第十四話 懸念
「地獄の阿蘇合宿」最終日。
「監督、終わりましたね。
大したもんですよ。今年の上級生は。」
城西拓翼大学駅伝部コーチの
櫛部川はマネージャーが集計した上級生のデータを
見て喜んだ。
特に、今年の収穫は、主力である三・四年生全員が
リタイアすることなく、合宿をやり遂げたことだ。
また、最終日に行われた20キロメートルタイム走でも、
指導陣の予想を上回る好記録が連発している。
「このメンバーで、調整が上手くいけば、予選会からのシード権奪取も可能だ。」監督の平林も自信をのぞかせる。
三年生が六名、四年生が同じく六名
来年の箱根駅伝でシードを獲るうえで、
十分な戦力である。
しかし…。
第十四話話 懸念
この上級生たち十二名のあとに続く選手が現れない。
下級生の中で箱根で戦えるレベルの選手が現れないのだ。
実際に予選会を走るメンバーは十二名なのだが、
どれだけ体調管理を行ったとしても、
上級生全員が当日に必ずベストの状態で臨めるように
調整すること(ピーキング)は、至難の業である。
つまり、ジョーダイは、実際のところ、
ギリギリの戦力で箱根駅伝に挑んでいる状況なのだ。
やはり、当日変更で走ることのできる
サブのメンバーがどうしても必要になってくる。
これは、箱根駅伝本戦にも言えることだ。
結局、残りの二名は、
二年生で唯一夏合宿をやり遂げた矢車拓也と
一年生のエース格である石川涼介が選ばれたが、
二人とも、明らかに上級生と比較して見劣りしている。
「もし、来年の箱根でシードがとれなかったら、
ジョーダイは間違いなく半永久的に箱根駅伝に出場できなくなる。」
コーチの櫛部川は、今後のチーム状況に強い危機感を覚えていた。