第82回 魔弾 必ず当たる悪魔の祝福(幻想武器)
魔弾
世界に数多ある伝説には神々や精霊、そして悪魔などの不思議に満ち溢れた脅威の力が登場します。
それと同じくらい人間が持つ摩訶不思議な力や家族や仲間、世界を守ろうをする心が力となる瞬間などが描かれます。
うーん、これぞファンタジーって感じですね。
それに伴って登場するのが、魔法や剣といった神秘の代表とも言えるアイテムや能力になります。
今回、タイトルに挙げた魔弾は、世界の伝説や民話の中では珍しく「銃」が登場してきます。
そして、銃そのものではなく、そこから打ち出される「弾」にまつわる摩訶不思議なアイテムです。
魔弾の射手と言えば、オペラやミュージカルなどでも代表的な作品として現在でも語り継がれています。
魔が潜むと呼ばれている鬱蒼とした森の近く、封建的で自由が少ないながらも素朴な生活を営む人々を描いたオペラの中でも記念的な作品です。
ピーター、オペラ詳しくないのですが、詳しい方にとってはどこまでも語り続ける事ができるほどの作品ですよね。
これはドイツの民話であり、舞台は1650年頃のボヘミアとされています。
魔弾を使った人間は初心者だろうが、致命的に銃の扱いがヘタな人だろうが、老若男女の区別なく全ての人を驚異の射撃の名手に仕立てあげることができます。
ただ、魔弾を使用した人間に大きな不幸を与えるという代償を伴うのですが、それでもこの魔弾を手にする狙撃手が出てくるのです。
この魔弾を作った、もしくは作り方を教えた悪魔はザミエルという名を持っていたとされる事が多いようです。
悪魔もなかなか頭を使いますね。
矢などが使われなくなって来たら悪魔の力を宿すのは弾丸などの近代兵器にも対応してきたようです。
もしかしたら、銃が登場する以前は「必ず当たる矢尻」とかを作っていたのかもしれません。
◇
~魔弾とは~
銃を使った事はありませんが、色んな映画やドラマで扱われている物だとパンパンと打ってバシバシ当たっていますよね。
最近の銃で止まっている場所を狙うなら分かりますが、当時の銃の性能では遠い場所だとなかなか当たりません。
最近の銃だとしても、的があまりにも小さかったりすると本当に当たりません。
離れた所からロープを銃で撃って切ろうとしても、雨のように大量に打ち込みでもしない限り当たらないもんなんです。
ところがこの魔弾を使えばあら不思議、どんなに小さい的だろうが、どれほど早く動く的だろうが、見えている範囲であれば必ず当たるように作られています。
作品によって使用者が持つ魔弾の数は異なるようですが、この必ず当たるという点だけは共通している所です。
もう1つの共通点は、悪魔の力によって必ず命中するという能力が付加されている点です。
え? 必ず当たるからそうだろうって?
ちょっと違うんですよ。
使った本人の狙った場所に当たるのではなく『悪魔が当てたい場所に当たる』という能力が付加されているんです。
魔弾は複数作られていて、悪魔と言われていても特に問題なく使えてしまうので、使用者は「なんだ悪魔とか言うけれど、ちゃんと使えるじゃないか」とかなんとか思いながら使ってしまいます。
それも、悪魔の策略の一部だと気が付かないまま……
いや、もしかしたら、気が付かない振りをしているだけなのかもしれません。
普段は使用者の狙い道理の場所に僅かな狂いもなく打ち込まれる弾丸が魔弾です。
ですが、使用者にとって最悪のタイミングで、最悪の場所に当たる弾丸も、魔弾なのです。
◇
~魔弾の物語~
とある物語、若い猟師がおりました。彼はスランプに陥っており最近は成果を上げる事が出来ずに悩んでおりました。
そんな時、彼の恋人と彼が結婚するための条件として、射撃大会で優秀な成果を上げる事を出されてしまいました。
若い猟師は悩みます。今の自分で優秀な成果を上げることは出来ないと悩みます。
ですが、参加を辞退することなど出来ようがありません、恋人もこの大会で彼が再び自身を取り戻す事を願っています。
精神的に追い詰められた若い猟師は悪魔の手を借りる事を思いついてしまいます。
悪魔ザミエルは快く、若い猟師に魔弾の作り方を教えてくれます。
悪魔が教えてくれた作り方には若い猟師でも十分に手に入る材料と、それほど苦労をする事の無い手順で弾丸を作る事ができました。
人間を生贄に捧げたり、夜な夜な怪しい儀式を行う必要はありませんでした。
魔弾を手にした若い猟師は、これまでの不調が嘘のように、美しく華麗に的のど真ん中を次々と撃ち抜いていきます。
若い猟師を知っている他の参加者は呆気にとられ、彼の恋人はどんどん優勝に近づく彼の姿を見て花が咲いたかのような笑顔で惜しみない声援を送ってくれています。
若い猟師はどんどん優勝に近づき、ついにあと1度的に当てれば優勝するという所までやってきます。
会場全体が彼の優勝を決める1発の弾丸に視線を注ぎます。
彼の恋人もこの1発が当たれば彼との結婚が確約されるので彼がもう一度、華麗に的を撃ち抜く姿を期待して見守ります。
若い猟師は、自信に満ち溢れ、自分が的の中心を撃ち抜くと確信をしたまま引き金を引きました。
的に向かって飛んでいくはずだった魔弾は不気味な軌道を描き、銃口が的に向いていたにも関わらず、見当違いの方向へと飛んでいきました。
弾丸の向かう先は的ではなく、的の周辺の地面でもなく、客席の方へ飛んでいきました。
客席の中で彼の所を誰よりも応援していた、恋人の胸に弾丸は飛び込んでいきました。
胸を貫き、肺を傷つけ、その奥になる心の蔵を通り過ぎて行きました。
花が咲いたような明るい笑顔を見せていた恋人の胸には、赤い赤い花が咲き、笑顔のまま倒れて動かなくなりました。
魔弾は必ず使用者が狙った的に当たります。
ですが、ただ1度だけ悪魔が狙った場所に当たります。
そのただ1度は使用者にとって、最悪のタイミングで、最悪の場所に当たります。
必中!
有象無象も老若男女も区別しない
魔弾を込めて、引き金引けば「必ず当たる」
それは打ち出した者の狙った場所か
それは悪魔がここだと思った場所か
魔弾を込めて、引き金引けば「必ず当たる」
不幸をもたらすその場所に
銃が登場するので、近代兵器と思いきや……
悪魔が関わる幻想武器ですので、こちらに投稿。