第57回 グラディウス ローマを代表する剣
グラディウス
古代ローマの歩兵達の標準装備だった剣、時に短剣に分類されている事もあります。
この時代の刀剣類の総称にグラディウスという言葉が用いられていたほどなので、日本人が「刀」というと太刀とか、脇差しとか、七支刀とか色々あるのに「日本刀」を連想してしまうような感覚だったのでしょう。
コロッセウムで戦う、グラディエーターもこの剣を使っていたとされています。
グラディウスはラテン語で「剣」の意味となり、グラディエーターは剣で戦う人を指す言葉となります。
日本語では剣闘士と書くので、まさに読んで字のごとくですね。
肉厚な刃と太い鍔部分、ゴツイ作りという印象が強い剣ですが、歴史は非常に長く、何と1000年以上に渡り扱われてきました。
その長い歴史の中では剣の厚みや造り、材質など様々に変わっていた事が分かります。
実際、見つかった都市や、年代によって「○○型グラディウス」と区別されたりしています。
それでも、王道といった形の印象は崩れず、世界的に名前が通った剣です。
植物の名前の語源になったり、グラディウスを名乗る家名があったり、ゲームやオモチャなどのタイトルに使われたりとして、現在でもこの剣の印象があちこちに広がっています。
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形状ですが、肉厚な剣という印象が非常に強いですね。
刀身の厚みは他の刀剣類の2倍はあろうかというほどに分厚く、中心には一本の溝が彫られています。先端は尖り、両刃が柄の部分まで存在しています。
鍔の部分もメダルか何かかと思われるほど分厚い金属で作られて、握りの部分は指がぴったりはまるように溝が彫られています。
ゴツイ作りなので重そうに見えるのですが、重量は1キログラム前後と意外と軽量です。
これは盾を持って扱う事を前提に作られている片手剣という事がその理由です。実際意外と短く、柄から先端までで大型の物でも75センチ程度に収まっています。
短いタイプでは全長50センチ程度の物もあるため、時に短剣に分類される理由も分からなくはありません。
鞘もこの太い刀剣が収まるため、とても大きく目立つ構造をしています。
シンプルな物はただ納まるだけでしたが、金属の細工が付けられていたり、吊るしたり体に固定するためのフックやリング状の金具が備え付けられた物などもありました。
歩兵達が使っている剣だったので、持ち運びがしやすいようにと配慮されている事がうかがえます。
柄の部分は木や動物の骨などで作られていましたが、時には象牙などの今では貴重とされているような物まで使って作られていました。
扱う人の身分や名声、年期などによっても様々に分かれていたのかもしれません。
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使い方の基本は肉厚さを活かして、振り下ろして使います。
以前に出したピラとピルムの投擲による先制攻撃の後に、このグラディウスを用いて白兵戦をしかけるという戦法も取り入れられていました。
肉厚な刃を持つグラディウスを勢いよく振り下ろされると、傷口は深く、骨にまで達するほどの大怪我になります。
目の前で、屈強なローマ兵に無残に切り付けられた姿を見てしまうと、戦意は喪失していくでしょう。
投げ槍で壊滅状態、せめて一矢報いようと剣を抜いても、ローマ兵の盾に阻まれてグラディウスで切り付けられる。
恐ろしい事です、ローマに立ち向かおうという気力を根こそぎ奪っていくでしょう。
斬撃だけでなく、刺突も有効でした。
人体に深く剣が刺さってしまうと、筋肉などに阻まれて抜けなくなってしまう事があります。
試しにブロック肉を買ってきて包丁を突き立ててみるとこの感覚が分かるはずです。
戦場でこの状態になると、一時的ですが、武器無しという無防備な状態になってしまいます。
グラディウスは深く差し込んだとしても比較的容易に引き抜けます。
それは幅広な刀身があることに加えて、中心に溝があるため、肉と剣の間に空気が入ることで、摩擦が減ったような状態になるためです。
ブロック肉に刺さった包丁が抜けない時、包丁と肉の間に箸などをちょっと入れて空気を通してあげると少し抵抗が減って抜きやすくなりますね。
コロッセウムの剣闘士達は斬撃を主に使っていましたが、重装備の歩兵達は刺突を主に使っていました。
確かに、斬撃の方が動きも分かりやすく、与えられる傷も範囲が広く派手な物になりやすいため観衆を魅了するには効果的な使い方だったと言えます。
実戦の際には刺突と言う、素早く重症を与えられる扱い方が効果的と言えます。
ショーとしても、実戦でも成果を上げることができたグラディウス、刀剣の代表とされることも納得です。
命を賭して!
刀身があって鍔【ガード】、握り【グリップ】、柄頭【ボメル】と言います。
この3か所の細工と鞘のデザインでどこまでも豪華にできます。




