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父からの報告

 その日の夕食後。

 日中あったことをフロラに報告しながらエリスが3階のダイニングルームで過ごしていると、父がやってきた。

 そして席につくなり驚くべき話を切り出す。


「エリス、お前に縁談が殺到している」


「えっ!」


「まあ、縁談が?」


 思わず驚きの声を漏らすエリスに続き、フロラが高い声で反応する。

 父は重く頷いた。


「ああ、私もなぜ急に? と不思議に思ったが、今日の夕方、訪問して下さった皇太子殿下とお話しして理由がわかったよ。

 エリス、お前、昨日テイラー侯爵家で騒ぎを起こしたそうだな?」


「騒ぎって、単にエリスが男性に囲まれただけよ」


 笑って言うフロラを父が睨みつける。


「フロラお前の仕業だな? そのテイラー侯爵家からも結婚の話が来ている。なんでもお前への罪滅ぼしを兼ねてとのことだ」


(それって、私とマシュー様とってこと?)

 

「あら、そこは私のおかげと言うべきなんじゃないの?」


「確かに良縁に違いないが、結局他のも含めすべてお断りすることになりそうだ。

 皇太子殿下がおっしゃるには、エリスにはこの上ない相手との結婚が約束されているので、安心して全て断って欲しいとのことだ」


「つまり、クリストファー殿下が、私の結婚相手を斡旋してくれるってこと?」


「それも、テイラー侯爵家を上回るような相手ということ?」


 エリスとフロラの疑問の声に父が複雑な表情で答える。


「そうなるな。いずれにしても皇太子殿下に限って嘘は言わないだろう」


「そんなっ……」


(そこまでは望んでないというか、テイラー侯爵夫人の助言から格差婚は気が進まないのに)

 

「それと、これからの登下校は皇太子殿下がお前を送迎してくれるそうだ。さっそく明朝から馬車を回して下さるそうなので、必ず迎えを待つようにとのご指示だ。

 ここの住所も訊かれたので教えてある」


「ええっ! なぜ送り迎えまで?」


 ちょうど相談したかったとはいえ、度を超えたクリストファーの親切にエリスは大きく引いてしまう。


「お前を危険から守る為だとおっしゃっていたが」


(つまり親友のクリストファー殿下でも止められないぐらい、ネイト様が私を怒っているってこと?)


 昨日会いに行くと言っていたし、他に理由が思いつかない。


 想像すると怖すぎてエリスはその夜なかなか寝つけなかった。

 とうとうベッドから起き出し、気分転換に鞄の底から書きかけの小説を取り出す。


 それは姫君と騎士の恋物語。


 手に取って眺めながら、これだけは間違っても誰にも読ませられないと思う。

 昼間レジーにされた過去話以上の恥ずかしさで、確実に死ねてしまう。


 そう、傲慢な性格は凄く嫌なのに、ネイトは見た目だけはエリスの好みそのものだった。

 おかげで理想の男性像を思い浮かべて小説を書いていたら、ヒーローである騎士の外見が完全にネイトになっていた。


 しかも、願望が内容に反映されてしまい、物語の中の騎士は姫君を深く愛しており、彼女が危機に見舞われるたびに必ず助けに来る。

 今となっては皮肉過ぎる内容だった。


(実際のネイト様は私を微塵も愛してないし、絶対に助けに来たりしない。

 それどころか逆に、婚約破棄してもおさまらないほど私に腹を立てており、危害を加えてきかねない現状だというのに)


 もしも愛が理由なら自由を制限されても許せていたかもしれない。

 

 なんて今更有り得ないことを考えても仕方がないし、もしそうだとしてもテイラー侯爵夫人みたいに辛い結婚生活になっていたに違いない。


(だから、明日クリストファー殿下に会ったらはっきり言おう。

 釣り合いの取れない相手との結婚は望んでいないと。

 それと、送り迎えについても断ろう。

 ネイト様の方をなんとかして貰う方向で)


 そう思って挑んだ翌日の朝。


「おはよう、エリス」


 皇室専用の豪華で広い馬車に乗り込んだエリスは、皇子様の輝くような眩しい笑顔に迎えられる。


「おはようございます、殿下」


 条件反射で身をのけぞらせて前を通り、可能な限り距離を取って対面の席に座る。

 そんなエリスの態度にクリストファーの表情が曇る。

 

「そんなに身構えなくても大丈夫だ。君の気持ちは充分理解している」


「……申し訳ございません」


 つい苦手意識が出たことを謝ってから、気まずさを誤魔化すようにさっそく質問する。


「昨日の昼休み、私を探しに教室にいらっしゃったそうですが、何か御用だったのでしょうか?」


「いや、単に君が心配なので傍についていたかっただけだ」


「ネイト様のことでですね」


 察しながら、『だったら親友で同じクラスのネイト様の方を監視して下さい』とエリスがお願いしようと思ったところ、クリストファーがかぶりを振る。


「いいや、ネイトに限らず、男性全体を警戒してだ。先日のテイラー侯爵家での騒ぎを見て強い危機感を抱いたからね」


「えっ、どういうことですか?」


 予想外の返事に思わず顔を見返すと、エメラルド色の瞳に熱っぽい光を浮かべ、クリストファーが酔ったような口調で語る。


「エリス、君はあまりにも魅力的すぎる。

 その罪なまでの美しさは、花に群がる蜂のごとく、多くの男性を引き寄せてしまう。ゆえにネイトがそうしていたように、常に傍について、男達の邪な欲望から君を守る存在が必要なのだ」


 飛び上がるように腰を浮かせてエリスは否定する。


「待ってください。あれは借り物のドレスの効果で、今まで一度もあんなことはなかったし、大げさ過ぎます!」


「大げさなどではない。君が自覚していないだけだ。

 従って君には、登下校はもちろんのこと、昼休みも放課後も、私の目の届く範囲に居て貰う」


「ええっ!」

 

 クリストファーの恐ろしい発言を聞き、エリスはネイトの『男というものは皆獣だ』という口癖を思い出す。


 さすが親友同士。

 思い込みの激しさと考え方がそっくりだとエリスは思った。


(しかし、どうしよう。

 全ての男性が警戒対象なら当然レジーも含まれてしまうだろうし。

 一日中監視されるならネイト様と婚約していた時とあまり変わらない)


 思わずエリスが頭を抱えていると、クリストファーが勝手に話を進めていく。


「もちろん、最大限の配慮はする。ネイトの目もあるし、自分で言うのも何だが私は女生徒に絶大な人気があるからね。君が嫉妬に晒されないよう、信頼できるマシューやロニーに協力して貰うつもりだ」


 すでに話は通してあったらしく、学院の前に着くと、立って待っているマシューの姿が見えた。

 さらに、クリストファーに続いて馬車から降りた直後、その後方で呆然とこちらを見ているネイトの存在にも気がつく。


 結局、エリスは、それ以上の話ができないまま二人がかりで教室まで送られ、昼休みについても「迎えが来るまで待つように」とクリストファーに押し切られてしまった。

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★完結済み連載→【近々番外編更新予定】なんでよろしくお願いします★「侯爵令嬢は破滅を前に笑う~婚約破棄から始まる復讐劇~」
― 新着の感想 ―
[良い点] 今のところ推せる男キャラが皆無なのに続きが気になる点 [気になる点] ロニーがまだ落ちていないがどうなるのか [一言] 数年後、城のある一室にて 生徒会メンバー(男のみ)+レジー【全員独身…
[良い点] >>君の気持ちは充分理解している( ー`дー´)キリッ 俯瞰視点では王子様の行動が喜劇に見えてしまう。最高位の優良物件なので自意識過剰って訳でもないのが困りますね。親友共々思い込みの激しさ…
[一言] 出てくる男キャラすべてクズっていうのは新鮮ですごく面白いですね( ´∀` )b 続き楽しみにしています♪ヾ(*・∀・)ノ
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