第十七話 気合いと根性
12月初頭。
城西拓翼大学駅伝部寮。
この日、箱根駅伝本戦のメンバーが発表された。
三年生の努力家ランナー・郡司の離脱は
あったものの、区間エントリーメンバーは、
三年生と四年生で構成された。
三年生エースの竹村は往路の最重要区間の二区を。
シード権奪取のための重要区間である八、九区は、
それぞれ、副キャプテンの山之内と
キャプテンの大和に託された。
なお補欠は、怪我のためサブに回った三年生一名と、
山対策要員で上りと下りに強い二年生の矢車拓也、
そして一年生からは石川涼介と蒼太が選ばれた。
しかし、郡司の怪我こともあり、
蒼太は正直素直に喜べない気持ちであった。
第十七話 気合いと根性
城西拓翼大学、コーチ室。
コーチの櫛部川に蒼太は呼ばれていた。
「いいか!分かってるな!
お前は所詮、十四人中、
実力十四番目のメンバーだ!
よそから見たら、
お前なんて数合わせなんだよ!
箱根は気合いや根性で勝てるほど
甘いレースじゃない!
お前なんかの実力で、そう簡単に箱根で
使ってもらえると思うなよ!」
と、一喝された。
厳しい姿勢をみせる櫛部川に
負けん気の強い蒼太もさすがに下を向く。
無言が続く。
ひと息つくと、櫛部川はいつものトーンで
蒼太に語った。
「ただな…。
箱根にかける気持ちだけは誰にも負けねーって
ものがなけりゃ箱根駅伝は走れないんだよな。」
「!?」蒼太が顔を上げる。
櫛部川は続けて語りかける。
「そりゃ確かに、世の中、
気合いや根性だけじゃ
どうにもならないことばかりだ。
でもな、それは、気合いと根性が
当たり前に備わってる奴だからこそ、
分かることなんだぞ。
お前を監督に推薦したのは俺だ。
お前の気合と根性にかけてみたいと思う人間も
いるってことも忘れないでくれ。」
蒼太の箱根ランナーとしての覚悟は、
この瞬間に決まったといってよいだろう。
しかし、
「気合や根性だけじゃ、
どうにもならないことばかりだ。」
この言葉の意味を、
蒼太は、いや、城西拓翼大学駅伝部は
この先嫌ほど思い知らされることになる。