少女、騎士と誓約のキス(三)
夢を見続けていた……
時折、夢の中で私は過去に戻り、母親の優しい眼差しに見守られながら草原で遊ぶ少年になる。幼体型レアリアンが研究室からこっそり抜け出し、私と無邪気にはしゃぐこともあった。彼女たちは陽気で悪戯好きで、よく巨大な花輪を編んでは私の頭上から被せ、びっくり仰天する私を見て大笑いしたものだ。母親はそんな私の姿を面白そうに眺め、決して彼女たちを咎めることはなかった。
しかし、これらの夢は断片的で、時には意識がはっきりすることもあり、自分がまだ昏睡状態にあることを悟る。夢の中で夢だと自覚するのは、実に奇妙な体験だった。
外界から聞こえてくる声――それは主にシスターとイヴァントの会話で、断片的に私に関する言葉が届く。彼らが話さなくても、私は既に全てを察していた。あの襲撃で致命傷を負った私の魂は、あの男が作り出したレアリアンの肉体に移植されたのだ。エル・ランドでそんなことを成し得るのは、禁断の領域を研究するレアリアン教授である彼だけだろう。
そしてシスターの口から私の魂を宿すこのレアリアンの名を聞いた時、全てが腑に落ちた。セリル、培養液に六年間眠り続けていたこのレアリアンは、まさか私のために用意されたものだった!あの男の本性は知っていたはずなのに、血の繋がりがもたらすわずかな信頼が私の目を曇らせていた。今思えば、研究のためなら親子の情も捨てるあの男が、六年前に私を捨てなかった唯一の理由は、この結果を見越して準備していたからに違いない。私は彼の実験材料となったのだ。
研究所の地上にある館に私を住まわせ、シェスタに世話をさせ、レアリアンの肉体に魂を移植すること、全てが彼の計画の一部だったのだろう。教団の襲撃さえ、彼にとっては最新の研究成果を試す絶好の機会でしかなかった。たとえ対象が実の息子であっても。
悪魔のような男だ!
この考えが頭をよぎるたび、怒りが思考の隅々まで満ちていく。やがて脳裏に残るのはただ一つの声――復讐せよ、と。私自身のためだけでなく、亡き母とシェスタのためにも。
時間は過ぎていく。やがて研究室に不穏な空気が流れ込んだ。何人もの足音、低い機械音が忙しげに響く中、シスターケイトと、何に対しても無関心そうな中年女性の会話が聞こえた。彼女の視線が培養タンク越しに私に向けられているのを感じた。
「長老院もヒマなんだね。こんなレアリアンの性能評価までわざわざ出張させられるなんて、あのジジイ共の頭がわからん」
「つまり……彼女は優秀ではないと?」
「言うまでもないだろう?」女性は不満げに呟いた。「体力、精神力、変換率――基礎指標のどれ一つとして基準を満たしていない。腕の品質表示を見たか?欠陥品だ。製作者の紋章がなければ、あのラゼル・フェアランドの作品だなんて信じられん」
「では、彼女はまだ危険な状態なのでしょうか?」シスターの声は心配で震えていた。
「さあな。精神暴走状態で強制休眠させたんだろう?こんな精神不安定なレアリアンは、大概その後も問題を起こす。R.S.D.に感染して、騎士を殺すか自滅するか……契約すら結べないなら、廃棄処分が関の山だ」
「そ、そんな……!」シスターの声がかすれた。「この子はこんなに可哀想なのに……」
「文句があるなら製作者に言え」女性は少し言葉を選んだ様子で言い直した。「まあ、普通のレアリアンより確率が高いだけだ。手厚く世話すれば防げるかもしれん。それに外見だけなら、騎士たちが殺到するだろうね。この顔、この肢体、この肌……はっ、あの男、中身より見た目に力を入れたんじゃないか」
やがて騒ぎは去り、女性の声も遠のいていった。
「詳細データは部下が記録した。結果は後程。休眠を解除するなら、覚醒後は刺激するようなことを言わないように。精神はまだ不安定だ。なぜ私がこんな出張を……」
研究室が静寂に戻り、しばらくしてシスターの弱々しいため息が聞こえた。私が導き出した結論は一つ――あの男の実験は失敗だった。彼はもう二度と私の前に現れない。自らの運命さえ握れない今、復讐など到底不可能だ。
未来は暗澹としていた。
……
中年女性の検査からほどなくして、イヴァントが私の強制休眠を解除した。目を開けると、シスターケイトが心配そうに見つめ、イヴァントは相変わらず表情を読めない。シスターの助けでようやく起き上がったが、体の違和感は弱まったものの消えず、首を回したり腕を動かしたりするのが精一杯だった。シスターは退屈させまいと話しかけ続けた。彼女の言葉から、前回の目覚めてから三日経過し、シリウスというこの戦艦がエル・ランド教団東部総本部シンペテルブルクに到着間近であること、他のレアリアンと共にしばらくそこに安置され、教団の処分を待つことを知った。
もはやどうでもよかった。運命を自分で決められないなら、知ったところで意味はない。だから私はただ静かに聞いていた。あの男の行方を尋ねる気もなかった。シスターは知らないだろうし、イヴァントは知っていても教えるはずがない。何より、少女のような声が自分の口から出るのが耐えられなかった。これは私への侮辱だ。
やがて体の異変にも気づき始めた。少し集中すれば、部屋の物体の大まかな構造が感じ取れる。さらに集中すれば細部まで浮かび上がる。これは視覚とは無関係で、背後や研究室の外の廊下など見えない場所も感知でき、目を閉じても影響されない。むしろ、魂から発せられるようなこの知覚はより鋭敏になる。わかった、これは霊識だ。意識して学んだことはないが、レアリアンと多く接した私は、彼女たちが人間にはない能力を持つことを知っていた。霊識もその一つだ。こんな異質な知覚が自分に宿るとは思ってもみなかった。もはや私は人間ではなく、怪物だ。そう、培養タンクから生まれた、人ならざる怪物。
私の鈍い反応にシスターは慌てた。彼女はイヴァントを追い出し、一人で私のそばに留まった。だが私はもう彼女の話を聞く気力もなく、呆然と座り込んで頭を空っぽにした。ただ、永遠に眠り続けられればと願うばかりだった。この体が感じるべき感覚も、時間の流れも忘れ、シスターが何度か口元に何かを運んでは諦めて引き下がるのをぼんやり見ていた。深夜の研究室に響く、かすかな啜り泣きだけが残った。
やがて異変が起こった。意識が虚無の淵から浮上した時、霊識が捉えたのは研究室の扉の外に集まった集団と、気を失ったシスターの姿だった。騒動の末、二人の男が室内に押し込まれ、床に叩きつけられた。彼らが顔を上げた時、私と視線が合った。
赤髪の男と茶髪の男――目が脳に伝えた情報はそれだけだった。
重苦しい空気が流れ、扉の外の者たちの息遣いさえ感じられなくなった。しばらくして、茶髪の男が赤毛の男の背中を強く叩いた。赤髪は震えながら慌てて笑い出した。
「あ、あはは!ちょうどシスターさんを見かけたら、転んじゃっててさ!本当に不注意だよな!」
茶髪の男が速く頷いた。「そうそう、気絶しちゃってさ。まあ、俺たちがいたから大丈夫!今から医務室に送るか?」
私の視線が二人を捉えた。何を言っているのか?なぜ皆緊張しているように見える?
「君はセリルだよね?俺たちは監理会第三戦闘分隊の兵士だ。友達がダイロメイ教授のレアリアン検査チームの一員でな、君の性能評価をした連中の一人さ。で、あいつが言うには、君は今までで一番不思議なレアリアンだって……」
セリル?それは誰?ああ、今のこの体の名前か。
「その時君はまだ起きてなかった。で、あいつが賭けを持ちかけてきてさ。俺たちが君と話せたら、シンペテルブルクでメラン酒をおごるって……だから……」
赤髪の男は手を揉みながら熱心に話したが、真空のような私の思考は彼の意図を理解できなかった。ただ静かに見つめる私に、彼らの表情は緊張から期待、困惑へと変わり、やがて硬直した。その時、廊下から騒ぎが聞こえ、やがて大柄な男――イヴァントがシスターを支えて現れた。
二人の男は即座に直立不動の姿勢をとった。イヴァントは彼らを無視し、シスターを部屋の隅の椅子に座らせた。しばらくしてシスターは意識を取り戻し、まず私の方を確認すると、ようやく二人の男に目を向けた。イヴァントの視線もそれに追従する。
「所属小隊、階級、名前を申告せよ」イヴァントの冷たい声が響いた。
「監理会第三戦闘分隊、B級兵士、ビンタージ・ハミルトンです」赤髪の男の声だ。
「同小隊所属、C級兵士、ワースト・ロレインです」茶髪の男が続いた。
「本日付で、お前たちは三階級降格とする。半年間の昇進停止も併せて処す。さて……」
「消え失せろ!」
怒声と共に、二人と扉の外の集団は這うようにして逃げ去った。
重苦しい沈黙が流れ、シスターが小さく呟いた。「すみません、こんなことになるとは思わなくて、気が付いたら…」
イヴァントは何も言わない。私を見て眉をひそめ、シスターに問うた。「まだ何も食べていないのか?」
シスターは無力に頷き、傍らの棚に置かれた瓶を見た。「教団がラゼル製レアリアン用に特別調合した栄養剤です。でも、どう説得してもこの子は口にしようとしない。もう二日も…レアリアンの体質は人間と違うとはいえ、栄養を摂らなければ体が持ちません…」
イヴァントは瓶をひったくると私に近づいた。危険を感じた私は顔を背けたが、すぐに彼の手で強引に戻された。必死で首を振って抵抗しようとしたが、その手は鉄の鉤のようだった。シスターの悲鳴が聞こえたかと思うと、頬を強くつかまれ、口を開かされた瞬間、粘稠な液体が喉に流し込まれた。
頬がヒリヒリと疼き、異物が胃に達する不快感で激しく咳き込んだ。胸も窒息するように苦しい。この悪魔!睨みつける私に、イヴァントは冷たい視線を返すだけだった。
やがて彼の口元に冷笑が浮かんだ。「ようやくあの虚ろな目じゃなくなったな」
「製作者のことを考えているのはわかる。だが、教団を憎んだところで、お前が教団の所有物である事実は変わらない。力なくして抗う術もなく、死ぬことすら許されぬ――それを肝に銘じろ」
そう言い残すと、彼は空になった瓶を投げ捨てて扉に向かった。
「まだ食べようとしないなら、俺の真似をしろ。シンペテルブルク到着までにレアリアンの死体を抱えて司教に会いたくはないだろう?」
シスターは悲しげに私を見つめ、俯いて頷いた。