第12話 やりたいこと
マルクスとティアが酒場で今後の方針やお互いの考えを語り合っていた時、シアたちは宿場の一室で休んでいた。
どうやらこの宿場は主に傭兵が使っているようで、宿代自体もリーズナブルのため駆け出しの傭兵に人気のようだ。マルクスもしばらくお世話になった場所らしい。
今回も例に漏れずマルクスに代金を払って貰ったが、礼を言うのは相変わらずアルトだけでアリアは未だに嫌悪感を示しており、シアに至ってはただ金を払ってくれる人間程度にしか思っていなかった。
3人が借りている部屋はシングル用ベッドが2つ置かれており、他にはテーブルと椅子が2つ置かれているだけの簡素なツインルームだ。
マルクスは最初、部屋を2つ借りようとしたが生憎ツイン1部屋以外満室だった。しかしアリアとアルトは双子の姉弟で、しかも長い間2人で暮らしていたため男女の抵抗は無い。むしろ3人の都合的にもツイン1部屋でお願いした。
ベッドは2つだが、シアがアリアと同じベッドに寝れば問題なく使える。
先にも言った通り部屋の作り自体は最低限で簡素な作りだが、体を休めるには十分だろう。特に今まで野宿をしていた者たちにとっては贅沢すぎる環境だった。
3人は宿場内にある共用の湯浴場で軽く体を洗った後、部屋で各々のベッドで寛いでいた。
アルトは弓矢の手入れをしており、アリアはというと自分の膝の上でシアを抱えてひたすらに頭を撫でている。シアとしては別に嫌ではないが忠実な戦士として認識していたためアリアの行動に意外性を感じていた。
「さて、これで傭兵として動けるようになるわけだけど、シアはこれからどうしたい?」
アルトが弓の手入れを終え、今後の動きに付いてシアに意見を求める。
シアとしては自分のやりたいようにやっていくつもりでいる。自分たちの障壁となるもの、敵対するものは全て排除すればよい。そのために比較的自由に動ける傭兵になることに決めたのだ。
しかしそれが”私たち”の世界を取り戻すのに必要なことなのかはシアにもわからない。かといって今の世界を傍観するだけというのは味気ないしつまらない。
そして新たに加わった2人の家族に付いても考えなければならないだろう。森で出会った2人の家族は常にシアを第一に考えて動くだろう。それこそ死ねと言えば喜んで命をささげる勢いも感じられる。
それはシアが望んでいる家族とは言えない。
森の神殿でよく遊んでいた友達に家族という意味を聞いたことがる。シアはその家族というものにあこがれを抱いていたのだ。
そして出会った2人だ。この2人は何としても守らなければならないだろう。
シアはアルトの問いに関して改めて考えをまとめる。
何をしたいかという問いに対して明確な答えは浮かばないが、やるべきことはあるだろう。
「そうね。私もあなた達2人もまだ知らないことばかりだと思うわ。あなた達は人を避けて暮らしていたし、私も友達から聞いたことしかわからないわ。」
何をするにしても知らないことが多すぎるのは早急に何とかすべきだ。
傭兵という立場を利用してまずはこの世界に慣れることが一番だ。
同時にこの2人がそれなりに強くなれば尚良いだろう。
「まずは明日また組合で傭兵に付いて詳しく聞ければ今後何をしていけばいいか見えてくるんじゃないかしら。」
傭兵として活動していく中で世界のことを知っていけば自ずとやりたいことが見えてくるだろう。
すると今までシアの頭を撫でたり、頬ずりしていたアリアが口を開く。
「私は言えば何でもするし付いて行くつもりよ。欲しい物があれば何をしてでも手に入れてくるわ。」
そう言うとアリアは再びシアの頭に頬ずりしてくる。
「それは僕も同じ考えだよ。あの森で僕たちはシアに助けられた。だから僕たちの命はシアの物だよ。」
アルトもなかなか物騒なことをさわやかな笑顔向けながら口にする。
まずはこの2人のこの考えを変えさせる必要があるだろう。
シアの中で家族とは一心同体であり、1人だけを犠牲にしたりすることは一切ない。
何をするにしても一番信頼できるものだ。今この現状ではまるでシアを教祖としたカルト教団に近いものがるだろう。
「そこまでしなくても大丈夫よ。あなた達に害になるものはもちろん排除するし、私の邪魔をしても排除することは変わらないわ。」
一応シアが掲げている方針を伝えておく。利用できるものは利用して、害なすものは切り捨てる。
それで言えば、あの森で私に敵意を向けていた月光教会なる集団は排除対象だろう。
一度矢を受けたこともあるが、何よりも何故かわからないが月光教会という言葉にとてつもない不快感を覚えるのだ。
アリアとアルトは彼らに追われていた張本人だ。敵対心はあるだろう。
しかし、先ほども言った通りこの世の中を知らなすぎるため、迂闊に攻め入ることはできない。
この街に来る道中、2人からある程度は聞いたが恐らく月光教会は私たちの想定以上の組織だろう。この街にもその手先がいる可能性は高い。
「それにあなた達の赤眼を何とかしないといけないわ。いつまでも視界を塞いでいてもしょうがないでしょ?」
森を出た時から2人は赤眼を隠すための眼帯をしている。今この部屋で話している時も外していない。
シアは当たり前のように瞳の色を変えることができたが、この2人はできないみたいなので応急処置的に隠している。
そもそもなぜ赤眼というだけで追われるのか理解ができない。2人にも聞いてみたが正直何を言っているのかわからなかった。
「でも私たちはシアみたいに色を変えることはできないわ。それこそ今みたいに誤魔化せる何かがあれば楽なのだけど。」
「そうだね。この街に入れたのも有りもしない村の風習をでっちあげた結果だからね。何か方法があっても急に眼が治るってのもおかしな話だろ?」
2人が赤眼に付いて話している間もシアは考える。しかし良い案が浮かばない。
しばらくは目を隠して生活していくしかないだろう。人気のない場所で外す分には問題ないはずだ。
「しばらくはこのままの方が良さそうね。シアが外せっていうなら外すけどどうする?」
アリアも現状維持の意見みたいだ。アルトもうなずいている。
「そのままでも構わないし、それしか無さそうね。」
赤眼に付いては意見がまとまった。
これからの行動については明日組合で詳しい話を聞いてから決めていけばいいだろう。
「もう休みましょう。」というシアの合図で各々のベッドで休むことにした。
翌日、3人は組合の応接室で再びティアと傭兵に付いての説明と、傭兵証の交付の為に顔を合わせていた。
「本日よりあなた達3人を傭兵として認めます。こちらが傭兵証となるので無くさずに携帯してください。」
ティアが各自の名前と交付場所、交付日が書かれた手のひらに載るほどの白い板を3人に配る。これが傭兵証という事だろう。
「では改めて組合で定められた傭兵業についての規定や仕組みを説明していきます。質問があればその都度話を止めていただいて構いません。」
そこからティアにようる説明が始まった。正直半分くらい理解できなかったが、その都度アルトが噛み砕いて聞き返してくれたおかげで何とか理解できた。
要約するとこうだ。
・魔獣狩りだけが仕事ではなく、様々なところから依頼される仕事もある。
・組合は傭兵を管理する組織で会って命を守ってくれる組織ではない。
・その国や領地の法律に従う。
・たとえ同じ傭兵であっても殺人は罪になる。
・特定の魔獣の魔力核の納品は早い者勝ちである。
・傭兵には階級があり、白~黒まである。
・階級を上げるには組合が認めるだけの成果を出せば昇級する。
・成果の基準は特に設けてるわけではなく、世間の評判や組合での評価を加味して査定している。
こんな所だろう。
もっと何か話していたが、シアにとってはどうでも良かったので覚えていない。
最も興味を引いたのは階級だった。
証が白いのはまだ白級だからだろう。時間はかかるかもしれないがいつか黒に上がりたいものだ。
「3人はしばらく共に行動するんですよね?」
ティアが説明を終えた後、改めて3人に問いかけた。
「えぇ。そのつもりです。何かまずいことでもありますか?」
アルトが代表として答える。
するとティアは「いいえ」と首を横に振り、新たな提案をしてくる。
「でしたらここで傭兵団として申請を出してしまう方が良いでしょう。個人の報酬は減りますが、貢献度に関わらず皆に報酬が分配されます。」
そんなシステムがあったのかとシアは感心する。
基本的にこの3人が離れて行動することは無いだろう。傭兵団として今申請できるのならしてしまった方が良いだろう。
「傭兵団ですか…。報酬が分配される以外に何か僕たちにメリットはあるのでしょうか?」
「そうですね。事務的な手続きを代表者1名が行えば団のメンバーが1人1人行う必要が無くなります。例えば依頼受注や成果報告をするのにも1人が行えば3人分まとめることができるといった具合ですね。」
単純に団としてまとめてくれるという事だろう。
「他には仲介料などの手数料も1人分しかかかりません。」
資金面でもお得な特典が多そうだ。
話を聞いている限りじゃメリットだらけだが、他の傭兵たちは皆傭兵団に加入しているのだろうか?
「基本的には傭兵は皆どこかの団に加入しているの?」
珍しくアリアが質問する。シアが感じたことを代わりに質問してくれて手間が省けた。
「いえ、そういうわけではありません。個人の目標や事情もありますし、中には方向性の違いから解散した例もあります。どうしても報酬面でのトラブルが多くなってしまいますね。」
なるほど。確かに大げさに言ってしまえば家にいるだけで団員の誰かがこなした仕事の報酬を受け取れてしまうのがこの仕組みだ。私たち3人はそんなことはあり得ないが一般的にはそこがネックになるのだろう。
しかし私たちは他の傭兵とは違う。報酬目当てではないし、出世しようとも思っていない。
「そうなんですね。他に階級的な面で制約などはあるのでしょうか?」
そこは気になるところだ。
報酬は分配されるが組合や世間への貢献度で言ったらまた別の話だろう。
「少しややこしいのですが、報酬と貢献度とは別物として考えてもらえるといいと思います。」
やはりそうだろう。そうでもしないと、一度も戦わずに昇級してしまうこともあるだろう。
「基本的に傭兵団員の中で2階級以上離れてしまうと、一番上の階級の方の階級がそこで打ち止めになってしまいます。例えば今3人の中で誰かが緑まで階級を上げたとしましょう。しかし誰かがこのまま白級のままでいると緑の方が青に上がることが不可能になってしまいます。」
とても合理的な仕組みだろう。そうすれば誰か一人に仕事を押し付けることもなくなるのだろう。
「しかし利点としては、誰かが緑級まで上がれば緑級以上の依頼を団員の方であれば白でも同行可能となり、報酬も等しく分配されます。」
階級に付いてはメリットデメリットのバランスを上手く整えている印象を受ける。
今の話を聞いている限りでは、私たち3人にはメリットしかない提案だった。それはアルトも感じているのだろう。
話を聞きながらアルトは何度か頷いた後にシアに意見を求める。
「シアはどうしたい?僕は申請した方が後々楽になると思うよ。」
シアもアルトと同意見だった。アリアに聞いてもおそらくシアの言うとおりにすると言うだけだろう。なら答えは決まっている。
「私は構わないわ。むしろその方が良いわね。」
そう言うとアルトは頷きシアに向き直る。
「では傭兵団としても申請します。メンバーはこの3人です。基本的な手続きは僕の方で行うつもりです。」
アルトがそう言うとティアも「わかりました」と頷く。
「ではあなた達の傭兵団の申請も同時に受理しておきましょう。わからないことがあれば他の傭兵団に意見を聞くのもいいでしょう。後でカウンター横の掲示板にも目を通すことをお勧めします。依頼の他にも傭兵団の求人なども掲示しているので参考になるでしょう。」
あの掲示板にはそんなものも貼ってあるのか。単純に興味が湧く。まあ新しいメンバーを加えることは無いだろうが。
「中には大きな団もあるのでコミュニケーションを摂っておいて損は無いでしょう。」
ティアからの説明と簡単な手続きを終え、応接室をあとにした。




