第46回 フランベルジュ 切られた傷は治らない
フランベルジュ
通称、炎の剣とも言われる。フランス語での「火炎の形」という意味がある「flamboyant」が語源。
柄から伸びる刃は直刀の形式をとってこそいるが、ゆらゆらと波打った形状をしている。
この形状を炎に見立てており、金属で作られた冷たい炎というインパクトのある見た目をしています。
両手剣なので長さは130~150㎝くらい。重さも3~3.5㎏くらいになります。
刀身の根元部分には刃が付けられておらず、持ち手部分だけではなく、刀身の根元も握る事ができました。この部分には小さな鍔となる突起が付けられており、柄から、握り・鍔・握り・鍔・刀身という形状になっています。
実は両手剣にはこういった作りは多く、握りの部分を変える事でゼロ距離レベルの接近戦にも対応するなど、臨機応変な使い方ができます。
この剣が製造されて、使われていたのは中世ヨーロッパ、資料の記録上17~18世紀とされています。
ですが、歴史的な記録上では8世紀にはルノー・デ・モントパンが所有して使われていたとされており、実際には歴史のある剣といえる存在です。
有名な剣ですし、ファンタジーでは「炎のフランベルジュ」とか名前がついて刀身が燃え上がったり、火や炎を連想されるキャラクターに持たせたりと使われている事もあるようです。
私が最初に抱いたイメージは「海の中の昆布やん」と大変柔らかく、弱い印象を与えかねない言葉が当てはまる物でした。
でもね、この昆布のような、波状の刃の効果はすごい物なんです。
炎、波とゆらゆらした動きをするイメージを連想させる美しい刃を持つ特徴的な刀剣、このフランベルジュの刃以外ではなかなか見られるものではありません。
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フランベルジュの使い方は通常の両手剣と同じです。
両手で持って、相手を切りつけるという使い方。
とてもわかりやすいですね、特徴的な外見も相まって、ただの両手剣を振るよりも人々の目を引きつけます。
使い方は同じでも、切られた傷は違います。
傷の断面は複雑な形状になり、さらに波打った刃が通過した事で傷口が左右に開かれてしまいます。
こうなると、通常の切り傷に比べてずっと治療がやりにくく、傷口も塞がりにくいため治りが遅くなります。
実戦で使われていた時代と場所がヨーロッパであった事を考えると、衛生環境などはとても悪かったはずです。
戦場という場所、治りにくい傷、ベースにあった衛生環境の悪さ、これらを要因としてフランベルジュで付けられた傷は簡単に化膿し感染症を引き起こします。
美しい外見とはうってかわって、たちが悪い結果を狙った攻撃になっています。
フランベルジュは両手剣ですが、片手剣のフランベルクがあります。フランベルジュをそのまま小さくしたような形状をしていますが、これは刺突剣です。
しかもフランベルクは波打った刃を持つ刺突剣の総称として使われています。
フランベルクは刺突剣ですが、刃の形状を考えると突きだけでなく斬撃も十分威力があったと思います。
ですが、切るという動作よりも突くという動作の方が素早く防がれにくいため、斬撃はあまりつかわれなかったかもしれません。
通常の剣で突かれるよりもフランベルクで突かれたほうが、傷口の形状が複雑になりますので、治りにくい傷を与える所もフランベルジュと同様です。
とても古くから「波打った刃は傷の治りが遅い」と言われていたようで、まさにフランベルジュの性質を言い当てていますね。
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フランベルジュは銃器の登場で戦場のあり方が大きく変わり、刺突剣の登場とその技術の向上によって、両手剣の存在がどんどんと追いやられて姿を消していく中でも儀礼用として用いられていました。
それは、波打った刃という特徴的で美しい外見があったためと言えます。
名前がフランベルジュとされたのは実は17世紀頃の事だそうです。
記録に残っている最初の所有者、ルノー・デ・モントパンは聖騎士であり、シャルルマーニュに仕えていたため、その名誉から名付けられたとしている説もあります。
ネットで検索してみると、画像がこれでもかと言わんばかりにヒットしますし、イラストとして描いたり、自作してみたりする方も多くいらっしゃいます。
今も人気がある刀剣なのは間違いないでしょう。
よくよく考えてみると「規則正しく波打った刃」を作る職人ってすごいですよね。
これが8世紀には存在していたとなるので、歴史を作った鍛冶職人の技も感じさせてくれます。
冷鉄の炎!
実は日本にも蛇行剣という波打った剣が古墳から出土しています。
これは儀礼用と考えられているようです。
クリスナイフという、波打った刀身の短刀もあってな。
あれ? 意外と波状の刃って、多いのか?