第71回 簪(かんざし) 髪飾りと思うたか?
簪
漢字で書くと『簪』だけれども、最近は平仮名で「かんざし」と書いている事の方が多いように感じます。
江戸時代の中期頃から発展した女性用のアイテムです。
江戸時代には多彩な髪型が登場して、髪櫛や簪などで女性は髪を整えたり、髪留めにして髪型の型崩れを防いでいました。
目立つ髪につけられる物なので、髪櫛や簪も様々な細工や形状が登場してきました。
時代劇などでも煌びやかな着物を着た女性の髪には必ずと言っていいほど簪があり、キラキラとした飾りと装飾が女性の美しさを際立たせています。
簪の歴史を辿っていくと、神職と言われる神主や巫女が儀式を行う時に魔を払うため頭に付けた生け花、挿頭花に行き着くそうです。
その後、平安時代には笄というパッと見た感じオールを手のひらサイズにしたような形状になり、段々と現在の形になって行きました。
簪は髪から出して見せるための「飾り」と、髪に刺す部分となる「足」で構成されています。
玉簪、平打ち簪などが一般的ですね。
玉簪はトンボ玉のようなコロンとして球体の飾りが付いていて可愛らしい印象があります。
平打ちはコイン状のような飾りに1本または2本の足がついています。このコイン状の飾りには家紋などを入れていたそうです。
自分の家紋を入れた簪を女性に贈るなど恋愛事情にも深くかかわっているものが簪です。
こんな甘酸っぱくて、濃厚な恋愛事情が絡んでいるだけでなく、夜の女性達にとっても欠かせない簪ですが、これが武器になります。
武器になってしまいます。
簪の材料は、木・サンゴ・鼈甲・象牙・ガラスなどなど、さらには漆や金細工など何でもござれです。当然、鉄や鋼でも作る事ができます。
鋼で作られていて、先端を研いで突き刺せるように鋭く仕上げておけば、十分武器となります。
髪飾りとして堂々と見せているので、それが凶器に仕上げられているという印象は無く『わー、綺麗だなー』となるだけで、警戒される度合いはかなり低くなっています。
まさに、日用品にして、人の心の裏に隠すという隠し武器にもなりえるのが、簪です。
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沖縄にはジーファーという簪があり、男女とも身分に関係なく使われていました。
身分によっては作りや細工などが違っていましたが、だれでも使っていたという所は変わりません。
これは金属で作られており、一方は釘のように尖っています。誰でも身に着けていると言う事は、違和感もなく堂々と持ち運びができます。
鋭い金属を持ち運べるという事が一般化されているというのはすごい事ですね。
相手を死に至らしめるというよりも、突き刺して相手が怯んだスキに逃げるといった用途がメインになるため積極的に攻撃したり、威圧するために使う物ではありません。
ジーファーに限らず、普通の簪でも金属であれば、逆手に握りしめてハンマーを振り下ろすように腕を振ると、人体に突き刺す程度の事は十分にできます。
護身用としては十分に使える簪です。
ちゃんと武器になっちゃいます。
屈強で大柄な男性でも、突然体に簪が釘を打ったかのように刺されば驚きますし、急に襲ってくる痛みもあり、一瞬怯ませるには十分です。
体や衣類を掴まれてしまったとしても、簪で突き刺してやれば一瞬手は緩みますから、逃げ出すためのスキを作るには十分です。
浮気をした男性の腕にもグッサリ刺さったかもしれませんね。
針千本の内、一本は簪だったかもしれません。
もちろん、簪の材質を鋼などの固い金属にして、先端を刃のように尖せ、飾りの部分を持ち手にもできるような厚みのある物としておけば、十分に暗殺にも使えます。
脊髄、耳の奥、喉元、こういった場所を狙えば効果は抜群です。
寝ている相手の所に忍び込むなり、何等かの理由をつけて同室で寝れれば、暗殺は成功したと言えるでしょう。
もっとも、暗殺の対策など防犯のため、重役に付いている人達の寝所などプライベートな空間では女性は髪を下す事を求められる事が多くありました。
色仕掛けして、お布団でイチャイチャしましょとかにして二人っきりになったところで『ザクッ!』っとやっちまうなんてね。
王道パターンです。
加工された簪で寝ている間にザクッとされないためには、簪を使わない髪型にさせればいいですからね。
綺麗で女性の美しさをより際立たせる簪は、護身のための武器。
バラを守るトゲのような役割の簪ですが、時には命をも脅かす危険なトゲにもなりえます。
危険な一面!
綺麗な物にはトゲがあるのさ。
古い句や詩にも「かんざしって怖いな」って意味が歌われているようです。
実は、血を吸った事があるかんざしって多いのかもしれません。
かんざしって、ものすごく沢山の種類があります。
どれもキレイで、美しいですよね。




