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第13話

ティアに言われた通り3人は組合1階にある受付カウンター横に設置された掲示板の前にいた。

 最初視た時は依頼掲示板しか目に入らなかったが、隣接された掲示板には確かに人員募集や傭兵団の紹介が書かれた掲示が見られた。

 傭兵団の紹介には団名の他に入団最低ランクや現在の団員数、実績のようなものが書かれている。どうやらどの傭兵団も名前を付けて区別しているらしい。

 月狼団、赤い牙、銀の盾、流星団など様々な名前を自由に突けているようだ。

 中でも月狼団と流星団は団員数が多く、どちらも30名を超えている。

 しかし一番ランクが高そうなのが赤い牙だ。現在募集は行っていないらしく、最低ランクは紫と書かれている。一方の流星団は青以上だ。

「結構あるものね。傭兵団以外にも募集みたいのがあるけど?」

 アリアが掲示板を眺めながら傭兵団以外の募集が貼られていることに気付く。その用紙には団ではなく、パーティーというものの募集が書かれている。

 改めて掲示板を見てみると、傭兵団の物よりそのパーティーと言われる募集の方が多い。

 知識が乏しい3人には2種類の募集用紙の違いが判らなかった。

「傭兵団は脱退するまで続く契約みたいなもので、パーティーは一度限りの関係ってとこね。」

 3人の背後から見知らぬ人物が話しかけてきた。

 振り返るとそこにはラベンダーの様な淡い紫色の髪色をした女が微笑みかけていた。

 ゆったりとした黒いマントを羽織り、腰には鞭を提げている。

 優しそうな微笑みをこちらに向けているがここにいるということは傭兵関係の者なのだろう。

 アルトが女に負けないくらいの微笑みを浮かべながら答える。

「教えてくださってありがとうございます。実は先ほど傭兵として認可が下りたばかりなのでわからないことだらけなんです。」

「あらそうだったの?てっきり依頼に来たばかりだと思っていたわ。」

 女は驚いたような表情を浮かべたが、すぐに元の優しそうな笑みを浮かべる。

 シアはアリアの方をチラリと伺う。

 マルクスの時とは違い嫌悪感は出ていないが、警戒しているような雰囲気を感じる。目だけを動かし、目の前の話しかけてきた女を観察しているようだ。

 アルトも笑顔を浮かべているようで目が笑っていないように見える。

 2人には彼女の微笑みの裏側に別の何かを感じ取っていた。それは言葉にできない微かな違和感だった。

「自己紹介が遅れたわね。私はフレーナ。フレーナ・ミリアムよ。流星団に所属しているわ。」

 フレーナと名乗る女は自己紹介を終えると胸元のマントを捲り、胸に付けられた紫色のプレートを見せる。

 そのプレートには星をいくつかかたどったよな模様をしている。恐らく流星団のエンブレムか何かなのだろう。色はこの女の傭兵ランクを示しているのは容易に想像できる。

 先ほど認可を受けた際にティアから聞いたシステムを考えると、このフレーナという女はそれなりの実力を持つ傭兵なのが分かる。

「僕はアルト。こっちはアリア。一番小さい子がシアです。」

 アルトが2人に代わって名乗る。表情は変わらず目は笑っていない。

 このフレーナという女がなぜ話しかけてきたのかわからない以上、警戒は怠るべきじゃない。

 現状3人はこの傭兵界の仕組みに疎いのもあり見ず知らずの人間に自分たちからは余り話しかけないようにしている。

 そしてこの女から感じる視線はマルクスから感じることのない見定めるようものだ。

 長い間森や山で暮らしていた2人には生物問わず、相手がこちらをどのように見ているのかを鋭敏に感じることができる。

「そう警戒しないで?別に取って食ったりはしないわ。」

 フレーナは自分がひどく警戒されていることに気付いているようだ。だからと言ってこちらの対応が変わるわけではない。

 しかしフレーナはそんな視線を受けながらも微笑みを絶やさず、再び話しかけてくる。

「その掲示板を見射ていたということは傭兵団に入りたいの?」

 シアたちは先ほどから人員募集の掲示板を見ていたが別にどこかに所属したいわけではない。

「いえ、そういうわけではなくて、どんなものがあるのか気になっただけですね。どちらかと言えばどこかに所属するつもりもないので。」

 いつもと同じようにアルトが代表して答える。

「あらそうなの?勿体ないわね。それだけの素質があるならうちに入っても問題ないレベルなのに。」

 フレーナがそんなことを口にするとアリアが横から口を挟む。

「あんたのとこって流星団よね?悪いけど私たちは大所帯の方々とつるむ気はないわ。」

 フンっといつものように素っ気ない態度を取るアリアだが、マルクスの時と違うのは常に腰の剣に触れているとこだ。いつでも抜けるように。

 シアの意見としても元々どこにも所属するつもりはない。だから3人だけの団を作っているのだ。これから新たに増えるかもしれないが今のところこの2人以外の誰かと行動するつもりもない。

「そう。残念ね。じゃあ先輩としてアドバイスを上げる。」

 フレーナはわざとらしく肩を窄めた後、再び優しい雰囲気の微笑みを浮かべる。

「この世界で格上の相手を前にした時は敵意を隠しなさい。今回は大目に見てあげるわ。」

 そう3人に告げながらフレーナは踵を返しカウンターの方へと歩いていく。

 確かにフレーナの言う通り、初対面の傭兵に対して警戒することは正しい判断だが、あからさまの敵意を向けるべきではないだろう。

 それに今のアリアとアルトではあのフレーナには勝てないだろう。シアはそう思う。

「次はもう少し大人しくしてないとダメね。」

 シアはそう2人に告げると、隣の依頼の掲示板の方に移動する。

「でも私はあの女と仲間になるのはごめんよ。表面上は友好的に感じるけどあの目は私たちのことを物色していたわ。」

 アリアがシアの隣に移動して依頼掲示板を眺め始める。

 いくら新規傭兵が参入したからと言っても3人は成人もまだな子供だ。そんな身の程知らずな子供に紫まで上り詰めた人間がわざわざ話しかけてくるだろうか?

 ただの興味本位か、それとも他に理由があるのかは分からない。確実に言えるとしたら、善意をもって話しかけてきたわけではないということ。

 それはシアにもわかっていた。マルクスの時とは違い、あきらかにこちらを見極めているような目だった。

「しばらくはフレーナさんには気を付けておこう。それと流星団にもね。」

 アルトが2人の後ろから声を掛けながら依頼を物色し始める。


 傭兵になったばかりの白級はノルマがある。

 採取系、討伐系をそれぞれ1回ずつ達成しないといけない。万が一達成できなかった場合は傭兵としての資格をはく奪されてしまう。

「どれかまとめてできるのがあればいいけど。」

 アルトは顎に手を置きながら物色する。その隣でアリアも選び始める。

 採取系の依頼は基本的に薬草の者が多く、主に傷薬やその他軽い疾病に対しての薬品に使うことが多いそうだ。

 現に依頼主の多くは個人医を名乗っていたり、この街の調合師だったりする。他にあるとすれば料理などに使う香辛料を依頼に出している物もある。

 掲示板に貼られた依頼に関する紙には色のついた紙が一緒に貼られており、依頼を受けられる最低ラインの階級が示されていた。

 私たちは白級なので白い紙が貼られたものしか受けられないということになる。

 そうなると採取系は多くあるが討伐系は数えるほどしかない。そして生息域も採取系のものと違う場所だったりとまとめて一遍に依頼を受けることは難しそうだ。

「仕方ないわね。一つずつ片付けていきましょ。」

 アリア提案するとアルトも頷く。

「なら最初は早く片付けられるのにしようか。」

 アルトはそう言いながら一つの依頼用紙を掲示板からはがす。

 内容はこうだ。

【シルヴァリスヴェール森林地帯に発生している刃無草の採取:計10本】

 依頼主は傭兵管理組合となっていることから初心者に向けた依頼なのだろう。その証拠に他の物よりも紙が古びている。

 これなら手早く済ませそうだ。

「じゃあこれを受けてくるから2人は出口のとこでまってて。」

 アルトはそう言ってカウンターへと向かい始める。


 

 フレーナは依然受けていた依頼の報酬を受け取りに組合に来ていた。

 報酬を受け取り帰路に付こうと振り返るとそこには掲示板を眺めている3人分の若い後ろ姿が目に入った。

 2人はそれなりに成長しているがもう1人の銀髪の少女は10歳程度だろう。

 一瞬組合に依頼を出しに来た村か街の子供だと思ったがすぐにその考えを検める。

 銀髪の少女の背中には少女の背丈ほどの長さをした何かが背負われていた。そしてその長物から漂う不気味なオーラ。異常だった。

 中身は布に包まれているため定かではないが剣か何かの武器なのではないだろうか。

 他にも少年も弓を担いでいたり、もう1人の少女も腰に二刀剣を提げていたりと明らかに一般人ではなかった。

 だから好奇心が湧いた。普段なら新人を見かけても気にも留めなかったがこの3人には声を掛けずにはいられなかった。

 人員募集の掲示板を眺めていたので団とパーティーの違いを教えてあげたら3人はこちらに目を向けた。

 正直驚いた。新人が、それも子供が放っていい敵意やオーラではなかった。

 そしてなぜか3人中2人が片目を布で隠している。病気か何か原因があるのだろう。顔の作りが似ていることから姉弟か双子だろう。

 3人の格好はとても傭兵向きのものではなかった。武器は持っているがどちらかというと街中を普通に歩いている一般人だ。

 銀髪少女の背中の長物からは変わらず不気味なオーラがあふれている。

 久しぶりに感じた他人への興味。何としてもこの3人の秘密を知りたかった。

 目の前の3人に悟られないように表情を作り、優しく語り掛けるが明らかに警戒している。

 アリアという少女よりもこのアルトという少年の方が敵に回したら厄介だろう。表情から何も読み取れない。読み取れるのは警戒だけ。

 今はまだやり合ってもフレーナが勝つだろうが、同じ階級まで追いつかれたら勝てないだろう。

 何としてもこの3人を流星団に勧誘したい。試しに伝えてみるが予想通り断られた。

 流星団はそれなりに有名な組織だ。傭兵じゃない一般人もその名を知っている。

 そのため憧れている傭兵も少なくない。

 そしてフレーナはその流星団の団長に次ぐ強さを持つと言われている女傭兵だ。

 鞭をメインに戦うことで知られ現在赤級に最も近い傭兵として知られている。

 そんな実力者から遠巻きに流星団の話題を振られても目の前の3人は無関心だった。挙句の果てに断られてしまった。

 言質を取れなかったのは残念だが、3人の、特に姉弟の敵意がますます強くなったのでこの辺で引き上げることにした。

(絶対に私のものにしてみせるわ!)

 そんな野望を抱きながらフレーナは流星団の本部へと帰路につくのであった。

 

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