第二話 出会い、そして上京
城西拓翼大学からの申し出は、蒼太にとっても思いもよらぬ出来事だった。
「こんな俺でも箱根駅伝に挑戦できるんか…?」
蒼太の中で嬉しさと困惑が入り混じる。
たしかに、長距離をやっている選手で箱根駅伝に興味がない選手はいない。
だけど、ウチの家計じゃ無理だ。とてもじゃないが、大学の授業料どころか、シューズ代ですら、ことを欠く状況なのだ。
蒼太は、下を向きながら応える。
「嬉しいけれど、僕は卒業したら就職する予定なんです。」
スカウトの櫛部川は自信たっぷりに応える。
「それなら、君の家に行ってもいいかい?親御さんと話がしたいんだ。なあに、お金のことは心配いらないよ!ウチには秘策があるからねー!」
もしかしたら、本当に箱根駅伝に行けるかもしれない。
そんな期待を持ってしまうほど、櫛部川の言葉に説得力を感じていた。
第二話 出会い、そして上京
今日はたまたま、おかんの仕事は休みだった。
家にお邪魔するなり、櫛部川コーチは流暢に、そして、ときに熱く、おかんにスカウトした理由を説明した。
蒼太が不調な理由は、練習不足ではなく、日頃のオーバーワークが原因であること。
蒼太の学業成績なら、無償の奨学金制度を活用できると言うこと。
東京での生活費やシューズ、ユニホーム代については、競技の成績次第ではあるが、スポンサーとなっている企業が大学にバックアップしてくれるので問題ないということ。
そして何よりも、蒼太のアツいハートがチームに必要だということ。
一通り説明を聞いたおかんが口を開く。
「蒼太。あんた、東京行きんさい。私のことは心配しなさんな。」
意外にあっさりとおかんは賛同してくれた。
「櫛部川さん、どうか息子のことをよろしくお願いします。」
こうして、俺は箱根駅伝に挑戦することになった。