第43回 狼筅(ろうせん) これも竹槍、防御もできる
まさかの竹槍の後編
狼筅
中国で使われていた竹槍。
木製や竹製の槍の宿命とも言える、穂先の刃を切り落とされてしまうという欠点に対策をした上に防御力まで上げる事に成功した竹槍です。
日本の竹槍は枝を全て払って、竹の幹の部分を使いますが、この狼筅は枝を残して先端に金属の穂先を取り付けます。
この枝が残っているという所が大きなポイントです。枝は9~11本残っている事が良しとされていたそうです。
残して置いた枝には油をかけて染み込ませる事で丈夫さを上げておきます。
この枝が非常に高い防御力を生み出してくれています。
この狼筅は明の時代に発明されていたそうで、その時代の間には実戦でも配備されて使われていた記録が残っています。
穂先の周りに枝を残しておくことで、通常の槍と違って、突かれた時には先端と一緒に多数の枝も迫ってくるので、持っていた剣で払ったとしても枝に阻まれて先端を的確に狙えません。枝であれば数本切り落とされた所でも大して影響ありません。槍の欠点の先端切り落とし対策ができた槍です。
◇
剣の達人であれば「とりゃー!」と突き出された槍の先端を狙って、スッと身を横にずらしながら、スパッと剣を振る。「ほう? 木の棒でなんとする?」と平然とポソリと言えば、あいては「ヒィィ!」と怯えて下がるでしょう。
狼筅ならそんな事はありません。
「とりゃー!」と突き出されて、スパッと剣を振っても葉っぱに遮られて、落ちるのは枝ばかり。
油でコーティングされた枝葉に守られた先端の刃はなかなか切り落とされませんから、何度も何度も突き出せます。
枝葉で視界もふさがれますから、こちらの手元から突き出しのタイミングを計る事もやりにくかったでしょう。
先端の切り落としに手間取っているうちに、狼筅の先端に仕込まれた穂先の刃が相手に致命傷を与えます。
元々、剣対槍では剣は槍の3倍強くないと勝てないと言われています。でも狼筅が相手なら3倍程度では届かないかもしれません。
歴戦の剣豪でも手習い程度の狼筅の使い手が数人いれば、負ける可能性が出てきます。
さらに狼筅は対弓兵にも有効です。
盾を持って、鎧兜も備えている槍兵なら弓兵が相手でもそこそこに戦えますが、足軽のような軽量な防具では弓兵が相手なら、敗北確定です。
この狼筅は違います。上に構えて左右に振れば、竹のしなりと多数の枝葉によって、降り注ぐ矢の雨をまるで落ち葉を払うかのように叩き落す事ができます。
槍も集団になって槍衾を作れば、槍の群れが傘のようになり矢を弾く事はできましたが、この狼筅で槍衾を作れば頭の上には竹林が存在しているようなものです。
動く槍衾で作られた竹林、これを抜ける矢というのはそうそうありませんね。しかも相手が見えにくいから狙いも定めにくいというおまけ付き。
戦でも狼筅をもった部隊が最前線に配置される陣形まであったほど、重用されている槍でした。
竹槍と甘く見る事なかれです、攻防一体のすごい武器でした。
◇
後々には筅槍という、竹の柄の先端に枝を残した木と刃を取り付けたり、枝を模した鉄を付けた槍が登場しました。
狼筅のしなる竹の枝ではなく、木や金属の丈夫な枝が取り付けられているので、これをフックのように使い相手を引き倒したり、先端の重量を活かして殺傷力の高い攻撃をするために使われました。
そのため矢を払ったり、枝葉を使った防御方法といった守りの能力は狼筅よりも低下してしまいした。しかし竹の先端を使うためどうしても細く殺傷力が低い、沢山の枝を残してかさばるという2つの欠点は筅槍には無くなったため、より戦果をあげやすい形になりました。
先端が重くなったため、打ち下ろすという使い方が出来るようになった事もポイントです。
前回に続き、竹槍を紹介してきましたが竹槍って攻撃力高いんですね。
入手のしやすさ、加工の手間を考えると金属性よりも優秀な面があることが良く分かりました。
安い! 安全! 作りやすい!
たーけや~、さおだけ~
竹って凄い万能素材ですね。




