第55回 レティクルム 人を捕らえる必殺投網
レティクルム
古代ローマのコロッセウムもしくはコロシアムと呼ばれている円形闘技場で使われていた武器です。
形状は投網そのもの、縦横100~120センチ程度の大きさをしています。
コロッセウムで戦う人々はグラディエーターなどと呼ばれますが、このレティクルムを扱う人々は「レティアリウス」と呼ばれ、その意味は「投網を投げる人」「投網士」となっていました。
レティアリウス達はレティクルムとフュスキーナという三又に分かれる槍を用いて戦いました。
レティクルムは大きな網のように描かれている所と、投網のように広がり、引っ張れるように網の端に重石が付けられて引っ張るための紐が付けられて描かれている物があります。
フュスキーナはポセイドンが持っているような先がフォークのように分かれており、3本の先端の長さが揃っていました。まさに漁で使う銛のような形状です。
レティアリウス達は上半身は裸で、右手にフュスキーナ、左手にレティクルムを持って、まさにこれから海に出る漁師にも見える装備で、命をかけたコロッセウムの戦いに身を投じていました。
コロッセウムでは時に会場に大量の水を入れて、そこに船を浮かべて海戦まで行うという大々的な戦いもする事ができました。
本当に色々な戦いを見ることが出来るできました。あまりの残虐さに目を細める人も多い中、熱狂的にとりつかれたようにコロッセウムに通う人々多くいたのです。
そんな熱狂的な民衆が見に来ていた闘士のほんの一部ですが、今回はレティクルムとフュスキーナをとりあげて行きます。
さぁ、本当に居た人間を捕らえる漁師をみていきましょう!
◇
改めて形状を確認します。
フュスキーナは三叉の銛のような形状で、長さが120~180センチ、重さは1.5~2.1キログラム程度。
レティクルムは100~120センチ四方の投網、タイプによっては網の端に重りと、引っ張るための紐がついています。
金属ではなく紐を編んでいるので、重さは1キログラム程度です。
フュスキーナは長いように見えますが、片手で構えるため槍の真ん中当たりを持ちますので、間合いそのものはレティクルムと大差ありません。
対戦相手は剣や盾を装備しておりますので、つかつか近づいていけば、投網を避けられ銛は盾で阻まれ、相手の剣をもろに食らってしまいます。
まずはレティクルムを振り回したり、投げかけようとしたりと牽制をしていきます。
タイミングを見計らってレティクルムを相手に投げかけて捉えます。
相手は剣や盾をもっていますが、こういった物を持っているからこそ、引っかかったりしてレティクルムを外せなくなります。
相手を捕らえる事が出来たら、網を引っ張るなどして相手の体制を崩します。
網に引っ掛かって思うように盾と剣を動かせず、体制も崩す事ができたら、フュスキーナを高く掲げて観衆にアピールしながら止めの一撃を差し込みます。
もちろん、レティクルムで牽制している間に相手がスキを見せたら、フュスキーナを差し込むこともできますし、重石が付いていれば振り回して頭部を殴打する事もできます。
相手が血を流して、脳震盪でフラフラしていれば、これもまた止めのチャンスです。
観衆が喜ぶような派手な一撃を考えてあげましょう。
運動会の障害物競走で網の下をくぐるなどもありましたが、ここに服のチャックや紐、髪の毛などが絡むと簡単には外せなくなります。
さらに外そうともがいている間にこの網そのものを引っ張られたら、両手・両足にまで網が絡みます。
ここまでいったら、自分では外せないほどになるので、見た目よりもレティクルムの拘束性能は高いと言えます。
◇
これらの装備はあくまでもコロッセウム内で使われていた武器になります。
なので、海上での戦いでフュスキーナに似た武器を使われていたという事はありますが、コロッセウムの外で使われている武器ではありません。
一部ローマ軍が装備の一部として使っていたと言われていたようですが、軍の正式な装備になることはなく。
あくまでも戦いを見せるというショーの一部に取り入れられていました。
古代コロッセウムの戦いを再現したイベントで、このレティクルムを頭から被せられた人の画像がみつかりましたが、1人では外せないほどにガッツリ絡んでいました。
数人がかりでも簡単にはハズれてくれないほどにもう、ガッツリ!
現代でも対犯罪の防犯グッズで、網を打ち出すネットランチャーが販売されています。
その威力は「たかだか網をかけられたくらいで」と侮ってはいけません。
全身を包むほどに網をかけられると、両手両足を動かした時に必ずどこかの紐に引っかかりますので、網を思わぬ方向へ自分で引っ張ってしまいます。
一歩歩くたびに反対の足などを引っ張られるということですね。
うかつに転んでしまったら、全身に網が絡みついてしまうので、曲げた手足を伸ばすことも出来なくなってしまいます。
想像以上に動けなくなりますし、何とかしようともがくほど、もっと動けなくなってしまいます。
古代ローマでは戦いに使われた投網レティクルム、現代は防犯用品に改良されて使われているのです。
大漁じゃ~!!
獲ったじゃなくて「勝ち取った」、手に入るのは獲物じゃなくて「富と名声」。




