表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

59/200

第51回 ピルム ローマの最新投げやり

ピルム


 古代ローマで、ピラという投げ槍とセットで使われた投げ槍。


 ピルムは全長最大2メートル、重さは2.5キロ程度。ピラは1メートル程度で重くても1.2キロ程度、大小2つの投げ槍を使用する戦法で使われました。


 資料によってはピルムもピラも大きさが違うだけで同じ武器として扱われている物もあり、ピラの中にもピルムとほとんど同じような作りになっている物もあります。


 いつもながら「諸説あります」となる武器です。


 ピラは先の部分がソケット式で、やや細めの穂先をしているくらいで、ピルムに比べたら際立った特徴はないです。

 ピルムは一度目にすればピンと来るようになるほど独特な形状をしています。


 ピルムの穂先の部分が50~70センチ程度と、槍全体の2割~3割も占めるほどの長い穂先を持っている上に、この穂先の先端と柄をつなぐ部分は「針金か!?」と思うほど細く長くなっています。


 先端はとても細く鋭く作られていて、途中の部分には重りも入っており、穂先が相手に向かって突き刺さるように微妙な調整が加えられています。


 飛び道具という使い捨てにもなりかねない武器にしてはかなり手の込んだ作りになっているんです。

 複数を持たせて使わせるという戦法になるため、武器の製造の予算はとても大きな物になっていたでしょう。


 ローマという大国だったからこそ、実戦にまで持ち上げる事ができたという武器に感じてなりません。


 その理由は武器の使い方を見てもらえれば分かると思います。





 ピルムの使い方は、先に短いピラを投げて相手を怯ませる所から始まります。


 投げ槍に対処するために、敵兵は当然の事ですが、盾を構えて襲い来る投げ槍を受け止めたり、受け流したりと対処する事になります。


 当然ピラの方が短く軽いので、遠くまで飛ばす事ができます。

 ピラで先制攻撃して、相手に防御態勢を取らせる事がポイントになります。


 続いて少し接近してピルムを投擲します。すると相手は防御のため、盾を構えていますよね。

 ピルムは先端が鋭く、重さもあるので、この時代に主であった皮や木製の盾を容易に貫通します。


 ピルムの先端はとても細いため、盾に刺さった直後に面白い事がおきるんです。

 なんと、先端部分が衝撃に耐えきれずに「ぐにゃり」と曲がってしまうのです。


 穂先の部分が返しになり、ぐにゃっと曲がった穂先は簡単には抜けてくれません。

 相手の盾に長さ2メートル、重さ2.5キロというとんでもなく邪魔で重い物をくっつけることが出来ます。


 こんなものが2~3本も刺さったら、その盾は使い物になりません。


 曲がったピルムという重いし、長い物がいくつも刺さっていれば、地面や味方にひっかかって動きを止めます。

 重量も増えるので盾を持ち上げて、構える事ができなくなります。


 当然、人体に刺さってもピルムは曲がってしまうので、引き抜いてから治療しなければなりませんが、そんな余裕はありません。

 ピラとピルムの雨に盾無しの怪我人となってしまうので、瞬殺されます。


 槍が刺さったままでは、激痛と2メートルという長さが邪魔をして容易に撤退することも許されません。


 相対した時には万全だったはずなのに、ピルムの投擲が始まってからあっという間にボロボロにされてしまう。

 相手の防具を使い物にならなくさせて丸腰にさせるばかりか、撤退すらも容易にさせない。脅威の投げ槍がピルムです。


 こうした投げ槍などは、拾って投げ返すという対処法も使える事が多いのですが、ピルムはそれもさせてくれません。


 投げられた側にあるのは先のひしゃげたピルムばかりです。

 投げ返せないどころか、足元に使い物にならない槍が沢山転がる事になるので、相手の足場の状態も悪くさせるという副作用のような効果もありました。





 こうしてみると、使い捨ての武器にしては精密に作られていたと言う事が良く分かります。


 先端がとても鋭く、細くて投げたら曲がる絶妙に調整された穂先。1人1本ではなく、最低でもピラとピルムの2本持ち。


 技術レベルが高く、しかも沢山作っておかないと、このように使う事ができません。


 つまり通常の使い捨ての武器に比べると「はるかに高価」な武器を、1人あたり数本という「多数」を用意しなければならなくなります。


 これほどの製造技術と材料の流通を確保した上に、十分な予算があったからこその武器と言えます。


 ローマという大国があったからこそ、製造から前線への投入まで行う事ができました。


 個人や小国では、たとえ製造の技術があったとしても数をそろえる事が出来なかったでしょうから、もっと安く作る事ができる武器を使わざるを得ません。


 ローマ恐るべしですね。


 ピルムにはナックルガードが付いた物や、盾とセットで使う事を想定した物などのバリエーションもあったようで、さらに研究されて戦術に合わせて進化・分化していったようです。


 時には投げ槍だったにも関わらず、通常の槍のように使われたりすることもありました。


 通常の槍として使う場合は強度に著しく不安な面があるものの、軽量であり、貫く事に特化しているピルムは決して弱い武器ではありません。


 どこでもいいから刺さったらひん曲げてやれば、いいんだもん。

 スッゴい戦力低下になりますよ。


 最前線で主には投擲、時には近接に使われた槍が、このピルム。

 なんと紀元前4世紀頃から3世紀ころまで使われていたとされています。


 700~800年間も前線に投入されていたと言う事が、この武器の効果の高さを物語っていますね。

邪魔だぁ!!


 邪魔してんのよ!

 カワイイ響きの名前のくせに、すっごい意地悪なのよピルムったら


 槍って、持ってても投げてもカッコいいよね!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[一言] このピルム、どうやら7世紀までフランク人やアングロサクソン人がアンゴンという名称で再利用していたようです。 その威力もさながら、なんと穂先は釘で柄に固定しているだけなので、新しい穂先を付け…
2022/09/03 02:19 旧世代の遺物
[良い点] ◎ ピルムの嫌な威力がよくわかります(笑) 〉投げられた側にしてみれば、銅貨や銀貨で殴られる(札束で殴られる)ようなひどい話(笑) [気になる点] ◎ フランク族の投げ斧(フランキスカ)…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ