第87回 バン インド式の竹ロケット
黒色火薬使用の上、本体に金属がほとんど使われていません。
バン
インド式・竹ロケット砲
14世紀頃に作られたと言われる。後にコングリーヴ・ロケットと言われる初期型のロケット砲の初期も初期のタイプ。
バンと呼ばれているとされている資料が手元にありますが、グーグル先生に聞いても出てこない……
今回はバンという名前で進めて行きたいと思います。
インドはバンを大量に持たせた専用の部隊を作り、敵の一団に雨のように降り注がせるといった運用をしていたようです。
ロケット砲部隊は「Cushoon」と呼ばれていたようですが、この単語の読み方も分からない……
謎が多い武器ですが、今日はこの初期型ロケット砲を見て行きたいと思います。
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~材質~
火薬は中国で発明されました。ここで作られた黒色火薬は日本にも伝わり、火縄銃などにも使われていましたね。
バンが作られたのは14世紀頃とされています。これは13世紀頃にインドに火薬が伝わったとされており、この火薬を使った武器を考える中で生まれたと考えられます。
バンが武器として表舞台に登場したのは1368年の頃だと文献から読み取れているそうですが、歴史の研究が進むにつれて変化してきそうな印象もあります。
材料は細い竹、筒、縛るための革紐、火薬、導火線というシンプルな物ばかりです。
筒に火薬を詰め込んで、導火線を取り付ける。これを細い竹の棒に括りつけて出来上がりです。
要するにロケット花火なんですが、長さ2メートル、重さ2.5~3キログラムという超巨大なロケット花火です。
重さ3キログラムにもなるのですが、使っているのは植物性の材質の筒と細い竹なので、この重量のほとんどが黒色火薬が占めています。
発射台もあり、鉄を引き延ばしてセッティングした移動式の発射台に乗せたり、大きな筒に細い竹部分を入れられるようにしてありました。時に手で持って発射する事もできました。
後々には鉄などのより強固な筒を使ったり、竹を別の材質に変えたりして、より大量の火薬を詰め込んで飛距離を伸ばした物が登場してきたようですが、そうなるともう「バン」ではなく近代兵器のカテゴリーに入ってきますね。
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~使い方と威力~
細い竹の棒部分を持って、導火線に火をつけると、火薬が燃える轟音を立てながら竹の棒を含んだ全体が勢いよく飛んでいきます。
導火線から中の火薬に火が回ると、結構な威力の爆発を引き起こします。
黒色火薬とは言えども数キロもの火薬に引火するわけですから、その爆発が産み出す爆音と衝撃はかなりのものでした。
こうしたロケットは命中率が低いという欠点があるのですが、インドの人達はこれを数と技術でカバーして驚異的な命中率を誇っていました。
数を作るというのは材料がシンプルなので、火薬がある限り即座に大量に生産することができますね。
技術というのは、バンの筒の直径・相手との距離から命中する発射角度を計算して割り出します。この計算と発射角度の設定が技術です。
割り出した角度に沿って、ロケットの発射台の角度を調整して、導火線に火をつければあとは勝手に敵兵に飛び込んで行ってくれるという寸法です。
ロケット花火ですら、耳元で爆発したらとても驚きますし、衝撃でヒリヒリしますね。直撃でもしようものなら火傷くらいは確定です。
筆者のピーターもロケット花火を楽しむ時に発射台にしていた瓶が倒れて、自分が狙撃される体験をした事がありますが、あれは背中に冷たい汗が滴りますから、実践で使われたら士気が下がりますね。
バンの威力はロケット花火の比ではありません、射程は900~1000メートルまで飛び、騎乗の兵士を落馬させた上に馬を混乱させるくらいの事をやってのけました。
ロケット花火を的に当てるという事は至難の業ですが、インドの兵士達はこれを計算という技術を用いて高確率の命中率を叩き出しました。
なんという計算、恐るべき数学国家です。
とは言っても計算だけでは扱いまで上手くいきませんから、発射台への並べ方、点火の仕方など細かいテクニックもあったことでしょう。
インドを占領しようとしてやってきたイギリス軍はバンの集中砲火を浴びて、侵攻に大苦戦を強いられました。
視界に入った所でロケット砲が直撃する角度で飛んでくるわけですから、何十発も直撃しよう物なら壊滅的な打撃になります。
直撃しなくても、竹とは言えロケットが至近距離で「ちゅどーん」としている所を進軍するわけですから、そこを悠々と進むなんてことはできませんよね。
数百年前の武器なのに、近代兵器的なイメージをもってしまうほどの威力を感じます。
た~まや~! か~ぎや~!
水平に飛ばす花火がいかに危ないかってことですね。




