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セレン・ホッチキス

「僕は雑誌の取材をしてるんだ。このあたりに「ゲーム・コンピュター博物館。」っていう

私的な博物館があるということを聞いたんだけど、知らない?」

記者が言うと、タングステンの指輪の少女はまた笑い出した。


「それ、あたしんちだぁ。あたしんちを取材に来るんですか? 物好きなんですね。」



この娘の笑顔は吸い込まれる、まるで草むらに咲く一輪のヒマワリのようだ。

そのとき記者は思い出した。彼女の制服の胸に揺れる小さな丸いペンダントのようなものに

先ほど自分を助けてくれた謎の物体のことを。


「私が連れて行ってあげるね。 え、これが気になるの?」

記者根性というか、その球体をあまり熱心に見ていた彼に、道案内をはじめながら

少女は教えてくれた。


それが世の中をひっくり返す位のものだとわたしは直感で気づいた。


「スイート・シックスティーンっていうの。これもがパパが作ったの

光コンピューターのプロトタイプ。」


それを聞いて記者は思った。

(光コンピュータ。知ってる。これでも以前はサイエンスライターの端くれだったから。

20世紀の終り頃、ムーアの法則や発熱問題などにより半導体の限界に気づいた各社が

熱心に開発をすすめたけど、集積度があげられなかったり、発光素子や

演算、記憶部分それが半導体以上に熱を持つという問題で頓挫したものだと思っていた。

今は従来技術の並列化やCoreを増やしたり

そもそもの演算のしかたが違う量子コンピュターが現在の主流だったって聞いた)




 タングステンの指輪の少女は続けて教えてくれた。

「そう、だからパパ達は薄膜生成やエッチングによる半導体方式じゃなく

ナノマイクロ結晶格子積層生成を行い光演算装置を作り上げ、

二次元からの変換による疑似三次元じゃない完全な3D記憶装置をつくり

そして、冷たい光とよばれる全く熱を発生しない生体素子と組み合わせ

もうすこしで世に出せる段階まで出来上がってたの。」


あっけにとられた。何だこの子は女子中学生とは思えないくらい無茶苦茶技術畑に詳しいじゃないかと感心してると、


この娘は出会ってからはじめて暗い顔をみせた。


「月曜革命が駄目にしたんだね。この国は工業国であることをやめてしまったから。」


だが、そのことには触れずに、彼女は全然違う話をしだした。


「私、生まれつき心臓が弱いの、だからこれはパパが作ってくれた

私のペースメーカーの制御回路であり、その外部誘導電源なの。見せて上げる。」


そういうと少女は首からネックレスを外し、その先の小さな球を見せてくれた。その直径1.6センチくらいのガラスみたいな球を覗き込んだ瞬間、記者はあっと声をあげてひっくり返ってしまった。

その透明な球体の中には無数の極小サイズの

格子があり、この世の中にあるすべての

色彩に満ちていた、そして途方もない速度でそれらが生きているように明滅していた。

それは都市のようにも見えた。この小さな球体のなかには一つの世界があったのだ。


その球をみていると、記者は自分まで聡明になった気がした。世界を覗き込んでいる神のごとく。


「わかったよ全部。

君が案内してくれてるのは。世界最新の製品を送り出していた

50NYの元研究所だね。博物館なんていって偽装しているけど。


そして君のパパは50NYの伝説のエンジニアといわれているあのホッチキス博士だね。


少女はニコニコしながら頷いた。


「いえ、ただの博物館よ今は。だけど、パパをそんな風に言ってくれる人がいてうれしいわ。今じゃ、ただの変人扱いされてるんだから。」




草原を犬が先頭に立ってかきわけながら進んだ。

二人ともちょっと駆け足になりながら。

そのとき記者はなんとなく中年の自分がこの子といると中学生に戻ったような気がした。


この娘の中学のクラスメートがうらやましい

こんな子がいたら毎日がきっとすごく楽しいだろう。

そして、そのうらやましいクラスメートもあるとき

つらい現実に気づくんだろうな。この娘は一人しかいないんだと。


そんなことをつらつらと考えていたら

ちょっとだけ先をいくこの娘が振り返ったので、気になっていたことを聞いた。


「さっきはなしかけていた テルルというのは誰。


少女は言った。「あかあさん。」


「お母さん。ああペースメーカーのオペレーティングシステムの名前?」


「まあね。少し違うけど まあね。」


ちょっとからかってやろうと思って 記者は言った。


「君の名前を当ててみようか 。」


「セレン・ホッチキスさんだね。」



「どうして知ってるの。」



「さっき君の学校の子たちに聞いたんだ。君があの子たちがいっていたセレンちゃんだね。博物館に住んでるの?。」


「住んでいるというか、生まれた時からあそこにいるって感じかな。まあ、行けば解るわ。早く行きましょ。」


「 セレンっていうのは元素の名前。お母さんがつけてくれました。元素番号は34番。

でも出席番号は違うよ、 うちの中学は二年生が6人しかいないから。」



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