第十五話 暗雲
10月某日ー
毎年、東京都T市にある陸上自衛隊駐屯地にて、
箱根駅伝予選会が行われる。
箱根駅伝予選会は、本戦のように比較的、
個々の力がものを言う
タスキリレー形式とは異なる。
予選会のルールをざっくり説明すると、
出場チームのランナー各12名が同時にスタートをし、
その内トップ10名の合計タイムにより勝敗を決する、
というものである。
一応、運営側からは禁止とされているが、
各チームの誰かがペースメーカーとなって
全員を引っ張るという集団走が基本的な戦術となる。
また、留学生などエース級の選手、
いわゆる「大砲」がいる大学は、
彼らを自由に走らせタイムを稼ぐ戦術もとる。
夏合宿の成果もあり、城西拓翼大学駅伝部は、
総合四位で五年連続の本戦出場をはたした。
三年生エース竹村と四年生・キャプテンの大和が
単独走でトップを走る留学生に食らいつき、
後方の四年生の副キャプテン・山之内も、
集団走のペースメーカーとして、残りのメンバーを
まとめ上げ、無難に仕事をこなした。
これだけ見れば、理想的なレース展開であり、
本戦に向けて上々の滑り出しに思えた。
第十五話 暗雲
翌日、ジョーダイに予選会突破の喜びはなかった。
主力選手である三年生の内、二名の怪我が
発覚したからである。
それぞれ、予選会でチーム内で五位、六位で
ゴールした選手であるだけに、
チーム内でも動揺は隠せない。
コーチの櫛部川は、この情報が外部に流出しないよう、
厳戒令をしいた。
箱根駅伝は情報戦だ。
箱根駅伝の上位校の中には、マスコミを使って、
偽情報を流すこともある。
情報で撹乱させることで、ライバル校を疑心暗鬼にし、
ベストオーダーを組ませないためだ。
これは、箱根で勝ち抜く上での常套手段として
認識されている。
ましてや、同じシード権を狙うライバル校に
弱点をさらけ出し、つけいる隙を与えるようなことは
あってはならないのだ。
シード権奪取を目指す城西拓翼大学駅伝部に
暗雲がたちこめていた。