2 転移って憧れだよね。
全身緑色の肌に、角のような物を生やした少女と森の中で出会った。
少女は何かに怯えている様子で僕を警戒していたが、頭を撫でてあげると敵でないと判断されたのか服にベッタリと鼻水をつけられながら僕の胸で大泣きした。
しばらく泣き崩れる少女を抱きしめ返していると、落ち着いたのか鼻をすすりながら何かを話し始めた。
「ん~困った。 分かっていたが何もわからん・・。」
おかしいな。
異世界召喚っていうのなら言語が何故か理解できるご都合設定がされているはずなのに、少女の言葉は数学の公式を並べて言っているくらい頭に入らない。
「・・・こういう時は、こちらの世界の文明を使うしかないな!」
僕はポケットからスマホを取り出してスマホ搭載AI『シリ』を起動させる。
少女はスマホを不思議そうな瞳で見つめる。
深呼吸するように息を吸い、少し間を空けて声をだした。
「ヘイシリッ! シ~リ~! この子の言語を教えて!!」
ピコンッ!っと声に反応した音が流れる。
しばらく検索中の波線が流れたが、結局シリからは『言っている意味がわかりません。』と冷たい声で返事をされた。
「分かっていた。 分かっていたさ。 でもさ? もしかしたらこの子の言語が英語とかギリシャ語とかに近い物だったかも知れないじゃないか。 そうだと信じたいじゃないか!!」
勝手に1人で喋りだす僕に少女はまた怯えた様子を見せるが、僕はすぐに頭を撫でて笑顔を見せる。
(まぁ落ち着き給えよ僕。 こんな小さな少女の前で心を乱すなんて恥ずかしいぜ!)
少女のような言語を持つ種族みたいな生物がいるのなら、何らかの文明的な村や街が近くにあるはずだ。
まずはそれを探す事にしよう。
僕のストーリー! 第一話! 村を探そう!
ここから僕の物語が始まるのだ!!
「とりあえず君の親御さんか知り合いのいる場所まで行ってみようか!」
気合を入れてこれからの目的を自分なりに考え付いた瞬間だった。
ピコンッと先ほど何の意味もなさなかった僕のスマホが鳴った。
『検索がヒットされました。 種族ゴブリンが住まう土地、【魔国】。 そこに少女の両親と見られる生体反応を検出。』
「・・・まって。 これシリが喋ってんの? なんかすげぇ流暢に喋るんですけど。」
『行先を検索・・ヒット。 ここから魔国まで約10キロメートル。 画像を表記します。』
何が起きているのか分からない中で僕のスマホは勝手に知らない国の地図を表示した。
そこには1つの大きな土地に3つの国が分裂されており、その中で1番小さい国の中心部分に赤い点が表記されている。
『提案。 スキルポイントを1ポイントを獲得。 これにより目的地への転移が可能になりました。 転移しますか?』
地図が表示された画面に『 イエス or ノー 』と表記された。
僕はゴクリッと唾をのむ。
シリがさっきから1人で流暢に女性の音声で喋っている事に疑問を持つが、それよりも 転移 という単語に僕は興味を惹かれていた。
「て、転移ってもしかしてあれ? 今いる場所から遠い場所へ一瞬で行けちゃうあれ?」
『ハイ。』
「転移する事によって体の一部が置いてけぼりとか対価を払わないといけないとか悪魔と契約しないといけないとかあったりは?」
『しません。 強いて言うならスキルポイントを使用すると、またポイントが溜まるまで同じスキルは使用できない事のみがデメリットとなります。』
僕は少女の手を握り、スマホの画面を躊躇なく押した。
―――イエスへ。
『スキルポイントの使用を確認。 スキル【転移】。 ―――起動。』
足元から蒼く輝く粒子が舞い上がり、僕と少女の身体を包み込んでいく。
そして、全身を包み込み終えると次の瞬間に爆散して散って行ってしまった。
「おぉ・・・。」
ここにきて2回目の同じリアクションを取る。
人間、驚くと「おぉ・・」としか言えない物なのだな。
さっきまで立ち尽くしていた森の中の景色は何処にもなく、今僕の目の前に広がる景色は湯気が漂う広い温泉のような浴場だった。
そしてそんな広い浴場の中に誰かが驚いた表情でこちらを見ている。
赤い長髪は背中を覆い、タオルで前を隠しているがそれでも分かるスタイルが良いルックス。
そして何より、誰が見ても可愛いと断言できる美貌!
ヒロインは・・・ここにいた!
「貴女のお名前はなんですか?!」
その返答で返ってきたのは、顔を真っ赤にした可愛い女性が悲鳴を上げる声だった。