第32回 重籘弓(しげとうゆみ) ジャパニーズ・コンポジットボウ
重籘弓 (しげとうゆみ)
滋籘弓と言う事もあったりする。「藤」じゃなくて「籘」です。
竹や木などを漆で接着して弓の形を作っていきます。
この合わせた材質が湿気などによる膨張や、経年の劣化によって剥がれてしまう事を防止するために、藤から作った皮紐を巻き付けて補強した弓です。
合成弓といわれるコンポジットボウと単弓といわれるボウ、この2つの違いは複数の材料をつかっているかどうかです。
この重籘弓は木・竹・漆・膠・皮藤などが使われています。
複数の材料なのでコンポジットボウになります。
弦の部分にも麻などを束ねた糸を漆や膠で強化したりしています。
ファンタジーの中で世界樹の枝から切り出して作った弓、みたいな物は世界樹の枝だけなので、単一の材料から作った単弓、つまりボウになります。
皮藤はラタンとか、ラタンピールとか言う名前で販売されていますね。
本体部分も漆塗りが美しく、赤や黒の上にいくつも巻かれた皮藤がコントラストになっていて、見た目にも非常にインパクトがある弓になっています。
時代劇とかでも背景に置かれているとついつい目が行ってしまう、芸術品とも言える弓です。
◇
この重藤弓ですが、弓自体の長さでなんと170㎝を超えます。
大きいものでは200㎝を超えている物も存在しているくらいです。
使われていた時代は室町時代~江戸時代、日本人の平均身長が今よりも小さかった事を考えると本当に大きい弓でした。
ですが、使われている材料のほとんどは植物由来の物であり、これだけの大きさにも関わらず、重さは200~300グラム程度に収まっていました。
日本の弓の事を和弓といいますが、これは世界的に見てもかなり大きな物です。
比較的小柄な日本人が大きな弓を扱う姿、芸術的に感じます。もちろん、威力もすごいんです。
日本は弓だけではなく、矢も大きく長い物が使われています。
長い分重いので、射程の面では比較的短くなってしまいますが、これが高い攻撃力を生み出しています。
イギリスのロングボウ長さ150㎝~180㎝、重さ600~800グラムとの比較実験があります。
人体を模したジェルブロックを用意して、同じ距離からジェルブロックに矢を放ち、どれくらい貫通するかという実験です。
ロングボウが貫通25㎝という記録を出した距離と同じ距離、それと同じ距離から放たれた和弓の記録はなんと、貫通30㎝になりました。
ロングボウよりも深々と突き刺さったというわけです。
この繁籘弓はネットて画像を見る限り、馬上で的を次々と射って行く流鏑馬にも使われていることがあります。
発射距離が的と近くなるという状況ではあるものの、ここで使っている矢は先端が丸まっているものなのです。
それでも、的の砕け方からすごい力が矢に伝わっている事が分かります。
◇
補強のための藤を巻いた工夫でしたが、威力や見た目が良く、後に武家や大名の持つ弓を指すようになりました。
藤を巻くという方法は流派や時代によっても変わっており、藤を巻く場所とその数、藤を巻く回数などが決まっていました。
巻き方については、五曜や九曜、三十六禽、二十八舎などの縁起や占いによってその家や場所ごとで決められていったようです。
巻いたと簡単に言っていますが、これはとても根気がいる作業です。
皮藤の紐の幅はなんと1~2mm、これを切れる寸前とも言えるほどの強い力で引っ張りながら巻きますが、どうしても僅かに歪んでしまいます。
この僅かな歪みも、1周り巻くたびにコテやヘラを使ってまっすぐに整えていきます。
歪みも無く、隙間もなくピッタリと強く神経を使いながら巻いて行って、最後を締めて強く結び、接着剤で補強します。
今でこそボンドなどですが、以前は膠や漆、速乾性もなく手荒れなどもしやすかったでしょう。
僅かな隙間もなく、手でこすっても動かず、引っかかりが無い事を確認して、ようやく1か所を巻き終えた事になります。
大体1本の弓にたいして60か所前後を巻くので、あと59回これを繰り返します。
そもそもベース部分も木や竹を弓の形に切り出して、ピッタリ合わせて漆と膠で張り合わるという、巻く前でもすごい手間がかかっています。
日本人の根気や技術ってすごいですね。
これだけの職人の技術を作って作られた弓ですから、重籘弓を使う方も容易ではありません。
現代でも流派によっては免許をとっていないと、使う事を許されないほど位の高い扱いをされています。
持つからには生半可な覚悟や腕は持っていない、持つに値するほどの人物でなければならない弓です。
武家や大名を象徴する扱いになるのも、当然といえるでしょう。
やぶさめー!
技術面のクレイジー・ジャパニーズ・ピーポーなアイテムですね。
巻く数は全部違うといえるほどに種類があるので、当然少ない物も、何でこんなに!? という沢山な物もあります。
リクエストありがとうございます!