第58回 ファルクス 絶大な威力とすごい重さ
重さは力だ
ファルクス
古代ローマの時代、現在のルーマニアあたりにいたダキア人たちが用いた片刃の両手剣です。
長さは全長120センチ程度でありながら、重量は4キログラムと長さの割りに重たい作りになっています。
日本刀では打ち刀とされるものでは長さ90センチで、1キログラムもないため比べてみると何倍も重い事がわかります。
柄から、先端までが1つの金属で作られており、日本刀などのように、刃・柄・鍔などに分解する事ができない作りになっていますので、これもファルクスの独特な構造と言えます。
刀身は大きく弧を描くかのように曲がっており、曲がった部分の内側に刃が付けられています。
柄の部分も刀身よりの所と、柄頭よりの所に2か所太さを変えてある部分があり、右手と左手で握りやすくつくられています。
屈強な戦士がこれを両手で使った場合、本体の重さが最大に活用されるため凄まじい切れ味を発揮します。
世界最高とも言われる切れ味を持つ、和刃物とも同等かそれ以上の切れ味を発揮する事もあったでしょう。
全体が1つのパーツとなっているということは、どこかの留め具が緩んだりするということがなく、手入れをするときにも比較的容易に行えます。
ファルクスについた汚れを取るときにも分解の必要がないので、丸洗いすることもできたでしょう。
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パッと見ための形状は農作業でも使う鎌や鎌鉈を連想させます。
湾曲した刃の一点に集中するので、農作物収穫するときなどでも固い枝や茎を一刀両断です。
そりゃもう、スパスパやってくれますよ。
ファルクスも同じく内側に湾曲した刃の一点に力が集中する事で切断能力が上がっています。
なおかつ、全てが鉄で出来ているというこの重量が威力を加速させています。剣なのにも関わらず、その斬撃は斧の一撃が入ったかのようにザックリと切る事ができました。
相手が総金属製の防具でガッチガチに固めていない限り、全力で振り下ろしてやれば防具ごと両断できることも珍しくなかったでしょう。
重さというのは切れ味というべきか、切断能力に直結します。
直線的な刃よりも斜めになっている刃の方が切れ味が高いと言う事は日本刀やギロチンを見れば分かります。
ファルクスはどちらの要素も備えており、これを怪力で振れば凄まじい斬撃を繰り出せる事が容易に想像できます。
大きく曲がっているという特徴を活用して、相手の足などの関節にひっかけるようにしたり、バランスを崩した相手に合わせて、相手の体重が上手く刃にかかるように押し付けて切ったりとする使い方もできました。
確かにつんのめった先に重い金属の棒があれば、めっちゃ痛いですよね。
これが金属の棒じゃなくて、ファルクスだったとしたら、ザックリ切られてしまいます。
純粋にパワーだけではなく、扱う技術を上げる事でより強い武器として扱う事ができるのもファルクスの特徴です。
普段から、4キログラムというすごい重量の剣を振り回していれば、使い手は嫌でもムッキムキになっていくでしょうから、これを装備していた戦士達の強さは突出していたと言えます。
4キログラムの棒を持った状態で丸一日動き回って戦い続けるなんて、トップアスリートでもびっくりなスタミナとパワーです。
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「4キログラムなんて、大したことないよ」
なんて思う方がいますが、荷物のキログラムと武器のキログラムは別次元です。
2リットルのペットボトルは誰でも持ち上がりますよね、それを振り回してみましょう。
出来れば丸太とかの的を作っておいてゴンゴンとぶつけてみたりするとなお実戦的ですね。
あっというまにヘロヘロになってきますし、翌日は筋肉痛が確定です。『長時間持てる』という事と『長時間振り回せる』という事はイコールではありません。
現在、試合などではほとんど使われてはいませんが、攻撃力が低く、防御にも弱めな「下段」とか「脇」とかに武器を置く構え方も存在しています。
こういった構え方がある理由は簡単です『武器なんて、ずっと真っ当に構えてたら疲れる』『いざ勝負となった時に腕が疲れてプルプルしてたら負ける』からですね。
ファルクスを構えて1日戦い続けられるとしたら、化け物かと思えるほどの筋力とスタミナを有していると言う事ができます。
ローマ人とダキア人の間には交易もありましたが、ローマの人々は力強いダキアの人々を恐れ、ダキア人達の土地へと何度も侵攻するようになりました。
強大な力を持つローマ帝国をダキア人達は何度も押し返します。
これもファルクスがあった事とこれを自在に扱える屈強な戦士が揃っていた事に他なりません。
ダキア人達を攻略するために、ローマ帝国は専用の軍の編成を考えるなどして徹底的にファルクス対策をしてから戦争を行いました。
強いダキア人達も最終的にはローマ帝国を押し返すことが出来ず敗北してしまいます。
ローマ帝国はダキア人達に勝利した事を記念して、ダキア戦争の様子を描いた記念碑をわざわざ作っています。
それだけダキア人、つまりファルクスとそれを扱う使う戦士達が強かったということですね。
叩き切ってやる!
4キログラムの鉄の棒、こんなものブンブン振るなんて無理!