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盗難防止策は百均じゃダメ

くちゃくちゃと気色悪い音を響かせて、鉄臭い乾いた肉を食む。舌に乗った生暖かく湿り気を取り戻した肉の塊を転がして、喉を通って胃袋に入る。

悲しいくらいに美味いと思えてしまう。久しぶりの肉が、人であろうとここまで美味しいと満足すら覚えてしまう自分が悔しい。


「ちゃんと食べられたね。」


まだ人の形を残す食べられる人体模型を挟んで、片山は俺に座って笑いかけている。


「俺も落ちる所まで堕ちた。そんな気がしてるよ。」

「でもそれで助けられる人がいるの。もう少し自分の事を自覚した方がいいわ。それよりここからどうするかを考えましょう。」


重厚のようでいて薄い鉄の箱の中では、何をしようにも物資不足だった。


「食料はあっても水が殆どない。武器...普通の銃弾も弾倉2つ分、対魔用なんて殆どないな。片山は何持ってる。」

「使えるのはこのアーミーナイフだけ。司祭様に魔除けしてあるから、人間にも悪魔にも使えるのはこれだけ...あ!でもね。この近くには昔、自衛隊のベースキャンプが___」


必死そうに話す彼女を見て、昔を思いだした。




燃える街。何処から現れたのかすらわからない悪魔の声が木霊する戦場で、俺は繰り返し叫んだ。誰に聞かせる訳でもない。腕の中で力無く垂れる彼女に言った訳でもない。

瓦礫の隙間を塗って見えた赤い空に向かって吼える。


_______どんなことがあっても。絶対に、この子だけは助ける。


決意と宣誓。この世界を覗き見ている神か悪魔に俺は言い放ったんだ。

突然溢れ出た悪魔に飢えと憎悪に狂わされた人間。過酷さだけが残るこの世界で、俺が自衛官で居られる理由の一つだ。




「____ちょっと。聞いてるの?」

「あ、すまん。考え事。」

「もー集中してよ。」


不貞腐れて頬を膨らませる彼女を見て、現実に引き戻された。さてどうするかと、また思考のベクトルを変える。


「まぁ3日行軍になるのはもう仕方ないし、気を逸らすのもいい案かもね。」

「そう皮肉を言うな___思い出したんだが、確かもう1つここら辺で依頼を受けてなかったか?」


俺たちは元軍人の傭兵、ファンタジーな言い方をすれば冒険者と言った感じだ。人が住む上でシステムは欠かせない。俺たちを運用できるシステムとして立ち上がった組織があり、言うなれば冒険者ギルドのような物によって依頼をこなしている。

そこで受けたのが2つ。1つがこのコンテナだ。盗賊団が攫った人間を置いておく監禁場所の確認と奪取。これは済んだ。


「そーね。確か...あーっと」


片山小さな体に見合わないクソデカバックパックの中身を漁り出した。


「あったあった!」


くしゃくしゃに丸まったコピー用紙を広げて俺に向ける。そこには、サソリに人面がくっついたような化け物の絵だ。


「人種混合型寄生悪魔体の討伐!あだ名は誰が付けたかマンティコア〜」

「んなッ_____バッカ野郎!!!!ここいら一帯の中でも大物じゃねぇか!!」

「女ですぅ〜!」

「どうでもいいわそんなこと!てかなんで討伐依頼受けてんだおめぇわ!!採取系にしろって言ったろうがよ!対魔装備___ギミックスキルだって採取用にしてあんのに!」

「いいじゃん!だってみんなこいつのせいで探索も救出も進まないって困ってたし...」

「お前なぁ...今日という今日は折檻して____」


頭でもぶってやろうかと立ち上がった瞬間だ。2人の前に消しゴムサイズの鉄が割り込んできた。

片山はそれをとぼけた顔で見ているだけ。本当にこいつ軍属経験あったのか。


「なにこ___」

「目ぇ瞑れ!フラッシュバ____」


空間を塗りつぶす光と音が、俺の視界と聴覚を奪った


(しまったッ!もう誰も居ないと思ってたッ!思い込んでたッ!!そら飯があるんだから、誰か住んでててもおかしくないって分かってたのに...)


思考が回っているなら気絶はしていない。そうこうしていると、視界に色を取り戻す。


目の前にはミートフックにぶら下がる肉、食べかけの人肉が床に転がっていて、そして片山のバックパックが置物みたいに座っていた。


「___片山ッ!!」


そこに守るべき対象の片山が居なかった。


「どこだ...どっから出て来やがったァあっ!!」


ドアが開いた兆候はない。大きい鉄のドアが音を立てずに開くことは難しいし、開けば砂塵が入ってくる。だが塵が舞ってる訳でも無い。ならこの閉鎖的な状況で、人が消えるにはどういった要素がある。


「風通しは____」


床を見渡してみる。もしだ。この状況で身を隠せるなら、どこかに勝手口があるはずだ。そこが一瞬でも開いたなら、床の砂の模様が変化している。

すると片山が座っていたすぐ後ろに、ある点を中心に砂が薄くなっている箇所があった。


「____あった。」


俺は立ち上がって距離を取り、大股を開いて飛び上がった。空高く舞い上がり足を抱え込む。


「フンッ!!!」


俺の体重を載せた華麗な直下型飛び蹴りは、タイルを曲げ壊した。



















コツコツと足音が響く狭い通路で、私は何者かに引っ張られて歩いていた。

手首に巻き付けられた麻の綱が、まるでリードのようで、目の前の男が手綱を握っている。背中しか見えないし暗闇で風貌もわからない。シルエットだけの何かが、私をどこかへと連れていく。


「ねぇ。あなた、私をどうしたいの?」


返事も反応もない。ここまで来ると、生きているのかすら怪しい。よくよく見てみれば確かに生気は感じ取られない。

足取りが軽すぎる。捕虜を連行するにしては、1足使う事に身体は揺れていた。


「...お前。軍人か?」


まるで死にかけのように掠れた声だ。返答とは言い難いが反応。


「俺は、人間を選ばなかった。」

「...何故」

「どれだけ...苦しんでも...救いに来ない、お前達より...身近で力をくれる...彼等の方がいい。」

「___使徒、いいえ。それになる前の段階なのね。」


悪魔の性質は寄生だ。他人の身体を使い、ミツバチアリのような役割を弱い生き物に与える。上位の者は使徒と呼ばれ、下位には名前が無い。人間の形の中でゆっくり、その魂と自我を溶かされる。眷属になる前の蛹のような状態だ。

今目の前にいるのはそういう輩、なんだと思う。


「俺は地球防衛軍に言ったんだ...妹を助けてくれって...水でもいいからくれってさ...。でも聞きゃしない。名前を語る奴だっていて...俺を殴り倒し、ベットで寝るしかない妹を襲った。」

「それは___」

「でもなぁ...今じゃそいつら...話すどころか...身ぐるみ肌に至るまで剥がされて...上で吊り下がってるよ..」


そうか。こんな僻地であの人肉の数はおかしいと思っていた。あれは盗賊団の肉なんだ。多分それだけでは無いんだろうが。


「こんな世の中になっちゃいるが...悪魔も人間も___」


男は立ち止まり、私に振り向き、生気の無い瞳を向けて呟いた。


「そこまで変わんないよ...」

「____あなた。」


その瞳は涙に濡れていた。何かを感じていてもそれを止められず、ただ打ち震えるしかない自分。彼の心は悲しみと後悔で満席になっていて、出てくるものが涙に変わっただけだ。それを見て感じた。


「まだ、人間なのね。」


契約もしていないのでしょう。悪魔と取引すればまず無くなるのは涙を流すこと。魂の質は汚れて悲しみを感じる事が無くなるのだ。ならまだ取り替えしがきく。


「今すぐ離して。それから聞かせて。そうすれば何か妹さんを助ける手立てが____」

「今更。」


男は涙に濡れた瞳を閉じた。


「今更救われようなんて...思ってないよ。」


言い終えると同時に激発音が1つ。男の眉間に穴が空いて、ゆっくりと皺を伝う赤い血が地に落ちる前に、その身体を地面に預けた。


「片山ッ!!」


駆け足が迫ってくる。ブーツの独特な足音でむーさんだと分かった時、安心感よりも何か悔しさを感じていた。

私は握り拳を作って地面に横たえた男の姿を見る。


「ごめんね...もっと早く来てさえいれば、何かしてあげられたかも。」

「_____あぁああああああ伏せろ片山ぁあ!!!!!」


急な怒声に反応して顔を上げると、目の前にボールが飛んできていた。違う。この滑らかで硬そうな肌は甲殻だ。所謂毒針。

反応待たず、後ろへと身体が引っ張られると、毒針も着いてきた。射撃音がして、それに合わせて毒針も跳ねる。


「硬ぇ肌じゃねぇか。」


後ろに引かれた私もはるか後方に吹き飛ばされたため、毒針も追従を諦めたようだ。


何処からか伸びてきた毒針、それにむけてアサルトライフルを構えるむーさん。事態は硬直した

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