第75回 袖溺(そでがらみ) 味方は助けて敵は転ばす
こういうのも好き。
袖溺・やがらもがら
中国から日本に伝わってきた武器。
棒の先端に金属製の鈎爪と沢山のトゲがついた形状をしています。
この形状も特に決まりがあったわけではなく、鈎爪も1本の物から10本前後くらい沢山付けたものなどもあります。
トゲもただのトゲだったり、1本1本先がまがって引っかかりやすく作っている物もあります。
すごいのになると、先端にラグビーボールのようなパーツを付けて、それを栗のイガのようにトゲを密集させている物もあります。
服にくっつくオナモミみたいですよね。
長さも2メートルから長い物だと4メートル程度まであります。
重さも長さや先端の構造によって左右されますが、2キロ~2.5キロ程度に収まっています。
もっと長くて、もっと重い物もあったと思われます。だって、大きさとか形に決まりが無いんだもん。
軍の船に配備されており、三島水軍が使っていたと記録に残っているようですが、あちこちの船の上に何本かおいてあるという事がよくあったようです。
室町時代から江戸時代にかけて、使われており船の上だけではなく、後に攻城戦でも用いられるようになり、江戸時代では犯罪者を取り押さえるという捕り物にも活用されました。
使っている場所が多いので、時代劇を見ていると船の上や民家の周辺においてあったり、立て掛けてあったりするかもしれません。
意識していませんでしたが、映画村とか行ったらその辺にゴロゴロしていたのかもしれません。
◇
~引きずり落としてくれる~
鈎爪とトゲで攻撃対象にするのは相手の服です。
頭や体を直接狙うのではなく、衣服に鈎爪やトゲを引っかけます。引っかかったら、そのまま引っ張ってバランスを崩させて引きずり倒します。
最初は船の上で使われていました。海戦で船をくっつけて白兵戦をする時には、まず袖溺を相手の船に引っかけて自分の船から飛び乗れる所まで引き寄せます。
相手の船の乗り込んだら、敵を転ばせ、引き倒すばかりか、船から叩き落すまで袖溺は活躍していました。
当然、船の上の戦いですから味方が海に叩き落される事もあります。
そんな時も袖溺があれば大丈夫。海に落ちた味方の服を引っかけて引っ張ってあげれば船に戻してあげることができます。
まぁ、敵兵の目の前で袖溺を海に浮かぶ味方に差し出していれば、背後からあっさり切り付けられますから、救助するときは安全確保してからですけどね。
小舟が相手なら、数本引っかけてやれば逃げられなくなりますから、不審な船を取り押さえるにも使えますね。
袖溺があれば、接触から戦いまで持ち替える事なく立ち回ることができますからスキがありません。
~押さえつけてくれる~
刀や槍と違って、転ばせるという事をメインにする武器なので、相手に与える傷は致命傷になる事が比較的少ない事が袖溺の特徴です。
とは言っても、鈎爪で引っかけられたり、トゲがグッサリ刺されば十分大怪我ですが、使い手が服や手足を狙う以上は怪我で済むので安全です。
江戸時代に捕り物に使われたのは、この特徴があったからですね。
逃げた罪人の服に引っ掛かれば転びますからね、袖溺が服に引っ掛かったままでは、立ち上がろうとしても服が地面に縫い付けられているような物ですから立ち上がれなくなります。
長さも2メートル以上あるので、相手が刀や短刀を持っていたとしてもこちらには届きません。投げたとしても袖溺で抑えられていれば勢いもつきませんから、使い手が熟達していればあっさり避ける事ができたでしょう。
~戦場では~
攻城戦など戦場で活躍したとも資料には書かれているんですが、実際にはどうだったかの具体的な物を見つける事ができませんでした。
袖溺の性質を考えると、いくつか思いつきますね。
〇騎兵を馬上から引きずり落とす。
〇先端の重量を活用してハンマーのように相手の防護柵や門を壊す。
〇壁や屋根に引っかけて乗り越えるための足場にする。
〇足軽などの歩兵の先頭を転ばせて、後続を動きにくくさせる。
〇武将を殺さずに取り押さえる。
槍のような長さがありますから、刀や短刀よりも使い勝手がよさそうですね。
窓から敵兵を引きずり落とすとかも考えましたが、城の窓は小さく作られている事が多いので、袖溺を突き込んだり、敵兵を引きずり落とすのは難しそうです。
袖溺で槍衾を作れば、先端の大きさもあり見た目も恐ろしかったでしょうし、先端が大きいので傘のように槍や石を防いでくれたかもしれません。
背景に溶け込んでしまうような地味な武器ですが、攻めに守りに活躍してくれるのが袖溺です。
あちこちの資料館や博物館に復元した物や模型が展示されていることも多いので、興味ある方は探してみてくださいね。
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