〇 見えない武器は武器として成立するか
私は見えない武器に恨みでもあるんかもしれん。
魔法によって隠された刃、科学技術の結集で全ての光を透過させる素材、人間の視力の限界を超えた光よりも早く目に止まらない物などなど。
想像を絶するアイテムは沢山ありますね。
武器を持っていないと相手に錯覚させれば、相手の無防備な場所に必殺で確殺な攻撃を叩きこむ事ができますね。
これぞ暗殺! まさに暗器! ロマンがあふれまくりですね!
普通、暗器とか隠し武器は相手の死角に忍ばせたり、服などの中に隠したり、パッと見て武器と気付かれないようにしたり……
そう、隠さなければいけないんです。
だって見られたら、警戒されたり、対処されてしまいますからね。
もし見えない武器があったとしたら、人の目に認識できない刃があったとしたら、間違いなく最強ですね。
だって武器を抜き身で持って行っても誰にもとめられないんですから、真昼間に家を出るときから堂々と持って行って、相手を切りつける所まで誰にも何も言われない。
まさに最強とも思えますね。
今日はこの見えない武器というのをピーターなりに色々と考えてみたいと思います。
◇
~夜~
夜は太陽が無く、月と星が僅かに世界を照らします。
人は火を使って文明を作り、電気を使って世界を照らし、闇を削って生きてきました。文明も科学も発展した現代においても、夜を昼にする事はできていません。
闇の中では色は分かりにくくなり、白から遠ざかって闇の色でもある黒になるにつれて見にくくなります。
昼にカラフルな色を見て目が痛いほどと思っても、夜になると色あせたような印象に変わったりしますね。
つまり、黒っぽい色であれば夜は見えにくくなります。
光を反射しない色ほど夜に紛れると言う事ですね。逆に言えば光を当てられてしまえば浮かび上がってきますが、夜にライトを向けられるなんて、そんなにありませんよね。
ためしに、黒っぽいズボンとシャツで、真っ黒な紙で作ったハリセンを用意して、電灯に細工をして明かりをつけられなくしてみましょう。
そして部屋の中で堂々と待ち構えていると、獲物は『あれ? 電気壊れた』とか間抜けな事を言いながら堂々と入ってくるでしょう。簡単にハリセンの餌食にすることができますね。
実戦したら、必ず喧嘩になりますから、実行してはいけませんが、暗い所に黒い物は見事に見えなくなりますね。
武器を黒くしたり、光を反射しないようにする。
これだけで夜は十分に武器を見えなくすることができます。
◇
~昼~
分かってます、夜じゃないですよね。
昼です。太陽の下です。沢山あるライトに昼のように照らされている。何を着ていてもバッチリどこからでもだれからでも見えるこの状況。
そんな状況でも見えない武器が欲しいんですよね。
こんな所でも、刃が見えない剣があったとします。現代風に言うならガラスの剣とでもいいましょうか?
ガラスは光の90%を通過させます。残った10%は反射したり、ガラスその物に吸収されたりします。
夜になるとガラスが鏡のようになり自分の姿が見えるようになりますよね。これは外が暗くなって外から入ってくる光が無くなったため、自分のほうに反射している数パーセントの光が見えているからですね。
新品のガラスだと本当に見えなくなります。ガラス張りの新築物件のガラスにはテープや張り紙を張って『ここにガラスがあります!』とアピールしたりしますね。
そうしないとぶつかる人がいるからですね。
これだけ見えないガラスでも90%の光を通過させているだけです。
もし99%以上の光を通過させるガラスが作れたとします。さらにどの方向から来た光でも通過させるとします。
それはどれだけの光の元でも人間の目ではとらえられませんね。人間は反射してきた光を目でとらえる事によってはじめて『視る』ということができます。光を通過させる物であれば、その向こう側に見える物しか目に映りません。
これが見えないという現象を生み出します。
このようなガラスで武器が作れたら、まさに最強ですよね。
刃が見えなければ相手は油断しますし、武器に気が付いても間合いを取る事ができません。容易に攻撃範囲に踏み込んでくれることでしょう。
柄も見えてしまうと「見えない刃が伸びている」と思われてしまうかもしれません。柄も同じ材質にして置く事が良いでしょう。
『あ! 落とした!』
……手探りで探すと、自分の手をザックリ切ってしまうので、木の棒か何かで探ってもらって、切れたらそこにあるでしょう。
取り扱いには細心の注意が必要です。
◇
こうしてみると、黒い武器などは闇に紛れますから「見えにくい武器」ということです。
昼に使うと仮定した見えない武器は、昼だろうが夜だろうが「見えない」武器になりますね。
ガラスを例にあげていますが、90%以上の光の透過、逆に言うと10%は透過していないわけです。
この程度の透過でも人間の目はガラスがあるということを認識していますが、これは「新品」の状態ですね。
当然使っていれば、汚れも傷もつきます。
油汚れにホコリも付きます、雨の水滴を拭き忘れただけでも窓に波紋が残りますね。
戦場で切った切られたやっていれば、見えない刃の上にも汚れは残りますし、バッサリ切って捨てたら血もつきます。
つまり「見えない武器」という性質を保つためには「絶対に汚れない」という特性を持っている必要があります。
そうしないと、持って歩いている事がばれちゃいます。
鞘にいれておけば、いいじゃんと思うかもしれませんが、それだと鞘がみえちゃいますよね?
特に雨の日だったりしたら水滴によって浮かび上がって見えてしまうでしょう。
相手をぶった切ったあとは、血なども付いてしまいますから、結局見えるようになってしまいます。
強力な衝撃波を発生させる装置を作ったり、光程に早く目に映らない弾丸を作ったり、なんてことで見えない武器を作ろうとしても、発射装置は目に見えますから「見えない」というロマンには届いていません。
絶対汚れない、100%レベルの光の透過。
この2点を満たすというのは現実世界では非常に難しい気がします。やっぱりファンタジーのロマンアイテムなのでしょうか?
ファンタジーでも注意が必要です。
見えないという事は、味方も武器に気が付きません。こっちが見えない武器を持っている時に、恋人が愛情表現で飛びつくように抱き着いて来たなら、一瞬で悲劇に変わってしまいます。
見えないという大きなアドバンテージにはこんな危険もありそうです。
武器には「見せる」という使い方があります。
警察の方が見えるように警棒、拳銃、手錠などを持っているのは、すぐに取り出せるという理由が大きいですが、これが見える事と、警察の服装をしているという事が抑止力を発生させています。
武器を持っていて、それを使う権限がある。
これをアピールすることで、相手の反抗するという意思、争うという行動を止める事ができます。
見えない武器だと「見せる」という効果が大きく下がっちゃいます。
見えない武器を使われると嫌だけど、使う方も細心の注意を払って使わないと自滅する可能性が高いでと思います。




