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蒼太の箱根駅伝  作者: 先出しバウアー
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第十話 伝説(それ)よりも大事なもの 〜山梨国際大学編③〜

復路の全選手が走り終わった。


その後、ゴールの大手町では、

各学校が陣を取り関係者やファンへの報告会が行われる。


往路優勝、総合三位、若い世代のエース誕生、

山梨国際大学ヤマガクの関係者の顔は

とても明るいものであった。


監督、コーチが挨拶をし、

区間走者に順にマイクが渡される。


そして、ヤマガクにとって最大の功労者である

オツオリにマイクが渡ったとき、

あの事件は起きてしまったのだ。



第十話 伝説それより大切なもの

〜山梨国際大学編③〜



カップ酒のビンが選手のいるお立ち台に向かって

投げつけられた。


「バリンッ!!」という大きな音とともに、

選手の足元近くでビンが粉々に割れた。


幸い、選手を含め、誰にも怪我はなかった。


しかし、駅伝ランナーにとって、

足の怪我は、たとえ些細なものであっても、

選手生命に関わることもある。


それ以前に当たりどころが悪ければ…と思うと

ゾッとする。


ヤマガクの選手に恐怖と怒りが込み上げる。


ビンを投げつけたであろう泥酔した中年が、

悪びれもなく罵声を上げる。


「外人使って優勝して、お前ら恥ずかしくないか!

箱根駅伝は日本人のもんじゃ!外人は帰れ!ボケ!」


それを聞くないなや、

一人の男がついにブチギレた。


のちに、オツオリとともに

ヤマガクのダブルエースと呼ばれる

井之上幸希(当時二年)だった。


「っとんじゃあ!?ゴラァァァァァァ!」


罵声の男に詰め寄ろうとする。


周りの駅伝部員が3人がかりで、

井之上を羽交い絞めにするなどして押さえ込む。


しかし、井之上の激昂はますます止まらない。


「離せやぁ!!お前ら、悔し無いんかぁ!?

なんで、仲間ぁ、バカにされて黙っとらないけんのじゃ!?


ジョン(オツオリ)は

なんも悪いことしとらんじゃろうがぁ!?


あいつにジョンの何が分かるっつんじゃ!?


オラァ、逃げんなやぁ!ワシがぶちのめしたらぁ!!」


監督の植木も、井之上を制止する。

普段と違ってまったく言うことを聞かない。


(メディアもいる。このままではまずい…。)と、

植木は感じていた。


その時、笑顔のオツオリが井之上の正面にたち、

いつものように明るく、そして優しく諭した。


「イノ(井之上)!ボクはダイジョウブ!!

みんな、けがしてない。

だから、一緒におうち(寮)帰ろう!!」


「あ…。」井之上は、ようやく、我にかえった。


同時に、怒りとは明らかに違う、

どうしようもなく込み上げてる気持ちで

心が一杯になった。


井之上は大声でその場に泣き崩れた。


気がつけば、オツオリも一緒に泣きながら

井之上の背中を摩っていた。


他の部員も皆泣いていた。


その涙が井之上の悔しさによるものなのか、

それともオツオリの優しさが産んだものなのかは

分からなかった。


ただ、ヤマガクというチームが、

箱根駅伝の襷とともに、

お互いを思い遣る気持ちも

しっかりと繋いでいたこと、


これは、紛れもない真実なのであった。


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