第十六話 外されるということ
不幸中の幸いと言ってよいか分からないが、
怪我をした二人の三年生のうち一人については、
何とか当日までに完治する目処がついた。
本戦当日まで調整が上手くいくかは分からないが、
調子がよくなれば、当日エントリー変更で
箱根を走るチャンスはある。
元々、チームでも五本の指に入るランナーだ。
監督の平林は、彼を一旦補欠としてエントリーして
様子をみることにした。
しかし、もう一人の三年生、郡司大河の怪我は
全治三ヶ月。もはや、本戦出場は絶望的であった。
第十六話 外されるということ
城西拓翼大学駅伝部、監督室。
「実家の家族や地元の友達も
応援に来るんです!痛み止め打てば走れますから、
外さないでください!」
郡司は、今にも泣きそうな声で、
監督の平林とコーチの櫛部川にくってかかる。
郡司大河。城西拓翼大学三年。
石川県生まれ。金沢勇学館高校出身。
長距離が盛んではない地域出身であるため、
中学、高校時代は、ほぼ独学で
長距離のトレーニングを積んでいた。
環境を言い訳にせず、もくもくと練習を
積み重ねている姿勢を評価され、
櫛部川コーチにスカウトされる。
一年生、二年生の時は、メンバーにすら
選ばれなかったが、さらなる努力により
その才能が開花、
正に、ジョーダイを象徴するようなランナーである。
「馬鹿野郎!
自分のことを大切にできない奴に、
仲間を大切にできるものか!
そんなことも分からない奴に駅伝を走る資格はない!もう、お前のことは使わない!これは決定だ!
分かったのなら、早く自分の部屋に戻れ!」
監督の平林は郡司を怒鳴り飛ばすと、背を向けた。
郡司は泣きながら退室した。
「クシ(櫛部川)、すぐに郡司のケアを頼む。」
涙を堪える平林の目も真っ赤になっていた。
平林も自身が大学四年生の時、当日変更で
箱根駅伝を走れなかった経験を持つ。
「郡司、次は絶対にお前を走らせてやるからな。」
指導者として、いや、一人の男として、
心に強く誓っていた。
だが、感傷に浸っている場合ではない。
監督とは、常に決断力を求められるのだ。
「十四人目か…。やはり、あいつしかいないか。」