第48回 マキビシ&シツレイ 踏んだら痛ったーい!
撒菱・蒺藜・カルトロップ
撒菱は誰でも知っている忍者道具の1つ。日本にしかないものかと思われるけれども、実は世界のあっちこっちで見られる武器であり、即座に設置できる足止めトラップです。
日本では撒菱、中国では同じ発想から作られた蒺藜があります。
世界ではカルトロップと言われており鉄製で釣り針のような返しが付けられている物までありますね。
撒菱の定番の形状は4つの棘を持つ金属で、適当に放り投げても3つの棘が地面に向いて残った一本が上を向くように作られています。
菱という植物の種がちょうどこのような形状をしていて、金属製の物が登場するまではこの種を撒いて足止めをしていました。
『菱』を『撒』くので撒菱という名前になりました。
菱の種を使った天然物、木から削り出した木製の物、鉄などの金属を使った物など様々あります。
ちなみに、撒いて使うため後々の回収は難しいことが多く、使い捨てのトラップと言えます。
作るのが手間な上に手で持てる程度の量ではトラップとしては範囲が狭いため沢山持ち運ばないといけないなど、欠点も多くあります。
ですが、実戦で使われた記録が残っていたり、現代でも対車両用のアイテムとして撒菱の発想から作られたトラップが今も存在しています。
今日はこの武器であり即席トラップになる、撒菱と蒺藜がテーマです。
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言わずと知れた忍者道具の撒菱ですが、これは日本の履物が草鞋や足袋といった物で足の裏の防御力が少なかったため、鉄製の物以外も十分に効果がありました。
竹でも木でも削り出して撒菱の形状にして墨で塗るなりしておけば、夜でも目立たない撒菱の出来上がりです。
持ち運ぶのは竹筒に入れていたので、金属製ならガッチャガッチャ音が鳴ります、重い上に製造コストも高そうなので金属製の物はあまり使われなかったかもしれません。
天然物や木製なら竹の中でも音が小さく、材料費も抑えられますし、現地調達も可能になります。
使い方も『待てー!』と追われながら使うというよりも、逃走経路にあらかじめ設置しておいて、自分はそこを飛び越えたり、すり足で上手く抜けるようにします。
全力で追ってきた相手が気が付かずに、勢いよく踏んでもらって、走れないほどの怪我を負ってもらうというわけです。
撒くところを見られたら、そっと抜けられたり、飛び越えたりして、再び追いかけられてしまうので少し効果が薄いですね。
追われながら使うなら、竹筒を振るようにして、撒菱を相手にぶっかけるようにぶつけます。
顔に向かって飛んでくると本能的に目をつむったり、両手で顔をかばうなどの反応をするのが人間です。
その隙を使って、反撃でも逃走でも行動がとれますし、足元に転がった撒菱は後続の追っ手の足を遅くしてくれます。
個人ではなく、1団体でドバーッと撒き散らせば、その道はしばらく通れなくなりますので、相手の出鼻をへし折ってやる事にも使えますね。
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蒺藜についても使い方も形状もほぼ一緒ですが、撒菱よりもバリエーションが増えている所が特徴と言えます。
これも天然の菱などの種を使った物、木製の物などもありますが、鉄製の物は「鉄蒺藜」と表記される事もあるようです。
鉄製の蒺藜には中心の部分に穴をあけて紐を通せるようにしたものがあります。
資料の中では160㎝程度の紐に30㎝間隔で蒺藜を結び付けておいて、これを竹筒に入れて運搬していたとされていますね。
紐がある事で使い方の幅が広がり、対象も人間だけではなく馬まで狙う事ができます。
当然、鉄で作られた鋭い棘の蒺藜を踏みつければ多少丈夫な靴程は貫通します。人間には十分効果的ですね。
馬の脚にはこの紐が絡みつき、動かせば動かすほど蒺藜の棘が足に傷を付けていきます。
並んでいる蒺藜のどれか一つに掛かれば、山の中でツル植物に巻かれたかのように紐が絡み、蒺藜の棘が引っかかってきます。
痛いし、歩きにくくさせる効果がある上に、馬の脚にダメージを与える事で相手が軍隊であっても時間を稼ぐ事ができます。
1度ひっかかれば『またあるかもしれない』と警戒するので、歩みはさらに遅くなります。
馬も人も止められるので、足止め効果はすごいです。
三国志の中でも蜀と魏が対決し蜀の軍師諸葛亮が没した後、蜀の軍が魏の追撃を阻むためにこれを使ったとされています。
魏の兵士達は木で作った底が平らな靴でこれを突破したとありますが、さぞかし歩きにくかったことでしょう。
また、蒺藜に毒や糞便などを塗ったり、毒液を染み込ませた物などを鬼箭と呼んでいました。
戦場ではこのようにして殺傷力を上げて使われていたと考えられます。
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蒺藜にはさらに発展させたものや類似品も登場します。
個人のアイテムというよりも軍などの大きな単位で使われる罠としての要素がとても強くなっていきます。
鉄菱角という3脚のような形状を持つ物は蒺藜よりも大きく、川の中や濠の中など見えにくい所に設置しておいて、そこを通る馬や人の足を引っかけて傷をつけます。
こういった敵の足を止めるアイテムには板に釘を打ち付けておいて、並べるだけで通れなくさせる地澀。似たように釘板を使った対馬の搊蹄などもあります。
ネットでも少し画像がヒットしますが、どれもこれも痛そうな形状をしています。
鉄製で一個一個加工するよりも鋭い釘を沢山作っておいて、板に打ち付けると製造も簡単ですが、個人で持ち運んで使う物ではなくなってきていますので、撒菱や蒺藜とは変わってきている印象があります。
撒菱や蒺藜が分類されるカルトロップの中には、棘の部分に返しが付いていて刺さったら抜けにくくなっている物、棘が注射針のように空洞になっている物などなど。
さらに、一個一個に迷彩模様がプリントされて気付きにくしているものなど本当に色んな種類があります。
近年でも使われている逃走車や暴走車をパンクさせるスパイクトラップ(スパイクトリップ)は鋭い棘で車のタイヤを切りパンクさせるアイテムです。
これもカルトロップの1つになります。
一瞬で設置するタイプはチェーンに金属がつながっておりここに棘がついています。
チェーンを投げると棘が上向きに広がるようになっており、投げるとまばたき1回分の時間で設置が完了。
回収もチェーンを引っ張るだけという扱いやすい構造になっています。
ドイツなどでは、敵軍を止めるために大量のカルトロップを詰めた容器を空中で爆発させて、広範囲に撒いて通行を妨害する兵器まで作られていました。
空港や大きな道路に大量のカルトロップがあっては誰も通れませんので、軍隊どころか街を丸ごと動けなくする事もできたでしょう。
個人が使用していたかと思っていた小さな撒菱や蒺藜は、過去でも現代でも軍隊が採用するような大きな備品だったということが分かりましたね。
足止め!
画鋲や釘を箱ごと落とした時の言い訳
「必殺! マキビシ!!」
「ひろっとけよー」
「はーい」(´・ω・`)




