第四話 採血結果
蒼太が入学した城西拓翼大学は、
医学部や薬学部を筆頭に、栄養学部、経済学部、
教育学部を持つ私立大学である。
医学部があるとはいえ、箱根駅伝に出場している大学の中では、偏差値は決して高い方ではない。
しかし、大学独自の奨学金制度が充実しており、
滑り止めにここを受験する生活苦の学生が多いため、
それなりに人気のある大学と言えよう。
元々、女子陸上競技部に
力を入れていたことから競技を行う上での
インフラは整っていたこともあり、
八年前に男子陸上部から独立する形で
駅伝部が発足、そのまま強化指定になった。
余談だが、駅伝部員の大半は、経済学部に
所属している。推薦をもらった駅伝部員の多くを
この経済学部が受け入れていた。
一方、蒼太は高校での成績も優れていたこともあり、推薦組の受け入れ枠が少ない教育学部に入学した。
経済学部と比較して単位取得は大変だが、教師という収入の安定した職業に就き、おかんを安心させたいと思っていた。
また、蒼太自身が辛い幼少期を過ごした経験から、子どもたちを大切にしたいという想いも強かった。
そんな回想をしているうちに、蒼太たちは、城西拓翼大学附属病院に到着した。
第四話 採血結果
附属病院は、改装工事が終わったばかりであり、
とてもキレイな建物だった。
院内の一階には有名なコーヒーチェーン店や
コンビニまで並んでいる。
町医者しか知らなかった蒼太は、
「ここは本当に病院なのか?」と驚くばかりであった。
採血は思っていたよりも時間がかかり、
封筒に入れられた結果表が渡された。
「俺は一体どうなるんや?まさかクビ?
やとしたら、いや、それはさすがにないって。」
櫛部川コーチが運転する車の中で
そんな不安ばかり考えていた。
「着いたぞ。すぐに監督のところに行こう。」
櫛部川コーチが声をかける。
すでに日が落ちており、あたりは暗くなっていた。
蒼太は自分の将来が、この空のように文字通り
お先真っ暗なんだと思っていた。
トボトボと下を向きながら歩きながらと
監督室に向かう。櫛部川コーチが途中に何度も
「大丈夫だって。」と声をかけてくれた。
監督室。
平林監督は検査結果にさっと目を通すと、
無言で櫛部川コーチに渡した。
「お前も見ろ」と言う感じだろう。
監督がおもむろに口を開く。
「やっぱりな。
クシ(櫛部川)の思ったとおりだったな。」
監督もコーチも安堵したかのように、
ふぅーと息を吐く。
「蒼太。お前、貧血だ。」
監督のその言葉に蒼太は驚いた。今まで自覚症状さえ感じていなかったからだ。
櫛部川が説明する。
「蒼太。今まで日常生活に支障がなかったとしても、
長距離ランナーを続けていると、貧血を発症して
タイムが伸びなくなるケースがあるんだ。
つまり、蒼太は、高校二年の時にすでに
その症状は現れていたってことだ。」
蒼太は、「そこまで見抜くのか!」と驚いた。
そして、そこまで自分のことを考えてくれていた
監督とコーチの気持ちが嬉しかった。
「蒼太、明日からサプリメントと食事療法から
始めるぞ!嫌いな食べ物があったとしても
残さず食べてもらうからな!」
櫛部川コーチも結果を見るまでは不安だったのだろう。心なしかいつもより声が大きく感じた。
「はいっ」
蒼太はそれに負けないくらい大きく返事をした。
蒼太の箱根駅伝、今まさに、
ゆっくりとその幕が開こうとしていた。