第66回 銃剣ヤタガン 歪んだ刀身
ヤタガン
ヤタガンそのものは現在はトルコと呼ばれる国、オスマン帝国で16世紀頃から使われたとされている短めの剣、カテゴリーではショートソードになる剣です。
ショートソードについては以前に触れましたが長さに関わらず歩兵が使う剣の事を指していますが、ヤタガンはかなり短めになっています。
短い物では全長60センチ程度となっており、行軍の邪魔にならないように小さくて軽く作ってありました。
ヤタガンの最大の特徴は緩やかな2つの曲線です。
日本刀のような形状を「反り」といいます。弧を描く外側に刃がついている形状ですね。
「逆反り」というのはその逆で、弧を描く内側に刃がついている形状のことです。
ヤタガンはこの反りと逆反りを両方もっています。
刀身の真ん中あたりから逆反りが始まり、先端側になるにつれて通常の反りになっています。
反りの度合いも三日月のような明らかな反りではなくて、緩やかな反り方になっていますから『緩やかな曲線』と言えばおしゃれに聞こえるんですが……
何も知らない人が見れば「なんだこの、なまくら」とか「俺みたいな初心者でもひん曲がってるの分かるぞ」といった感想になります。
いや、正直初めて見た時は私も思いましたよ、クリスとかフランベルジュみたいに思いっきり波打っていればそういう物かと思いますが、ゆるやか~に波打ってるんですよ。不良品かと思いますよね。
もちろん不良品ではありません。
色々な材質で作られたパーツを組み合わせるという構造で丁寧に作られていました。
刃の部分こそ鋼ですが、他には鉄を始め柄部分には木・骨・角・象牙・銀など様々な素材が用いられて装飾や彫り物などまで施されていました。
握りがしっかりしている上に短めに作られていたので、突いても斬っても扱える。
しかも軽量なので大きな力が必要にならない、持ち運びにも使用にも負担は少なかったことでしょう。
決してなまくらではなく兵士達の大きな助けになっていた刀剣です。
今回はこの奇妙なヤタガンをみていきましょう。
◇
~銃剣ヤタガン~
ヤタガンは19世紀頃に銃剣として採用されました。
ヤタガンを銃剣として採用したのはフランス軍です。
シャスポー銃と呼ばれているタイプの銃に取り付けられていました。
銃という「飛び道具なのに、剣って必要なの?」「連射すれば接近されないからいらないじゃん?」とか思う人もいるかもしれません。
そもそも銃を安定して連射できるようになったのはつい最近です。
無理やり連発できるようにしたら重量がすごい事になって運用に支障が出たり、不発や暴発という危険な事故が発生するにもつながります。
当時の銃は単発式で長く大きな物であり、次弾の装填に時間がかかったりしていました。
そのため、決死の覚悟で突っ込んでくる敵の一団にかき回されて大きな被害を出してしまうことも珍しいことではありませんでした。
それを防ぐために、両手剣の部隊を配置したり、槍兵の後ろに配置したり、防壁を作ったりと色々と対策を考えてきましたが、それでも突破される事がありました。
銃を扱う部隊はゼロ距離の接近戦に滅茶苦茶弱く、銃剣が登場するまでは銃口近くをもって、引き金近辺をハンマーのように叩きつけるなどが苦肉の策となっていたくらいです。
うーん、勿体ない使い方です。
そこで、銃という長さを活かして、先端に刃を付ける事で銃としての機能をそのままにして、簡易的な槍としても使えるようにしたのが銃剣付きの銃です。
万が一突破された時にも、何とか応戦ができる上。それほど大きな刃ではないので持ち運びなどの運用もできる。
戦況によっては弾丸を使わずとも敵を仕留められるので、物資の消費を抑える働きも期待できます。
銃剣は基本的に突いて使うため、槍のように使います。銃剣の多くは、刃の部分のみだったり、針状になっていたりと本当に突きに特化した作りが多くみられます。
ですが、このヤタガンは銃剣としては大型で、刃の付き方を見ると反りを持っているので切り付ける攻撃もできそうに見えます。
ヤタガンにはしっかりとした柄があるので、銃剣としてだけではなく通常の剣としても扱うことができるため、何らかの理由で銃が使えなくなってしまっても丸腰にはなりません。
反りがあるということは切りやすい刃物で、切っ先が相手にしっかり向くので突いても斬っても使えます。
でも、日本刀のような斬る事に特化した作りではないですね。
ヤタガンは銃剣として扱われた期間は比較的短く、19世紀の後半には別の銃剣にとって変わられてしまいます。
大型だった事や、製造の都合だったのかもしれません。
反りを持つ剣は量産には向きませんし、銃剣の性能よりも銃そのものの性能を上げる事に予算も時間も費やされたはずです。
また大型の銃剣に金属を使うよりも、銃の製造に金属は多く使われます。
銃剣は小さくても十分に機能しますからね。
ちなみに、シャスポー銃はナポレオンⅢ世が江戸幕府に大量に無償提供しています。
幕府もシャスポー銃を1万挺発注したらしいので、このときにヤタガンも日本に入ってきたのかもしれませんね。
悲しい事に、シャスポー銃に使われていた紙製薬莢は日本の気候と合わず不発などの問題が続いてしまいました。
薬莢を国外で製造していたことから移送の問題などもあり、不良在庫として倉庫に叩きこまれてしまい、前線にはでてきませんでした。
取り付けるはずの銃がこれですから、ヤタガンも一緒に倉庫行だったかもしれません。
やっぱり勿体ない。
時代が明治に変わる頃には、紙製薬莢の国内製造やヤタガン式銃剣の使用の記述が時々発見されているそうですが、真偽のほどはわかりません。
日本でも物資が足りずやむを得ず使った。
新兵器としての試験運用で用いられた。
など、ヤタガンが使われていた可能性はゼロではありません。
着剣! 着剣!
銃に銃剣を取り付ける号令! 慣れないとあたふたしてスムーズに付けられないもんです。
それと次回予告しときますが、次回も「銃剣」です。
ん~、銃剣だよなぁ、これ?
うん、間違ってない銃剣だよ。
リクエストありがとうございます。