第86回 ヌンチャク 自滅した人は星の数のごとく
みんな大好き!
ヌンチャク・双節根・両節根・ヌウチク
誰でも知っている有名な武器。
2本の棒を紐でつないだだけのシンプルな形状でありながら、相手にぶつける以外にも様々な使い方をすることができます。
諸説ありますが、沖縄が発祥の地とされている説が有力です。
沖縄では「むーげー」という馬具があり、馬の口につける轡でした。これを有事の際に武器として扱えるように工夫した事と、これを扱う技術が編み出された事がヌンチャクの起源とされています。
棒や紐の部分の長さには特に決まりはなく、棒の長さも、紐の長さも様々ありました。
極端な物になると、数メートルもある紐がついており、紐の部分を持って振り回したり、紐をあいてに絡みつかせる攻撃を得意とするヌンチャクまでありました。
さらに、紐も鎖にしたり、棒の部分も金属に変えたりとアレンジしたバリエーションも展開されている程です。
一般的なイメージだと、肘~手くらいの長さの棒2本が、棒の半分くらいの紐か鎖でつながれている形状ですね。
一方を手に持って勢いよく振る、反動で振られてくるもう一方を反対の手で受け取る。これを繰り返して、自分の周りをヌンチャクが躍るかのように飛び回り、風を切る音が辺りに響きます。
かっこいいですよね!
今日はみんなが大好き、ヌンチャクをとりあげて行きます。
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~ヌンチャクで打つ~
世界的に有名になった武器ですが、これが一気に世界に広がったのはブルース・リーさんのおかげです。
彼が映画の中でヌンチャクを自由自在に振り回し、次々と敵を打ち倒していく姿があまりにもかっこよく、ヌンチャクの扱いも美しいまでに洗練されていたからです。
彼はヌンチャクの技術を記した指南書も販売されていたようですが、本人の許可があったのか、本人が作成にかかわっていたのかは正直わかりません。
基本的な扱い方に加えて、ヌンチャクを2セットを同時に使用するという離れ技まで記されていたようです。
沖縄の古武術にもヌンチャクの扱い方は伝わっており、持ち方や振り方が流派によって違いが見られます。それは流派によって扱うヌンチャクの形状や質が異なってくる事も影響されています。
使われている木の材質、紐の材質によっても大きく変わってくるため、それぞれのヌンチャクに合わせなければなりませんから、持ち方や振り方も変わってくるという物です。
このように扱い方の詳細は様々なので、一概にこれが正解とは言えません。
基本的な扱い方とされている部分は大体共通していますから、そこを見て行きましょう。
持ち方は棒の繋がれている方と反対の端部分を持ちます。もう一方の棒はだらんと垂らしておきましょう。
この状態で棒を振ると、もう一方の棒は紐に引っ張られて遠心力で加速しながら振られるようになります。このようにして相手に叩きつけると、一本の木の棒で殴るよりも強い衝撃を与える事ができます。
なにも自分の周りをヒュンヒュン振り回さなくてもオッケーです。
簡単に言っていますがこれが難しい、紐で繋がれているもう一方が振られる事で1本の棒以上の破壊力を生み出しますが、大体の場合は十分な威力になりません。
紐で繋がれているため、1本の棒を振るとき以上に動きのブレが威力の減少に直結します。
達人が振るとヌンチャクにも関わらず1本の棒のように見える瞬間があり、棒に伝えた力が遠心力を伴ってもう一方の棒を大きく加速させています。
初心者が振ると、小学生が縄跳びを振り回してぺちぺちやって遊んでいるように見えます。
達人が振るとコンクリートブロックすらも叩き壊す程の速度を伴った打撃を打ち込めますが、初心者が使うとヌンチャクの方が壊れます。十分な威力がないと当たった時の衝撃がヌンチャク本体を襲いますからね。
格闘技の基本が出来て、棒術を習得した上で無いと、ヌンチャクの打撃は難しそうです。
初心者が肩に担ぐようにしてヌンチャクを持つと、ポーズだけになってしまいます。打たれても痛いだけですからね。
達人になると、上の手で振り下ろす、下の手で横なぎに撃つという、2手の攻撃方法の選択ができます。打たれたら頭蓋が砕かれますからね。
インターネットには沢山の動画が公開されています。
ヌンチャクのパフォーマンスではなく、道場などでの公開稽古の動画を検索するとこうした実践を想定したヌンチャクの使い方を見る事ができます。
本当に詳しく知ろうとすると、古武道という凄まじく長くて終わりの見えない道に迷いこんでしまいますよ。
発展した形になると、打つという動作だけでなく、相手を拘束したり、関節技に持ち込んだりするより複雑な型を見る事もできますが……
早すぎて何やってるか分からんとなるくらいの物もあるので、武道の道の奥深さに心打たれます。
このように相手の認識を上回るほどの動きをして、かわせないどころか認識すらできない瞬殺の一撃を打ち込めるのがヌンチャクです。
例え相手に取り上げられてしまっても、気にすることはありません。ヌンチャクを真っ当に使えるような人間はそうそういませんからね。
◇
~ヌンチャクを振り回す~
おそらく多くの人が思い浮かべる使い方がこちらですね。
自分の周りをヌンチャクが飛び回るように右手と左手で高速で持ち替えながら振り回す方法です。
振り上げた右手から、背中を通して左手へ渡す。左手を振り上げて肩を越して、体の前で右手に渡す。その速度を殺さないまま右手の肩を越して、左手へ渡す。
自由自在に振り回してヒュンヒュンと風切り音を鳴らすのは威嚇としても十分な感じがします。
ですが、これはパフォーマンスです。
ヌンチャクは風切り音があまりしないように作られており、パフォーマンス用のヌンチャクの中には笛のような機構を組み込んだり、溝を作ったりして音を出すように加工してある物もあります。
実戦の時にはこれだけ振り回して目立たせる必要は全くありません。
またヌンチャクに使われている木の重さや、紐の柔軟性によっては振り回すだけで自分が疲れてしまう事すらありますし、こうして振り回すことで威力があがる訳でもありません。
振れば振るほど威力があがるなら、ソフトボールのウインドミル投法はもっと腕をブンブンに振り回しているはずですからね。
こうしたパフォーマンス的なヌンチャクは、大道芸やスポーツとして親しまれており、様々な武術・格闘技の技法も取り入れて100種類を超える振り方が解説されている書物まで登場しています。
フリースタイルヌンチャクなどと呼ばれて、専門の団体まで出来上がっているくらいです。ヌンチャクの人気の高さが良くわかります。
実戦的な扱い方を現代に伝える武術としてのヌンチャクの技法、様々な格闘技の技も取り入れた人に見せるための技も含んだヌンチャクの演武、健康法や楽しめるスポーツといったヌンチャクをつかった娯楽。
実戦から遊びまで、様々な分野でヌンチャクが活躍しています。
これを読んでいるあなた、一度はやったことがあるはずです。2本の棒を紐で繋いで振り回す。
「わーいヌンチャクだぁ」
とか何とか言いながら、自分自身を思いっきりぶっ叩いた事があるはずです。
ウレタン製の柔らかい練習用といっても、思いっきり叩き込んだら痛いんですよ。
練習する時には周りに当たる物がない広い場所を確保して、自爆・自滅に細心の注意を払って行いましょう。
自分を叩く!
99.9%の人が体験している、と勝手に思い込んでるピーターです。
ピーターは自分の後頭部を3回以上ぶっ叩きまして、ギブアップしました。




