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隕天の詩  作者: 山風
少女、騎士と誓約のキス
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少女、騎士と誓約のキス(一)

第一編 少女、騎士と誓約のキス

第一章


神聖なる女神エレシアは人間を創造し、人間のために全世界を創り出した。では、私たち人間の存在意義とは何なのだろう?預言者ログレはこう言った。意義は長い歴史と輝かしい未来の両方に存在すると。しかし人間という生物は、それを味わうのに十分な時間的尺度を持たない。これはつまり、私たちは永遠に自らの存在意義を見出せないということなのか?


この点において、人間はこの世で最も哀れな生き物と言えるだろう。


心の底からそんな嘆息を漏らし、私は『エル・ランドクロニクル』の最後のページを閉じ、車椅子を動かして本棚の前に向かい、本を元の位置に戻した。


長時間の読書で目が疲れ、私は無意識に窓の方を見やった。床から天井まで続く、あの巨大な窓の外の景色はすでに夕暮れの黄色から深い夜の闇へと変わっていた。暖かい赤い太陽はすでに見えず、代わりに巨大な満月が冷たい光を放っていた。


この変わらない景色を、永遠に見続けることになるのかもしれない。私は小さくため息をついた。


遠くから近づいてくる足音が廊下に響き、やがてドアが開く音がした。振り向かなくても、それがシェスタだとわかった。この三階建ての館にいるのは、私と彼女だけなのだから。


「ただいま戻りました、エイヴェン様」彼女の声が耳に届いた。相変わらず優しく恭しい口調だった。


私は軽く頷いた。靴と絨毯のこすれる音がして、シェスタが私の横に立った。彼女は私が無口なことを知っているので、余計な挨拶はしない。


外見だけなら、シェスタは完璧な美少女と言えた。しかし彼女は人間ではない。人造人間として、彼女の容姿は大多数の人間の美感に基づいて設計されていた。そしてこの館の地下数十メートルにある研究所には、彼女と同じように非凡な美貌を持つ少女たちが十数人いた。彼女たちはすべて培養タンクで育てられ、わずか数年で十代の人間の少女のような姿に成長する。その後、彼女たちは騎士の血を引く者をマスターとして選び、その人がKGを操る際の最も信頼できる力となる。彼女たちのような人造人間は、人々からレアリアンと呼ばれている。


「さきほど研究所に行ってきました」


彼女は私の傍らで静かに言った。


「セリルの培養タンクは開かれましたが、どういうわけか、彼女はまだ目を覚ましません」


彼女の声にわずかな心配が混じっているのを感じた。以前から聞かされていたが、セリルは研究所で製造中の最後のレアリアンで、シェスタにとっては末の妹にあたる。工場で大量生産される量産型レアリアンとは違い、シェスタのような特注で設計製造されるレアリアンは人間と変わらない豊かな感情を持っており、妹を心配する気持ちもその証だった。


「父上は一言もおっしゃいませんでしたが、とてもお困りのようでした。他の姉妹から聞いたのですが、父上は三日三晩、一睡もなさっていないそうです…」


シェスタはまだ話を続けようとしたが、それを聞いた私は突然いらだたしさを感じた。頭が熱くなって理性を失う前に、私は急いで手を挙げ、彼女にこれ以上話さないよう合図した。


父上――心の中ではそれがレアリアンたちが自分の製造者を呼ぶ言葉だとわかっていたが、私は特にこの言葉を聞きたくなかった。あの男――ラゼル・フェアランドは、シェスタや研究所のすべてのレアリアンの製造者であり、かつては「レアリアンの父」と呼ばれたこともあるが、私にとっては最も嫌悪すべき存在だった。


「あの男について、3日前に私の前で二度と口にしないと約束したはずだ」


少し待って、自分の声に感情の起伏がないことを確認してから、私は言った。


「ですが、どうであれ、彼はあなたの実の父親です。私はいつも思うのですが、血の繋がりは憎しみに取って代わられるべきではないと…」


「シェスタ」私は彼女の言葉を遮った。「あの男が君に私の世話をさせてから、どれくらい経った?」


突然の質問に、少女の声は止まった。しばらくして、彼女は静かに答えた。「6年になります」


私は頷き、窓の方を指さした。「月の下にあるあの崖が見えるか?昼間は白黄色で、夕暮れはオレンジ色、夜は暗灰色だ。この景色を私は6年間、変わらずに見てきた。私自身も同じだ。あの男に対する思いは、6年前と何も変わっていない」


私は車椅子のレバーを操作して方向を変えた。シェスタがついてこようとしたが、手を振って止めた。


「すまないが、一人で静かにしていたい。用事はもうないから、ついてこなくていい」


車椅子が深紅色の絨毯を軋ませながら、ドアの前まで私を運んだ。出る前に振り返ると、シェスタがまだ窓の前に立ち尽くしているのが見えた。冷たい月光の中、彼女の後ろ姿は何かを失ったように見えた。唇を動かして謝罪の言葉をかけようとしたが、口をついたのは別の言葉だった。


「一度起きたことは、二度と元には戻らないんだ…」


不意に笑みが浮かんだ。もし今私が本当に笑っているとしたら、それはきっと苦笑いだろう。


一歩。


二歩。


三歩…


車椅子を進めながら、私はいつも心の中で歩数を数える。もし歩けるなら、この距離を何歩で歩き切れるかを計算するのだ。こんなに時間が経っても、この癖は直らない。時々思うのだが、これは過去への無意識の未練なのだろうか?今の私は走ることも跳ねることもできず、この館から出ることさえできない。唯一できるのは書斎の本棚から本を一冊取り出し、長い一日をやり過ごすことだけだ。


おそらくこれは時間つぶしですらない。私の時間はすでにあの書斎の大きな窓の前で止まってしまったのだから。


百十九歩。


百二十歩。


百二十一步。


心のカウントが止まった。ここは廊下の角で、曲がって10メートルほど行ったところの壁に大きな肖像画がかけられている。車椅子を動かして絵の前に来ると、画中の人も穏やかで優しい眼差しで私を迎えてくれた。


母さん、また会いに来たよ。心の中でそうつぶやいた。


今の私にとって、この場所が唯一の慰めだった。心が苦しくなると、私はここに来てしばらく過ごす。ここにいる間だけは、人形のような今の自分を忘れ、本当の自分――草原を駆け回り、甘え、笑いあったあの少年を思い出せたのだ。


「エイヴェン、そんなに走ったら転ぶわよ…あら!」


「あらあら、うちのエイヴェンが怒っちゃった!」


「エイヴェンは大きくなるのが早いわね。大きくなったらきっとハンサムで、女の子にもてるわよ。あら、照れちゃって!」


あのいつも優しく微笑んでいた母さん、あの温かい腕で私を抱きしめてくれた母さん、あの「あらあら」が口癖だった母さんは、もう戻ってこない。


胸から淡い悲しみが湧き上がり、全身に広がった。私は下唇を噛んでうつむいたが、涙は出なかった。もう涙は枯れ果てていたから。


銀色の月光が廊下の窓から差し込み、優しいヴェールのように私を包み込んだ。これは母さんからの無言の慰めなのかもしれない。私は次第に平静を取り戻した。顔を上げ、母さんの肖像画をもう一度深く見つめてから、車椅子を動かして元来た道を戻ろうとした。


心の奥ではよくわかっていた。書斎に戻れば、またあの無表情な自分に戻り、次の傷心に襲われてまたここに来る時まで、ただ耐え続けるのだと。


遠くから近づく轟音が突然耳をつんざき、続いてガラスの割れる音がした。顔を上げると、数メートル先で、砕け散ったガラスの破片の中から一人の人影が立ち上がるのが見えた。窓を破って侵入してきたようだ。


それは17、8歳くらいに見える少年だった。黒いタイツに身を包み、細身で背が高く、垂らした両手には短剣を逆手に握っている。銀白色の髪の下の整った顔は血の気が引いたように白く、無表情のまま私の前に立ち上がった。


閉じていた目が開かれ、私は一対の異様な瞳を見た。左目は深い紺碧、右目は真っ赤で、赤く輝き、銀灰色の月光の下で妖しく燃える炎のようだった。


「こちらナイトフレイム、第三種目標を発見。排除を開始する」


彼の薄い唇が動き、独り言のようにそう呟いた。声はかすかだったが、静寂の中ではっきりと聞こえた。


何が起こっているのか理解する間もなく、私はあの右目が長い赤い残像を引きながら視界全体を覆う黒い影に変わるのを見た。同時に、胸から全身へと一気に広がる冷たい感覚が襲った。目が追いつくのに少し時間がかかり、ようやく目の前の少年の姿を捉えた時には、彼が手を引く動作しか見えなかった。そしてすぐに視界はさらにぼやけていった。


痛っ!


一瞬の痛みが全身の感覚を奪うように襲った。車椅子の感触が消え、代わりに心臓の辺りから温かいものが噴き出しているのがはっきりと感じられた。視界が横に傾き、暗赤色の液体が視界に流れ込み、目の前の少年の足を濡らすのを見て、私は地面に倒れたことに気づいた。


体の感覚はすぐに完全に消え、視界も次第に暗くなっていった。これが瀕死の感覚なのか?何度も想像したことがあったが、こんなに突然訪れるとは思わなかった。しかし、これも悪くないかもしれない。今まで人形のように生きてきたのは、まさにこの瞬間を待っていたからではないか?この自我が終われば、母さんにまた会えるだろうか?あの無邪気な少年に戻って、母さんの腕の中で物語を聞かせてもらい、子守唄を歌ってもらえるだろうか?それなら本当に素晴らしいことだ…


深い眠気が襲い、目が自然に閉じていった。視界が暗くなる直前、シェスタが廊下の角から駆け寄ってくるのが見えた。口元からは私の名前を呼んでいるようだったが、残念ながら何も聞こえなかった。


今までお世話になったシェスタに感謝の言葉も伝えられなかったことが、死ぬ前の唯一の後悔かもしれない…


淡い思いが闇に飲み込まれていった。


………


……



暗い霧が私の周りで渦巻き、時折風のうなり声が混じる。嵐の前のような天気だ。しかし体は霧の中に静かに浮かび、何の影響も受けていない。これが脳の死の前の幻想空間だとわかっていても、恐怖や孤独などの感情は一切なかった。流れ出た血と共に私も空っぽになり、ただの殻だけが残っているようだった。


あの襲撃者は誰だったのか?その後駆けつけたシェスタは、彼と戦うのだろうか?シェスタは傷つかないだろうか…いや、もう意味のないことだ。私は、エイヴェン・フェアランドはもう死んだ。22年間の人生の実感はあまりに希薄で、この波乱のない死に方とよく合っている。これは自分を納得させるのに十分な理由だ。


悔しいか?どこからか声が聞こえた。


いや、違う。少しの後悔はあるが、大したことではない。


ふふん。その声は笑った。その中に少しの軽蔑が含まれているのを感じた。簡単には捨てられないものもあるのだよ。


周囲の空間が突然変化し、不規則に流れていた霧が生命を持つかのように集まり始め、巨大な入り口を持つ通路を形成し、私に迫ってきた。いや、霧が動いているのではなく、私が通路の方へ飛んでいるのだ!気づいた時には、私はすでにこの霧の通路の中を進んでいた。キラキラと光るものが前方から飛んできて、引き寄せられるように私の体に入り込む。そのたびに目の前が明るくなり、次々と幻影が現れた:


広場に整列する兵士たちの姿、銀の鎧と槍が太陽の光を反射して輝く様子。


真っ赤な夕陽を背景に地平線に立つ巨大な人影が村に向けて砲弾を放ち、村全体が眩い光に引き裂かれる光景。


吹きすさぶ寒風の中、雪山を蟻のように列をなして進む人々、そして倒れたまま二度と起き上がれない者たち…


数え切れない記憶の断片が次々と私の記憶に侵入し、それぞれが宿す強い感情が一斉に私の神経を刺激した。これらの情景の中を進むうちに、私は狂ったり、悲しんだり、大笑いしたり、絶望したりした。進む速度はますます速くなり、さらに多くの記憶が洪水のように私の脳に流れ込んできた。その中には卑劣で汚らわしい欲望も含まれており、私の耐えられる限度をはるかに超えていた。なぜ私はこんなものを受け入れなければならないのか?抑えきれずに叫びたい衝動に駆られたが、口は塞がれたように一声も出せない。記憶はなおも我先にと私の脳に押し寄せ、意識を踏みにじり、傷つけた!女神よ、止めて、早く止めてくれ!魂が泣き叫んだが、残りの記憶は私を許さず、最後の瞬間に、崩壊寸前の私の魂にすべて流れ込んできた。


私はおぞましいほどの絶叫を上げた。その瞬間、私は通路の終点を越え、広大で深遠な夜空に浮かんでいた。


魂の感覚が広がり、6年間住んだあの館が燃え盛っているのが見えた。赤と黄色の炎が窓から這い上がり、夜空を焦がしている。これを引き起こしたのは遠くの夜空に浮かぶ巨大な黒い影。その影の下から光が分離し、長く明るい尾を引いて飛んできて、建物に突っ込み、夜空を震わせるほどの爆発音を立てていた。


魂の感覚を地下に伸ばすと、特殊合金でできた隔壁を突き抜け、レアリアンと呼ばれる少女たちが狭い金属の通路で詩魔法を使い、銃を持った侵入者と戦っているのが見えた。さらに下へと進むと、狭く薄暗い地下通路があり、誰かが通り抜けようとしているようだった。私は興奮し、詳しく見ようとしたが、魂の感覚が広がりすぎたせいか、どんなに努力してもぼんやりとした人影しか見えなかった。その時、先ほどの声が再び響き、澄んだ声が簡単に私の注意を引きつけた。


さあ、行こう。


行く?どこへ?


魂の帰る場所へ。


私の意識は何かに引かれるように前に進み、速度を増していった。目的地はきっと谷の東側のあの崖だろう。書斎の窓からよく眺めていたあの崖だ。そこに立つ細身の人影と、その腕に抱かれた毛布に包まれた繊細な体に気づいた。私はまっすぐその体に向かって飛んでいった。意識と体が接触する直前、毛布の端から白く透き通った手が伸びてきて、何かをつかむように私の方へ向けられた。その手の後ろには、幻惑的な光を放つ氷のような青い瞳があり、その瞳に映る燃え盛る炎は鮮烈だった――


絶望的な叫び声が私の耳に響いた。それは私の声ではなかったが、私は自分自身を見たような気がし、心が崩れ落ちる音を聞いた。


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