〇 ちょいとコラムっぽい物、武器を隠して使います
はい、今回のテーマは暗器や隠し武器です。
そもそも暗器という言い方は中国での言い方であり、日本での言い方は「隠し武器」とか「忍武器」とか言ったりします。
要するに隠し持って使うという武器ですね。
暗器という言い方は最近になって使われるようになりました。
この「暗」という文字が隠されている事、見えにくくされている事などのイメージを連想させるので、とても分かりやすい書き方と言えます。
武器を持って入れない場所に武器を持ち込む、不意打ちをするために武器を隠す。
たしかにそれであれば暗器という言い方でもわかりますが、何も攻撃にだけ使う物でもないんです。
時には武器を隠して置く事が自分の安全を確保することにつながります。
武器を忍ばせておく、相手からは見えない所に隠しておく、こういった使い方であれば隠し武器と言ったりしたほうがしっくりくると言えるでしょう。
マフィアの幹部の寝室、枕の下やベッドのフレームには必ずと言っていいほど拳銃が隠されたりしています。
日本でも武将や大名の寝床の近くには枕槍を隠して曲者の迎撃ができるようにしていました。
部屋の木枠や壁の隙間にも忍槍といって短めの槍を隠せるようにしていた事もあります。
これらはまさに自衛のための隠し武器です。
小さく折りたたんだり、パッと見て分からないようにしたり、部屋の構造を工夫したりと様々な方法で、武器は隠されていました。
中には武器に見せかけて、武器を隠すという複雑な事をやったりします。
ちょっと何言っているか分からないという方もいらっしゃると思います。
暗器や隠し武器、忍び武器とは人の心の裏に隠すと言いますので、『ちょっと良く分からない』は見事に武器を隠されてしまっている状態です、危険ですね、不意打ちをされてしまいます。
色々な武器から隠し方を知っておいて、不意打ちを避けられるようにしていきましょう。
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「武器を隠す」
まずは王道から行きましょう、武器を持っていないと見せるための隠し武器、時には暗殺にも使うであろう使い方なので、まさに暗器と言える方法です。
剣や槍などを持っていれば、どっからどう見ても武器を持っているとまるわかりですので、必然的に小さい物が多くなります。
袖に入れる、指輪のようにして手に握り込む、針のようにして服に仕込む、など外から見れば武器などの危険物を持っていないとされるように自分に隠します。
簡単な方法ではポケットに折り畳みナイフをいれておくことも十分隠したと言えるでしょう。
現代の日本でも、厳しめなボディチェックでもされない限り、カッターや折りたたみナイフ程度であればこの方法で持ち込めます。
もちろん、持ち込むために作られた武器が沢山あります。
峨眉刺は中国で使われていた30㎝程度の鉄の棒で中心に握りのための輪が設けられています。
刺すように使いますが、投げられるように改造した飛刺というタイプもあります。
これくらいの長さであれば、袖に隠す事もできますね。
もう少し小さい物は日本に角手というものがあります。これは他にも「隠し」「鉄拳」「爪」とも呼ばれていました。
指輪に棘や突起をつけたもので、突起の部分を手の内側に向けていればパッと見た所はただの指輪ですし、このサイズなら巾着の中でも、袖でもあっちこちに隠せます。
やろうと思えば髪の中や口の中などにも入れて置く事ができます。
突起を手の内側にして相手を握れは裂傷を、突起が外側なら拳の強化と殴るときのダメージをあげる事ができます。
袖箭というボールペンサイズで鉄の矢を発射する事ができる物も中国にあります。
諸葛亮孔明が発明したとされ、機輪経という書物に製造方法も記されていたとされていたとされていますが、本当かどうかは不明です。
矢の発射はバネなので、音もなく矢を放つ事ができました。単発式なのでに2発目はありません。
使い手には必中が求められます。毒を塗ってつかうこともできたでしょうが、矢が小さいため致死までもたらすことは難しいものです。
ですが手傷を与えたり、目などを狙えば前線に出れなくする事もできたでしょう。
ベルトも革製にして手に巻けるようにすれば武器になりますし、バックルに銃や小さいナイフを仕込むというのは映画でもよく見られる隠し方ですね。
もっとも隠し武器の王道は、女性が太ももにベルトを巻いておいて、小型拳銃のデリンジャーや短刀を仕込んで置くというスタイルだと思います。
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「日用品に隠す」
これは攻撃のためというよりも、防御のための隠し方になります。
日用品には色々な物がありますし、持っていても違和感が無い物になります。
来客を装って、敵が来た時でも手ぶらよりはマシ、相手の一撃を防げる可能性を上げることができます。
鉄扇、言わずと知れた鉄の扇。少林寺ではこれを武器として取り入れた使い方も存在しています。
折りたたみが出来るようになっている構造で骨組みだけが金属になっている物、布や紙を貼ってある部分まで鉄にしたものなどがあります。
相手がこちらを丸腰と思って刃物を振り降ろしてきたとすれば、一度は鉄扇で弾く事ができます。
時間が稼げれば、人も呼べますし、キチンとした武器を調達するまでの時間を得る事ができます。
鉄尺もしくは鉄尺は金属でできた物差しです。
武器ではなく長さを測るという本来の目的に使われていましたが、長さが人の身長ほどの長さともなるとその重さは10㎏近くにもなりえます。
部屋の隅に立てかけてあったり、工具と一緒に置いてあれば違和感もありません。
上段から振り下ろせば、その威力はフルスイングのメイスにも匹敵します。
相手が刀を持っていたとしても互角に渡り合うことすらできました。
刀と鉄尺がぶつかり合う音が聞こえれば、人も集まってくるでしょう、暗殺者から身を護るために使えます。
杖に隠すのは世界のあちこちにあります。
刃を隠した「仕込み杖」、鎖分銅を隠した「振り杖」、鉄の芯や鎖分銅に短い矢など沢山仕込んでおいた「忍び杖」様々あります。
仕込み杖にも、剣にしてあるもの、アイスピックを長くしたようなもの、レイピアのようにしてあるもの形状は本当に様々ですし、同じ要領で傘に隠した物まで存在しています。
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「武器に武器を隠す」
何言ってんの? って言わないように、暗器や隠し武器は人間の心に隠す物です。
以前にも取り上げたスペツナズナイフ、これもナイフの刀身を打ち出す事ができるようにした武器ですので、刃が飛んでくるなんて思ってもいない人にとっては恐ろしい奇襲武器です。
ナイフから弾丸が発射できるようにした、ナイフピストルという物も存在しています。
近接戦のナイフという思い込み、そこに飛び道具という物を隠しています。
ヨーロッパにはブランドエストックという武器があります。
これは、見た目には刃が小さめの斧のようですが、柄となっている棒の中には長い物では100㎝もの刺突剣が仕込まれています。
この刺突剣を出していない斧の形状では長さは120~130㎝、振って使う斧であれば間合いは狭い武器ですが、刺突剣を出した状態では最大200㎝ほどになり、槍のように使うこともできます。
室内では斧のように振って使う武器は使いにくく、相手が刺突剣であれば振った後のスキを刺されてしまうので相性はよくありません。
ブランドエストックであれば刺突剣ともやり合う事ができます。
狭い所でも直線さえ確保すれば刺突剣とも相性は悪くありません。むしろ間合いがとれる分、有利になります。
襲撃者が斧だと思って「ふっふっふ、俺の武器の方が間合いが広い」と思っていたら、中距離対応の刺突剣に変わり「あれ?」となっているうちに襲撃者が先に刺されてしまいます。
日本には鉄刀というものがあり、鉄塔とか鉢割とも言われていました。
これは日本刀のような鞘に十手を納刀する事で、パッと見は刀を差しているように見せることができます。
強盗をしようにも刀を持っている人をねらいませんので護身具としては十分、刀に比べたら手入れも要らず、はるかに安価に作れたので、下級の武士たちが持っている事もありました。
刀と違って相手を打ち据える事をメインに考えているので、争いの中で命を奪ってしまう可能性は刀よりも低く、相手が刃物だったとしても十手なので絡めとるという使い方もできました。
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いかがでしたでしょうか?
ここで紹介した武器はほんの一部ですので、今後も紹介していきたいと思っています。
暗器や隠し武器の隠し方は大きく分けて3種類。
「持っていないように見せるために隠す」
「日用品など持っていても違和感が無いように隠す」
「相手に『思ってたんと違う!』となるように、人間の心に隠す」
このようになっています。
もっとも、暗器や隠し武器なんて、本当にいろんな作りや隠し方の発想があるので、これに当てはまらない隠し方や使い方もあります。
色々と考えてみるのも楽しいですね。
楽しんでいる分にはいいですが『飛行機に刃物持ち込んでみた』みたいに実行してはいけませんよ。
荷物に隠す、服に隠す、部屋に隠す、生活用品に隠す、隠し方と隠し場所は数多ある。
しかし「無い」という認識。そして「こう使うだろう」という思い込み。人の心にこそ隠し場所がある。
ようするに手品の発想で隠されているんですね。