第69回 シャムシール その名はライオンの尻尾
リクエストありがとうございます。
シャムシール・シャムセール・シミター・シャムシャー
エジプトやアラビアといった中近東という地域で使われていた曲刀がシャムシールです。
数百年に渡って使われており、形状も年代によって変化していきました。
変化の過程で名前が変わっていたんだろうなぁと考えていましたが、名前が変わってきたという記述は特に見つけることができませんでした。
この武器はリクエストして頂いたものなんですが、その時は『シャムシャー』という名前で頂きました。
「うん? 古い言い方かな?」
とか思ってみたり、ネットで調べたらシャムシャー・ソードと出ていたりとかしたので「調べがいがありそうだ」と腕まくりしたんですが、意外とすぐ名前について分かりました。
シャムシールの綴りは「Shamshir」です。
発音を当てると「Shamshir」ですが、英語の発音に近く当てると「Shamshir」となります。
英語での言い方がシャムシャーですが、英語でこの剣はシミターとなることが多く、シャムシャーはマイナーな言い方なようです。
同じ武器でも、地域や言語、細部の作りなどによって呼び方が変わることもあるので、シャムシールも名前が複数ある武器ですね。
日本人のイメージからすると、ターバンと腰布、ふんわりとしたズボンを身に着けた髭が似合う男性が腰に差している。
もしくは、胸当てと腰骨の下あたりで止めるきわどいスカートに顔の下半分をベールのような薄い布で覆った女性が、躍るように剣を振り回す様子で頭に描かれると思います。
ペルシアでの呼び方がシャムシールであり、その意味する所は「ライオンの尻尾」「獅子の尾」です。
そして、柄の先端になる柄頭の部分はぴょこっと曲がっており、この部分を「ライオンの頭」「獅子頭」と呼んでいました。
今日はこのライオンの尻尾という美しい曲刀、これを見て行きましょう!
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シャムシールは片手剣ですが、結構大き目で重い剣です。
全長80センチ、大振りの物では100センチにも達します。
その分重量もあり、1.5キログラムから2キログラムにもなりますから、こんなの持って踊っていたらどんどん筋肉質になっていきそうです。
日本刀が重量が1キログラムくらいなので、この時点でも十分に重いのですが日本刀は両手剣ですが……
シャムシールはなんと、なんと「片手剣」です。
日本刀よりも重い剣なのに、片手で扱えということなんですね。
ほんとうに重量感たっぷりです。
片手分の握りがあり、握った時の小指に引っ掛かるように柄頭がちょこっと曲がっています。
柄から伸びた刀身は根元はまっすぐに伸びているように見えながら、刀身の中ほどにかかる手前から柄頭とは反対側へ弧を描き、段々と角度をつけて曲がっていきます。
中ほどを抜けると曲がる角度は浅くなり、先端がキュッと上を向くようになります。
日本刀のような曲がり方と比べると少しばかり急な角度で曲がっています。
刃の付き方も日本刀と同じく、弧の外側についていますね。
この曲刀ならではの曲がり具合もシャムシールは年代によってや、型によって大きく異なっています。
ギュンと曲がっている物もあれば、柔らかい曲線を描いている物など様々です。
この曲がり具合こそがシャムシールの特徴とも言うものですが、当初この剣はまっすぐな刀身を持つ直刀でした。
姿形は別物と言えるほど違いますね。
この地域での刀剣の使い方は大きく振り上げて、そこから振り下ろすという使い方が一般的でした。
技術で切るというよりも、剣の重さと刃の鋭さで叩き切るという使い方です。
直刀という形状は突きを得意として斬撃も出せるというのが特徴ですが、シャムシールは切り付ける使い方が主となります。
振り下ろした時の威力を上げるため、曲がった刃へと改良が加えられていき現在の形になりました。
改めて刀身を見てみると、ちょうど相手を切りつける辺りの曲がり方が鋭くなっていることが分かります。
刃が曲がっているほど相手と剣の接地面が狭くなるため、それだけ強い力が一点にかかります。
片手とは言え、重力の助けを借りながら2キログラムの鉄の刃が降ってきて、重さと速度が狭い一点に集中するので、生身で受ければ骨すらも断ち切られてしまうかもしれません。
片手で扱えて大振りの刀身を持っているので、シャムシールは馬上でも扱う事ができたはずです。
曲刀なので、踏ん張りがきかなくてもある程度の切れ味は出せたはずですし、馬の速度と剣の重さを上手く扱えば、威力はすごい事になったはずです。
相手の防具を砕くくらいの事をやってのけたのかもしれません。
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今でもシャムシールは色々なゲームやアニメ、小説などに登場する非常に有名な武器です。
コスプレ・仮装用、演武用、鑑賞用など通販することも可能です。
値段もピンキリ、数千円~何万円もする物まであります。
ゲームなどの中には「グランド」などの大型を意味する名を持つ、シャムシールが登場したりします。
原寸大から想像するに150センチ、3キログラムくらいでしょうか。
製造技術と手入れの具合によっては薄目の金属鎧であれば断ち切ってしまえる可能性が見えそうです。
これを扱えたとしたら、並みの武具では刃が立ちませんね。
鍔競り合いになるどころか、簡単に押し切られてしまうでしょう。
場所が中近東なので、ピラミッドや砂漠など神秘的なイメージも強く沸き立ちますから、シャムシールには魔法的なロマンな力も宿っているようにも感じます。
封印を解いたり、魔人など人外の存在を呼び出したりなど、色々と想像を広げてしまいます。
剣の作りと使い方を見ると、とても殺傷力がとても高いため、血に濡れた剣ともなりえる武器です。
呪術的なダークなイメージも同時に感じられる人もいるかと思います。見方によっては生贄に捧げられた哀れな生命へ止めの一撃を刺す剣になったのかもしれません。
シャムシールの切れ味を考えると、首を落とす事などもできたはずです。
雲一つなく、月が僅かに夜を照らす。
月の光を受けるシャムシールはキラリと銀色の明かりをはるか遠くまで届ける。
星が1つ増えたかのように……
非常に危険な剣でありながら、その姿は美しい。ライオンに例えられるのもわかりますね。
剣よ舞え!
軽やかに扱っているイメージが本当に強い。