第35回 護手鉤 守りにも使える。多彩な用途。
護手鉤 ごしゅこう・フーシュコウ・フーショウコウ
色々な読み方がありますが、個人的には護手鉤と読む事がしっくり来るように感じています。
また「鉤」ではなく「鈎」の文字があてられていることも多いです。
長さは全長で約1メートル、80㎝くらいの大きさにしてあるタイプもあります。
重さは、せいぜい1㎏程度、複雑な形状の割りに比較的軽量に作られていました。
重量300グラム、全長90㎝程度の物であれば、実際に販売されています。材質は当時の物ではなくて現代の物なので実物より軽くて丈夫に作られています。
1本2万円くらいかな。当然ですが、刃は引いて切れなくなってます、刃が付いていたら銃刀法違反になりますからね。
ちなみに2刀流として使われる事も多い武器になります。
その場合「双鉤」もしくは「双鈎」となります。
通信販売で購入したい方や演武を見てみたい方は「護手双鉤」「護手双鈎」で検索してみましょう。
これは見た目は剣の様ですが、先端が爪のようになっていたり、バールのように曲がっていたり「ト」という形に先端から横に小さな刃がついていたり、いくつかのパターンがあります。
一番の定番はフック状になっているタイプになるかな。
持ち手の部分には外側に向かって三日月のようなナックルガードがついており、柄の先端はとがらせてあります。
ナックルガード部分は「月牙」というとピンと来る人が多いかもしれません。
文章で説明する事が難しい形状ですが、バール先をフックにした形状の刀身に、外向き三日月のナックルガード付きの柄があると思って頂ければ大体合っています。
イメージしにくいですか?
うん、書きにくい形状なんですよ。
護手鉤は鉱石などを採掘する坑道など狭い場所で使われていました。
坑道というのは大変狭い場所です。
天井も頭の上すれすれ、右も左も手を横に伸ばせないほどの狭い通路、落盤防止のための木の支えがあちこちに作られています。
掘り出す目的の物がある場所に複雑に曲がりながら伸びている道、そこを強引に一輪車や運搬のトロッコが通しているので、足場も安定していません。
こんな場所でもそこの埋蔵物を丸ごと奪ってやろうという悪党は来ますし、相手国の素材や資金、燃料の調達元である炭鉱・金鉱・銀鉱・銅鉱などを潰せれば大きなメリットになります。
海外では硝石や宝石なども掘り出されており、化粧品のパウダーにも石が使われている物がありますので、それも掘り出されています。
今も昔も鉱山ってのは結構な重要拠点ですね。
暗くて、狭くて、街中からは離れている、だけど重要な場所。そんな所の防衛策に使われていた武器です。
剣や斧などは基本的に「振って」使うため、振るためのスペースが必要です。
時代劇など建物の中で刀を抜き、それで切り合うシーンがありますが、あんなこと実際にやったら天井や壁に引っかかってしまうので、その間に刺されてしまいます。
狭い所なら「突く」しかできません。
しかし、狭い所では突くための踏み込みのスペースすら足りませんし、坑道なら足場も悪いです。
狭い所での戦いをイメージするなら、トイレの個室に等身大の人形と棒を持って入ってみれば良く分かります。
多少のスペースがあったとしても、右や左に壁があっては本当に動きにくいです。
棒で人形を叩いてみても「ズバン!」と音がなる打撃はできません、ツンツンような優しいアタックをすることになってしまいます。体重を乗せた攻撃は難しいですね。
刃物で突けばいいですが、相手の間合いに入るので、こっちが先に突かれてしまう危険があります。
護手鉤なら、僅かなスペースがあるだけでも十分に威力のある攻撃をすることが出来る上、防御にも活用することが出来ますので、そこを紹介していきます。
これだけ、狭い所を強調しておきながら、実は馬上でも、野外でも使える武器ですので、そこは最後に触れて行きたいと思います。
ね、万能って思ってくるでしょ?
◇
基本的な使い方では、先端の爪や小さな刃を相手にひっかけて引き倒します。
狭い場所で相手が這いつくばってくれたら、上から抑えるだけで簡単に立ち上がれなくなります。
相手が武器を持っていたとしても、先端部分でひっかけるか、払って先端部分で壁に押し付けてしまえばソードブレイク完了です。
相手が武器を落とすか、手放してくれればそのまま切り付けか、引き倒しにかかりましょう。
相手が武器を手放さなければ、距離を詰め、手を捻るようにして護手鉤の月牙かとがった柄の先端で殴るように攻撃します。
狭所での曲がり角などでは、相手の死角から先端部分で攻撃できますが、それでも壁や天井に引っかかるようなら最初から月牙部分で殴るように切り付けに行きましょう。
逆手に持てば、攻撃の間合いは柄の月牙の部分になります。パンチをするような感覚で使う事ができるでしょう。
先ほど、2刀流もできると触れました。狭所では2刀ではスペースも取ってしまうので扱いにくいように思われますが、狭所でも使う方法はあります。
手元の月牙ととがった柄部分でも攻撃できますし、引き倒しが狙いなので、ひっかける動作には体重をかける必要があまりありません。
「小手先」の力で初動は十分に足ります。
相手の武器を壁に押し付ける時には、自分の武器も壁に押し付けているので、じゃんけんの「あいこ」状態です。
1本なら拮抗状態になるかもしれませんが、2刀流なら勝利確定です。おもむろにもう一本の護手鉤を構えましょう。
相手は「終わった」と思うはずです。
踏み込みをせずに攻撃できるというのは、大きな強みです。
斬撃の中距離、月牙による殴りの距離、柄部分のゼロ距離と間合いを選ばず、引っかける事のバランス崩し、先端部分のソードブレイク。
これらが1つの武器で全て行う事が出来ます。
なんと多彩な方法なんだとビックリします。
この多彩な用途が、坑道などの狭くて、暗くて、足場が悪くて、という悪条件の中でも威力を発揮する事に繋がっています。
◇
この護手鉤、元は「鈎鑲」という盾に鈎というフック状のパーツを取り付けた防具でした。
この鈎鑲は敵の攻撃を盾で防ぎながら鈎の部分で、相手の武器を絡めとり、自分の攻撃を当てるためのスキを作り出すという働きをしていました。
つまり大元をたどれば盾なのです。盾の機能を維持しながら攻撃の起点にするという機能を追加した鈎鑲を発展させたものが護手鉤です。
歩兵が護手鉤を使えば、このように敵の攻撃を受け流しながら、自分の攻撃を当てるように使う事ができる攻防一体の道具になります。
たとえ相手が重装備でも、騎馬だったとしても、地形を利用して不意打ちを狙えば、ひっかけて転ばせる事ができます。
相手が転倒したり、落馬してくれれば十分に勝機はあります。
馬上でも護手鉤は有効です。
片手で手綱をにぎるので、片手で扱う事ができるという点が1つ。
片手で攻撃も防御も行えるということも利点ですし、馬上から歩兵の上半身を引っかけるように振るえば、馬の力も相まって致命的な傷を与える事も容易にできます。
戦う場所を選ばない、そして戦う相手も飛び道具以外なら何でも来いという万能武器。
それが護手鉤です。
これだけの攻撃と防御の使い方ができるという点、2刀流ができるという点、様々な場所での使用を想定できるという点。
練習でやることはとてもたくさんあります。
さぁ、使いたい方は頑張りましょう。
どっからでもかかってこーい!
っていうのが真面目にできる可能性がある武器です。
大元を辿っていくと盾に行き着くアイテムですね。
攻防一体が成立した武器の1つ。守りも攻撃もできる。
しかも双剣、2刀流が実践でも使える。
盾としても使える武器というか、防御もできる武器のひとつです。