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行軍ばっかで辛い


何も無い荒野を歩いて、いくら経っただろうか。


きめ細かく乾いた砂粒がまるで弾丸のように顔に当たれば、マスクのアイピースの視界を阻害する。ただ平坦に伸びているだけの荒野なのに、砂嵐のおかげで前方が視認しにくい。

足はもう悲鳴を上げている。ピシピシと耳を叩く音は何時間も聞いて飽きてきた。


「まだ...つかないの?」


右隣から聞こえる可愛らしい女の子の声に振り向くと、小さな体の割に肩幅の広さが目立つ、黒いマスクとマントで覆われた人がいる。

彼女は疲れた足を前へ前へと必死に突き出している。まるで子供が雨靴を履いて歩いてるみたいだった。可愛い。だがそれはきっと疲れから、歩き方が安定しない事が


「片山。もうすぐ着くと思う。頑張れ」

「片山士長でしょ。」

「...疲れてんなぁ。俺たちもう自衛官でも無ければ地球防衛軍でもないだろ。」


小首傾げる片山は、自分の過去を現実と一緒にまどろませていた。


「あれ?...そうだっけ?」

「そうだよ。」

「...んんーなら頑張る」

「どういうこっちゃ。」


ブーツが砂を削りながら体を前に進める。こんなこと一体いつから始まって、いつまで続けるんだろうか。俺はなんでこんなことをはじめたのかと、とてつもない罪悪感に駆られている。


「あっ!!むーさん!目の前目の前!」


急に片山が前方を小さな指で指して、ぴょんぴょん飛び跳ねた。視線をそちらに向けると確かにあった。

砂が降り積もる砂塵の丘に見えていた。だがそれは金属のコンテナが、長い時間をかけて砂が振り積もっただけのようだ。これが目標の緑色の金属コンテナ。


内容物は非常食だ。



「た、助かったァ〜...」

「感動してないで早くいこ!ムーさん!!私お腹すいた!」


この向かい風の中で小さな身体を軽快に動かし、俺の腕を引いている。こんな向かい風の中でよく動けるな。いや、本当に弱い力で足を引かれているのは、俺も人に言えないくらい疲れているのだろう。


2日も何も口にしていない為、空腹にも慣れたと勘違いしていた。そんなことは無い。今口いっぱいにヨダレが充填されているのが何よりの証拠。入隊していた頃の行軍を思い出す。














大きくて重苦しいドアは、耳障りな音をひり出しながら閉めた。中に風はないがあかりもない。俺はベルトのバックルに触れ、マント全体が薄く青白い光を帯びた。


「ふぅ...落ち着いたな。」

「ならず者からぶんどった地図だもんね〜。非常食があるって話だけど。」


 鉄の壁に大袈裟な施錠をし、振り返ると闇に暴かれた片山がマスクを外そうとしていた。俺はその手を払い除ける。


「待てッ!!!絶対マスク外すなよッ...」

「なっ____何、何が___」

「___ぶんどった所から考えれば"非常食"が何なのかって...クソッ!!!クソクソ!!!」

「??」


ゆっくりと片山が振り返る。暗闇に溶けて見えなかった何かが青白く照らされていた。


「あー...まぁそうよね。」


天井には大きなフックが手を出して、大きな肉塊の首根っこを突き刺し引っ掛けていた。

物によっては手や足もない。欠損した部位や割いたであろう腹などは、光を鈍く照り返す針金で縫合されている。それに加えて食事には向かなさそうな筋肉が大きな胴体を守っている。

人間だ。これは殺して皮を剥ぎ、血を丁寧に抜き、この荒野で乾かした人間の燻製だ。


俺たちはありつけると思っていた物とは違い、膝を折ってしまった。


「食べて。」


心を拾い上げたのは片山だ。


「馬鹿___こんなもん食ったら腹壊すだろう。それにこんな気色の悪い物、どうやって食えば___」

「もっと早ければって思ってるでしょ。もしかしたら、生きた人間がここにいて、助けを求めてた。なんて考えてる。」

「...」

「な訳ない、なんて分かってたのにいそいそとさ。大変だったんだから着いてくの。」

「そら悪かっ____」

「明日の為に今日を生きてるなら、食べて。」

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