第53回 投げ縄 ロープを武器にする瞬間
投げ縄
ロープを投げて相手に絡みつかせるというシーンはあっちこっちで描かれています。
こうした縄を扱う技術の事をロービングともいうらしいですね。
ロープワークだと、結び方や荷物や建物などの固定技術なども入ってくるようですね。
西部劇とかでカウボーイ・カウガールが疾走する馬の手綱を握るもう一方の手で、頭の上で輪になっているロープをひゅんひゅんと振っているシーンは誰でも思い浮かべるでしょう。
最近でもアメリカで、カウボーイとして牧場経営をしている男性が、ショッピングモールで女性の荷物を奪う盗難事件が発生。
男性が犯人を馬で追いかけて、その足へ投げ縄をかけて動けなくしたところに警察が駆けつけて犯人を逮捕したという出来事がありました。
こうしたロープの扱い方は簡単には出来ません。
先を輪のように結んだロープは確かに先端が重くなるので狙った所に投げられるようにはなります。
でも、鈎縄や鎖武器のような先端に重石になる金具などが付いていないので、狙い通りに投げるためにはかなりの練習が必要になります。
また投げ縄はどうしても長い縄を持ち運ぶ必要があるため、束ねて肩にかけたり、馬の鞍にひっかけたりとして運搬する必要があります。
さらに、輪にした縄が投げた時に絡まないように巻く必要があるため、運搬や用意にも細かい技術が必要とされるアイテムが投げ縄になります。
じつは自然界にも投げ縄を使う存在がいます。
北アメリカに生息するナゲナワグモは蜘蛛の巣を作らずに、粘り気がつよい粘液がついた糸をヒュンヒュンと振り回して近くを通った虫へこの糸をぶつけて絡みつかせます。
そして、糸を手繰り寄せて獲物を引き寄せて、捕食するという珍しい狩りの方法をとっています。
投げ縄で捉えて、牙で止めを刺す、まさに投げ縄の戦法ですね。
投げ縄そのものの威力は「相手を捕らえる」という事ですが、これが腕に絡めば武器を奪い、首に絡めば窒息死もありえます。
しっかり絡めば強く引っ張っても外れませんから、馬や車にロープの一方を結び付けて引きずり回すという拷問ができるのが投げ縄です。
自分の方が低い位置にいたら、引っかけて引っ張ってやれば相手に落下ダメージを与える事もできますね。
発想次第で色々な使い方ができる物が投げ縄になります。
さて、今回は投げ縄を見ていきましょう!
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構造についてはいくつかあるようですが、ピーターが知っている物をご紹介します。
詳しく知りたい方は「ロープワーク カウボーイ結び」などで検索をしてみてください。結び方、締め方を解説しているページや動画がみつかるはずです。
投げ縄は先に付いている輪の部分が締まるようになっていないと、外されてしまう可能性が上がってしまいます。
そのため、結び方やパーツなどを組み込んで先端が締まるように細工がされています。
イメージするなら100円ショップでも売っている結束バンドのような構造ですね、最近DIYでも良く使われております。
石油ファンヒーターとかの後ろにもコードを束ねるためについていたりします。
まずロープの先に小さい輪を作ります。ここにロープを通して結ばずに大きな輪を作ります。
結束バンドのバンドを通す小さな穴と、バンド部分と同じ関係ですね。
こうして作った大きな輪を投げて、相手にかかった瞬間にロープを引っ張ります。
この引っ張られているという事が重要です。
大きな輪なので、持ち上げれば簡単に外れそうですが、これが引っ張られていると簡単には外れません。
何とかしようともがいても、引っ張られている縄は体にひっかかってくるのでうっとおしくも思います。
体をよじったり、引きずられてしまったりすると、ロープが締まっていきます。
結束バンドが締まっていくかのようになり、もっと外しにくくなっていきます。
ロープの巻き方にもコツがあり、適当に巻いているだけだとロープがねじれたり、絡んだりして上手くなげられません。
ご自宅のコードを見ると気が付いたらゴッチャゴッチャのグルッグルにからみついていませんか?
絡んだロープは投げてもうまく飛びませんし、引っ張ったときにも上手く伸びてくれません。
巻き方で有名な物は『8の字巻』と言われるロープの向きを変えながら巻く方法がお勧めできます。
テレビのカメラアシスタントさんがコードを巻き取ったり、伸ばしたりしながらカメラに付いていく様子がありますが、ここで使っているのも8の字巻です。
絡まないようにしておかないと、投げた時に自爆しますからね。
ロープ状の物が絡まないようにとする技法は他にも、消防のホースだったり、工事現場の虎模様のロープだったりと使われています。
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頂いた情報では4~6世紀に中央アジア~東ヨーロッパで活動していた、遊牧民のフン族が投げ縄を武器にしていたとされています。
彼らは、弓・投げ槍・剣・投げ縄と多数の武器を扱い、他の部族からの略奪なども行っていたようです。
具体的な使い方は書かれていませんが、騎馬遊牧民であったフン族は馬上から投げ縄をかけて相手の動きを封じた所に槍や剣で止めを刺していたのかもしれません。
馬上の相手を引き落としたり、歩兵にかけて馬に引きずらせて、自分は剣を構えるなどすれば1人で何人も相手にできる大立回りもできそうです。
1人が縄で捉えられれば見せしめ状態になるので、相手の戦意も下がっていったでしょう。
攻城戦でも鈎縄の代わりに投げ縄を使う事もできたはずですし、工作兵が城壁を登った後は縄を垂らして後続を登りやすくするといった補助アイテムにも投げ縄は使えそうです。
投げ縄を使う人が1人だけだと、かけられた対象がこっちにむかって突っ込んでくることもありえます。
複数人で縄をかければそれぞれの方向に引っ張れるので、相手を押さえつける効果は跳ね上がりますね。
西部劇をイメージした作品の中では列車に投げ縄をかけて、飛びつくための足場にしたりするシーンもあったりします。
実際のカウボーイ達は列車ではなく、野生化した牛達を捕らえる時に投げ縄をつかっていました。
相手に怪我を負わせて構わないということであれば、ボーラや鈎縄などの方が使い勝手もよかったはずですから、相手を無傷に近い形で捉えるのにはこの投げ縄が向いています。
捉えるための道具は投げ縄の他にもあります。
棒の先に縄で輪を付けて置いて、手元で輪を縮める事ができるキャッチ・ポール。
先端の輪を金属製にかえて知恵の輪のように取り付けたり外したりできるようにしたり、内側に棘を付けて強引に抜けられないようにしたマン・キャッチャーなどが登場してきました。
投げ縄ほど熟達する必要が無く、棒の分相手からも距離があることで、投げ縄をかけた対象がこちらに突っ込んでくるといった事がやりにくくなるんですが。
間合いの長さでは投げ縄がトップでしょう。
今でもこうした縄状のアイテムは野生動物を捕らえるトラップなど、投げ縄のアイデアが活用されている物がありますね。
ハイヨー!!
なぜか、馬の上で何かするときの掛け声がこれのイメージがある。
元々は西部劇のワンシーンだったんですけどね。