたらちっぽけなものなんだな、と感じました。 海が、花が牙をむく、そんな日が来ることがありませんように。
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