第62回 ショートスピア 原始の槍の特徴を持つ
ショートスピア
便宜上、ショートスピアと言っていますが、全世界の槍の歴史でどこを遡ってもこのタイプの槍に行き着きます。
人間が原始の最初の武器、棍棒や石を手にするようになってからさらに長い年月を経て、武器を加工する事を覚えます。
そして、次に素材を組み合わせる事を習得していく中で、この槍の原型が生まれました。
いつの頃からとハッキリ言えず、最初からあったと思われる程の昔から槍は作られています。
それほど長い槍ではなく100~200センチ、穂先はシンプルに尖らせてある物や、木の葉のようになっている物、様々あります。
構造そのものが単純であるが、柄の長さを調整すれば歩兵でも騎兵でも使うことができるばかりか、投げるという使い方もできる。
手入れも剣などと比べると手間がかからず、故障してもパーツの交換で対応ができる。
生産もシンプルな構造のおかげで、大量生産もそれほど難しくありません。
持ち手となる柄は木の棒で作られ、先端となる穂先は金属で作られている事が基本ですが、竹槍のように先端まで植物性で一体化されている物や、柄まで含めて金属で作られている物もあります。
銃器が普及するまで、原始の時代から近代までずっと使われて来たと言える槍です。
ロングスピアとの違いはその長さ、200センチを超えるとロングスピア―に分類される事が多くなります。
ロングスピアは日本でも長槍として登場していますが、戦場で使われる事が多いタイプの槍であり、密集戦術で使われています。
ショートスピアは日本では短槍となりますが、あまり持ち歩く様子などが描かれた物はありませんね。
槍としての歴史はショートスピアの方が長いハズなんですが、見た目の威圧感や、集団戦法の槍衾などではロングスピアに軍配があがります。
一見、弱そうに見えますが、ショートスピアならではの良さもありますし、ここから発展している武器もあります。
今日は時代に埋もれてしまった原始の槍、ショートスピアをとりあげて行きます。
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~原始の槍~
人類初の武器は、拾った石や棒です。
何かのきっかけで手に持ったもので叩いたら、獲物が簡単にとれた。こういった経験から、人間は近くにあった石や棒を使うを覚え、そしてそれらを持ち歩くようになりました。
さらに長い年月が経過して経験を積むと、人間は道具を加工する事を覚えます。木を石にこすりつけたりして先を尖らせたり、トゲを取り除いたりとするようになります。
石は割ったりして使いやすい大きさや形に変えていきました。
さらにさらに長い年月が経過すると、人間は道具を組み合わせる事を覚えます。
木の棒に加工した石をはめ込んで固定することで、石斧や石槍を作りました。石斧は木を切ったり、獲物の骨などの固い物を壊す時に活躍したでしょう。
石槍は魚や動物などの獲物を獲る時に活躍していたことでしょう。
槍が人類の歴史に登場してきました。
この頃の槍は持ち運びやすさを考えるとそれほど長くはなかったはずです。
道も無く、草木が生い茂る場所では長い槍は邪魔になります。
そして、平原や川など見通しが良い場所では長い槍は目立ちますので、動物なども逃げて行ってしまいますし、他の動物に狙われやすくなってしまいます。
つまりショートスピアのサイズが、ちょうど良いとなるわけです。
人類が狩猟をする生活から、定住して農耕を始める頃になると人類の文化に「所有権」という概念が初めて登場してきます。
自分達が作った農作物を他の人達にとられないようにするため、あるいは食料を得られなかった人達がやむを得ず持っている人から奪うため。
武器が初めて人に向けられるようになりました。
当然、金属製の武器などはほとんどありません、石や木で作られた物がほとんどです。
木の棒に尖らせた石を取り付けた石槍を武器として構えるというのは、見た目的にも間合い的にも納得ができますし、壊れても比較的容易に修繕できるのも石槍です。
石斧や石のナイフなどは、丁寧に作れば数日かかりますし石も割れる角度などが良い物を選ぶ必要があります。
石槍の石はある程度の固さがあって、尖っていれば構わないので斧やナイフに比べると材料も調達しやすいですね。
◇
~槍の進化~
言うまでもないですが、槍は突き攻撃をする武器です。
造りや材質にも寄りますが、基本的に先端の尖っている部分を活用するように作られていますが、狩りではなく戦いに使われるようになってから様々に進化しました。
まず、接近戦での場合、突き攻撃に以外に斬撃が出来るようになります。
穂先が尖っているのは当たり前としても、尖った鋭いナイフが先端に取り付けられていれば、突いて使う事に限らず、切り付ける攻撃ができるようになります。
動物相手なら突きだけできれば十分ですが、人間相手ではこちらの動きを読んで突きを避けてきます。
突きだけでなく斬撃もできれば手数が増えるので勝利への選択肢が増えます。
剣の様な穂先を持つ槍、斧のようなパーツが付いた槍、フックのような機構など、より攻撃的でより複雑な扱い方ができる槍が生まれて行きました。
斬撃も出来る槍は、ショートスピア―のような構造に比べると先端部の加工に手間がかかります。
戦争になった時の集団で使った場合は振って使うと味方に当たる危険があります。
なら、元々の突き攻撃をする槍を長くすれば、相手の間合いの外から攻撃できるようになります。
そして、集団で使う事で飛んでくる石や矢をそらす事もできるようになります。
狩猟などの道具だった短い槍が進化してロングスピアが登場してきました。
単独で使うという槍ではなく、数人~数十人で使う戦法がどんどん生まれてあちこちで使われるようになりました。
日本でも「槍玉にあげる」という表現が今も残っていますね。
これは相手1人を数人の槍兵で囲み一斉に突くだけでなく、突いた槍を全員で持ち上げて胴上げのように宙に放り投げます。
落ちてきた所を全員で突きあげて確実に息の根を止めるという確実にオーバーキルになる戦術が由来です。
さらに槍は投げて使う事もできました。
人間は他の動物と違って、物を投げるという技術を習得しています。さらに他の霊長類と違い人間は「振りかぶって投げる」という技術を持っています。
遠くまで正確に槍を投げて離れた獲物を獲るという槍の機能が、より威力が高く投げやすい槍を作っていきました。
現代でも競技としてやり投げが残っていますが、これもジャベリンという投げる事に特化した槍が先祖になっています。
ジャベリンは長さ70~100センチとショートスピアと言えるサイズになっています。
投げる時の持ち方の研究に加え、紐をつけたり、重心の位置を考えたりと槍そのものも研究されていき、スピアスワローという飛距離を伸ばす道具も作られていました。
原始の槍のサイズに近いタイプのショートスピアは沢山のメリットがあります。
木で作られた柄と比較的少量の金属で作れる穂先、シンプルな作りなので量産が可能、材料も剣や鎧ほどの金属は使わず建築に使うほどの長い木材も不要という大変作りやすい事がメリットです。
突くという十分な威力と投擲にも活用できる汎用性。
武器の中では比較的軽量で身長よりは短い持ち運びの良さ。
徒歩でも、騎兵でも、馬に引かれた戦車でも使う事ができたので、様々に槍が進化する中でもショートスピアは生き残って使われていました。
複雑な使い方の出来る槍、長い槍、投げる槍と進化する槍。
原点の槍の特徴を持つショートスピアは近代まで使われていたので、世界で最も作られて使われているタイプの槍とも言えるでしょう。
貫けぇ!!
槍と言っても色々とあります。
短い槍ってのも使い勝手が良い物です。
サバイバルで使うのもオススメです。